百年の恋も冷める瞬間
アルバはいったい何者なのか。
興味本意で人を知るとどうなるんでしょう。
「それデハ!第一回、アルバ王ファンクラブお試し講義を開催いたしマス」
「お、おー……」
王城図書室の一角、何やら講義スペースみたいなところで、スクリーンまで使ってアルバについて講義を受けることになった。こんな騒いで大丈夫なのか?図書室って静かにしなきゃいけないんじゃ……?視界の端に『サイレントスペース』という個室が目に入る。……ああ、静かなのがいい人はあれを使うのね……俺も使っていいのかな、あれ。や、今はいいけど。
「良いデスか、シュウイチさん。始めマスよ」
「ああ、うん。全然始めてもらって大丈夫」
「デハ早速。マズはアルバ王の誕生にツイテお話シマショウ」
え、そんなとこから?成る程、このペースでは平気で三時間行くわけだ……まあでも、アルバの話は気になる。ただでさえ、なんか色々と不思議なヤツだし。ここのヤツら、みんなそうなんだけど、特にアルバは。
「えー、マズ、アルバ王は人ではありません」
「え?」
「御存知ナカッタデスか。講義のしがいがアリマスね。彼ハ、植物類の精霊の仲間デス。どの種類ト尋ねタラ、桜か菊、曼珠沙華辺りデハないかと仰いマシタ」
「せ、精霊って……」
「エエ、初めのウチは信じラレナイのもムリはないデス。彼は見た目、人間と変わらナイですカラ。しかし、王城ニいれば、イヤでも気付きマスよ。彼は我々と違う種族ダト」
「なんでなんだ?」
「……フム。少々、考エテみてクダサイ。昨日、今朝と、アナタはアルバ王と過ごしマシタ。羨ましいコトです。私も今度デートに誘ってシマイましょうカ。さて、何か違いニ気付きマセンでした?」
「違い、か……」
今までのことを思い返す。印象深いのは、やっぱり、性別がないと言っていたこと。それから、今朝卵焼きを食べてなかったこと、未来や人の心を見通すような言動、だろうか。そういうとこ、ちょっと恐いんだけどな。見透かされてるみたいで。
「性別がない、とか、卵焼きを食べない、あたりかな。あとはなんか、人の心とか未来が、いろいろ見えてるっていうか……」
「シュウイチさん、中々の観察眼デスね。それらはスベテアルバ王の持つ特性によるモノです」
「特性?」
「エエ。先程言った通り、属するとシタラ植物の方デス。だから、彼は、性別が一定セズ、動物性の食べ物ヲ好んで採りマセン。ひとまず食虫植物デハないと推測されマスね」
「ん、でも野菜とか食べるなら共食いになるんじゃ……?」
「そうデスね。デモ、植物は基本的に、自分達の落トシタ葉や枯れた茎デ栄養した土から養分を貰いマスシ、種も自ラの栄養を吸い取って成長シマスから」
「あ……そ、そっか。元々植物から植物への栄養サイクルなのか」
「デスね。それに、アルバ王ハ元人間ですカラ」
「は!?」
さっきまで散々植物の仲間だって言ってたじゃん!も、元人間って……!?
