異端恐怖症
日本人は異端恐怖症を患ってると思います。
違ってるのが怖い、違ってることでいじめられるのが怖い、違いを理解されないのが怖い。
そればかりに囚われて自由にしゃべれないのは、異端恐怖症と呼べますね。
ポストと別れたあと、アルバが俺を待っていると聞いた。どうやら、手続きが終わったらしい。執務室へ入ると、真面目な顔をしていたアルバがすぐに笑って顔をあげた。
「いらっしゃい、シュウイチ。来てくれたんだね。どうぞそこのソファにかけて。無事キミの入国手続きが済んだから、給付すべきものを渡そうと思って」
高い声、若々しい見た目、……愛嬌。改めて見ても、とても400を越えているとか人ではないなどとは思えなかった。けれど、そう認識してから改めてアルバを見ると、少しゾッとした。これが違うってことなのか。もやもやの正体が姿を表し始めていた。
「はい、これ。スマートホンが使いやすいようだったから、一番近い型の端末にしてみたよ。この中にキミにとって必要な情報がすべて入るから、なくさないようにね。一応、国全体のバックアップはあるけど、データが大きすぎて探すのすっごく時間かかるから……」
「ああ……ありがとう」
「キミには昼間、現物で渡したけど、今は八割ほど電子金貨に統一されていてね。電子端末を何らかの理由で使いたくない人以外はこちらを利用しているんだ。お釣りと領収書のデータを入力するから、現物と領収書は返却してね」
昼間の釣りと領収書を渡し、小型の端末を受け取る。確かに使い心地はスマホと変わらないようだった。しかし、日付がフォルテフィア歴416年だ。こんな風に見慣れない数字が微妙に並んでると、どこかおもちゃのようだ。
「よし、これで用事は終わり。今日は、カケルとポストと仲良くしてたんだって?スイトとライムから聞いたよ」
「ああ。……カケルも、ポストも、スイトさんも。みんないい人だな」
「でしょ?彼らもボクの愛する国民だもの。この一月くらいは、彼らと一緒に思いっきり好きなことをして自由に遊ぶといいよ。そしたら、きっともっと仲良くなれる」
「そりゃいいな」
「そういえば、今日はなにして遊んでたんだい?」
「えっ……、あー、あーと……」
やべ。アルバ教室に参加してたとかバレたら、ちょっと俺ストーカーチックで気持ち悪いって思われない?大丈夫?考え込んでいると、アルバは笑った。
「言いたくないことなら、言わなくて大丈夫だよ」
「や、言う。言うから……え、ええと。二人とはいろいろ喋ったよ。店のこととか、食事のこととか、アルバのこととか……」
これくらいの表現なら大丈夫か?嘘は言ってないし。うん。嘘をつくのは悪いことだって習ったもんな。
「ボクのこと?」
アルバは驚いた表情を見せる。
「う、うん。と言っても、好きな花とか、食べ物とか、そんくらいだけど……」
「ははっ、なんだか照れるね。じゃあ、ボクの生い立ちも聞いたのかな」
事も無げにアルバは言う。
「……聞いた」
「そう」
アルバは少しの間黙って、そしてこう言った。珍しく、笑っていなかった。
「……聞いても、いいかな。キミは、それを聞いて、どう思った?正直に聞かせてほしい」
「ど、どうって……言われても」
どう、という曖昧な聞き方は苦手だ。思考回路を示せばいいのか、気持ちの中身を示せばいいのか分からない。
「ああ、ごめん。曖昧な質問をしちゃったね」
困っていると、アルバがソファに座る俺の目の前に来て、祈るように膝を折り、両手を俺の手に添える。アルバの目はこちらをまっすぐ見据えていた。
「ボクのことを、前よりも遠く感じた、近く感じた、好きになった、嫌いになった。気持ち悪いと思った。相容れないと思った。なんでもいいんだ。例えそれが、マイナスの感情でも。……出来たら、教えてくれると、嬉しいかな」
アルバの顔は笑っていた。いや、よく見たら、そういう風に見えるだけだった。取られた手は震えていた。だけど、そんなアルバのことを、俺は心底理解できなかった。
「俺は……、アルバのこと、凄いやつだと思ったよ。……正直、今まで生きてきて、あんたみたいなヤツに会ったこととか、ないし。でも、今はなんか、すべてにおいて理解を越えてるって言うか……ちょっと怖い、かな」
一瞬、アルバの笑顔が凍りつく。が、すぐに気を取り直しアルバは言った。
「……そうか。正直に話してくれてありがとう。礼を言うよ。キミのように、外部から来た人の視点は、中々聞くことができないから。……国民は、ボクがいることが当たり前だと思ってる人が多い……そうなるように国全体で仕向け、教育しているからね。社会と言うのは、そうしないと成り立たない部分があるから。でもその中にだって、キミのような感想を持つ子がいるかもしれないってことを、ボクは忘れず肝に命じていなきゃいけないんだ」
どこか呟くようにアルバは言った。そして、口の端を無理矢理歪め、笑ったように見せた顔で俺に退室を促した。このとき、俺はそれに気づいていなかったけれど。
「さて、来室および報告ありがとう。明日も早いだろうし、もう休むといいよ。……ボクはまだ少し、公務が残っているから」
「あ、ああ。じゃあ……」
なんとな勝手にく気まずい雰囲気を抱えたまま、俺はその部屋をあとにした。
*シュウイチが去ったあとのアルバ
「怖い……か。当然だよね。ボクは、もう人ではないんだもの。どれだけこの身を削り、生命を削り、人間のため尽くそうとも……ボクは人ではない。もう、王なのだから。見返りなど求めてはいけない。心にも、物にも。ボクは人でなく、そのうえ王であることを求められているのだから。王になるため、人であることを捨てたのだから。人は、人でないものを恐れる。彼らがボクを恐れるのは、ごく自然なことだ。頭では分かっている。自然の摂理として、理解できる。……なのにどうして、こんなに悲しいの?涙が零れるの?ボクの心も身体もすべて、王たるために生まれ変わったはずでしょう?民に恐れられるのは、良き王ではないということ……?ああ、もっと考えなくちゃ。王は考えるのが仕事だ。海辺の砂浜の一粒くらいの可能性ですら等しく包括して、すべてを背負い担うのが、ボクの仕事なんだから……それがボクの生きる条件であり、役割なのだから」