「コチラの絵本ニモなってイル通り、アルバ王ハ人間から今の姿に生まれ変わったのノデス」
「……はー……」
「ついてイケナイですか?この国では割と共通認識ダッタリします。こんな絵本が出るくらいデスからね」
「んー……、いや、でも、うん……普通の人間じゃ、ないよな、やっぱ。アルバみたいに、凄い、なんか……遠くを見てるっていうか、未来を見てるような感じの人って」
「確カニ……植物的特性ニより、沢山の記憶を受け継ぐコトが出来るノモ、アリマスが、私、個人的には、アルバ王の先見の明、そして現在ノ性格は、人間だった頃から持ってイタのでは?……と、考えマス」
「人間だった頃から……」
そうか、そうだよな。人間だった頃があるなら、その頃から持ってた性格や才能だって……ん、ちょっと待てよ?ってことは……
「あれ、アルバって何歳?」
「フム。この国ト共に年を取るト仰ってマシタね。それならば、今、416歳程デショウカ」
「よんひゃ……」
想像以上の数字が来た。えー、俺と何歳差だよ。ってことはアルバはロリババア……違うな、ショタジジイ……これも違うな。仙人とか魔女とか、そういうアレだ。あ、精霊か。なんか、なぜかわからんが微妙にショックだ……
「他にアルバ王ニついて聞きたいコトはアリマスか?私、ファンクラブ代表として語りたい気持ちでイッパイでゴザイます」
「え、ええと……」
どうしようか。ここに来るまでは、いろいろ聞きたかったんだよな。人じゃないとか、年齢とか言われて正直揺らいでるけど、でもやっぱ何か聞いといたがいいかも。ええと、アルバについて……
「……アルバの、好きなもの、とか」
「好きなもの。食べ物デスか?」
「んー……なんだろ、俺、アルバのこと全然知らないからな……とりあえず、なんでも」
「デハ、いくつか例示。好きな飲みもの、パイナップル100%のジュース。好きなお酒、パインで作るサングリア。好きなフルーツ、パイナップルそのもの。好きな花、サンフラワー、ひまわり。好きな色、赤。好きな季節、夏。好きなもの、国民の笑顔、フォルテフィア。だそうデス。いかがデスか?」
好きな花、自分の代表花じゃないんだ。桜とか菊とか曼珠沙華って言ってた割に。っていうかパイナップル好きすぎだろ。夏の申し子みたいな好き嫌いしてるな。
「アルバのやつ……夏野菜カレーとか、好きそうだな」
「恐らく、作ったら喜びマスね」
「うん、なんか、贈り物とかするときは……参考にするよ」
とりあえず、アルバの好きなものが聞けただけでも収穫かな。そのうちどうせお礼はしようと思ってたんだし。イヤゲモノ扱いは避けたいしな。
「なんだか、元気ガないデスね。どうかシマシタか?」
「あ、ああ、いや……、俺って、アルバのこと、全然知らないんだなって思ってさ。いや、来たばっかだから当たり前なんだけどさ。……これからも長く世話になるのに、そういうのって良くないなって……」
「シュウイチさん」
びしっ、と額の前に指を差される。え、なに、何?
「私、ただいま大変、アナタを羨んでオリマス」
「え、なんで?」
「ナゼト聞かれたら、お答えシマショウ。私、アナタがコレカラ、アルバ王について知れる喜びを、沢山持っていることが、とても羨ましい。ナニも知らないところから、知っていくノガ、一番楽しいトコロです。アナタは今、一番楽しいトコロの入り口にイルのです。私ナド、もはや既存資料は調べ尽くし、もう語るコトしかデキマセンので」
「……ポスト……」
これから知っていくのが一番楽しい、か。そんなポストの言葉は、なんとなく、自分によく馴染むような気がした。……当面は、他に知りたいことが出来ないなら、アルバのことを追いかけていてもいいのかもしれない。それがきっと今、俺の、とりあえずやりたいこと……なんだろう。でも、この胸に引っ掛かる違和感はなんだ?楽しいとは、なにか違うような……?
「しかし、そうナルと、楽しみをコレ以上奪ってはイケマセンね。シュウイチさん、今日はアナタと沢山お話デキ、楽しかったデスよ。講義は終わりデス。ここから先は、アルバ王から直接知ることが、きっとヨロシイ」
「ああ、うん。アルバと、またいろいろ話してみるよ。ありがとな、ポスト」
「イエイエ。デハ、またの機会に」
こうして、最初で最後のアルバ王ファンクラブお試し講義は終了したのだった。
*ポストの追伸
「あ、ソウソウ、シュウイチさん。一個ダケ、早くお知らせシテタ方がよいノデ教えておきマスね」
「ん、ああ。なに?」
「アルバ王ハ、毎日、国民の誰かを代表とシタ異なる身体特性を持ちマス。昨日ハ片目が見えてオラズ、今日ハ片足が動イテなようデス。城内にいる者ガ手助けを要求されるコトもありマスので、お知らせしマス」
「……そりゃ、マジで人間業じゃないな……」
「エエ。マサしく神の御業デス」
ポストと別れ、アルバの待つ執務室へと歩く。悶々と掴めない、形のないもやもやが心の中に溜まっていった。なんだろう、この形のない不安は。……俺はまだ純粋に、アルバを好きだと言えるだろうか……?




