第11話 妹と彼女たちと
試験があるので、更新が滞ってしまいました。
申し訳ないです。
俺が意識を取り戻してからひと月が経ち、退院を迎えることとなった。
この1ヶ月、精力的にリハビリに取り組んだおかげで、体力や筋力は入院以前と比較しても遜色ないレベルまで回復した。
朔夜は学校が終ると、毎日お見舞いに来てくれて、ありがたい限りであった。
「にい、退院おめでとう。」
退院する今日は平日で、朔夜には学校があるはずだが、朔夜は学校を休んで病院に俺を迎えに来てくれた。
そんな朔夜と一緒に数カ月ぶりの我が家へと帰宅する。
久しぶりの自室であるが、特に変わったところもなく、帰ってきたことを自覚させてくれる。
ちなみに、家には両親も祖父母もおらず、入院中、俺が目を覚まして以降に1度顔を出しただけである。
「お昼ご飯何食べたい?」
部屋で荷物を片付けていると、朔夜が部屋に入ってきた。
病院を出たのが10時頃だったので、ちょうどお昼時の時間になっている。
「よし、久々に俺が作ろう!」
「ダメ、にいは安静にしてる。」
「退院したのだから、そんな心配しなくても大丈夫だって。それに、病院食って不味くもないけど、美味くも無くて、退院したら自分で好きなものを作るって決めてたんだ。」
「むー、にいがそこまで言うなら仕方がない。」
朔夜からの許可も出たので、ささっと荷物を片付けキッチンへと向かう。
冷蔵庫の中を確認すると、肉に魚、野菜ときちんと揃っており、これならばいろいろな料理を作ることが可能である。
ここ最近は肉中心の生活を送っていたので、醤油の自作もしたので、出来れば魚の煮つけなどを食べたいところである。
「何作るの?」
「魚の煮つけにしようかと。最近肉ばっかだったし。」
「肉?にい、一昨日病院ではあまり肉が出ないって嘆いてなかった?」
「えっ?」
エプロンをつけ、俺の手伝いをしようとキッチンに来た朔夜に不思議そうな顔をされた。
そういえば、一昨日朔夜とそんな会話をした記憶がある。
でもなぜか、俺の中では最近ずっと肉中心の食生活を送っていたように思えて仕方がなかった。
あれ、俺いつ醤油を自作なんかしたんだっけ?
「……?」
「にい、どうしたの?顔色悪いよ?やっぱり、休んでいた方がいいんじゃない?」
「いや、大丈夫、うん、大丈夫。」
朔夜にはそう言ったものの、俺は気持ち悪さでどうにかなりそうだった。
それというのも、目を覚ましてからずっと記憶が混濁することが多かった。
金髪の女性が病院にいた時には、なぜかわからないがずっと目で追ってしまったり、テレビでバニーガールが移った時にも画面に釘付けになった。
俺のそんな様子を見た朔夜は機嫌をすこぶる悪くしていた。
別に俺は金髪の女性が好きだなんてことはないし、ウサ耳が好きというわけでもない。
しかし、それとは関係なく金髪やウサ耳を目にすると、何か大切なことを忘れているような気がしてならず、ついついそちらに意識が行ってしまう。
「っし、気を取り直して煮つけ作るぞ。」
気合を入れなおす。
きっと、入院生活が長かったせいで、気持ちがナイーブになっているせいだろう。
それと、2ヶ月近く眠っていたことも記憶の混濁に拍車をかけているに違いない。
自分をそう納得させ、冷蔵庫から赤魚を2尾取り出す。
魚に包丁を入れ、煮込みやすくなるようにする。
鍋を取り出し、そこに水と酒を入れ、一煮立ちさせ、砂糖、塩、醤油、みりんを入れて味を調える。
そこに魚を投入し、しばらく煮れば魚煮付けの完成だ。
その間にほうれん草を茹で、胡麻で和えてほうれん草の胡麻和えを作った。
白米は朔夜が家を出る前に焚いていてくれたので、後は魚に味が染み込むのを待つだけだ。
味噌汁も欲しいと思い、冷蔵庫からわかめと豆腐を取り出し、味噌汁の具材にする。
主食に白米、主菜に赤魚の煮つけ、副菜にほうれん草の胡麻和え、汁物にわかめと豆腐の味噌汁、純和風な昼食の完成だ。
朔夜と2人で出来た昼食を食べる。
うん、美味い、自分で腕を振るったかいがあるというものだ。
「にいは相変わらず料理得意だよね。私もにいのためにいろいろ作れるようになったけど、にいにはかなわない。」
複雑そうな表情で朔夜は箸を進めていく。
朔夜も料理は出来る、それも同年代の女の子からしたらかなりの腕前である。
しかし、俺は海外での遺跡探索の際日本食が恋しくなることが多々あり、自分の欲求を満たすために試行錯誤していたら、いつのまにか家で一番料理が上手くなっていた。
「料理は俺の趣味と実益を兼ねているからな。」
「私もにいに負けないように頑張らないと。」
我が妹は俺の世話をすることに生きがいを感じているらしいので、家事関係で俺に負けることを良しとしないのだ。
そんな妹と2人で取った昼食を食べ終え、片付けは朔夜がやると言って聞かないので任せ、俺は自室へと戻る。
自室に戻り、最近風呂にもあまり入れていなかったことを思い、風呂に入る準備をする。
入院中は週2回しか風呂に入れなかったのだ。
「朔夜、俺は風呂に入るから。」
「ん、わかった。」
キッチンで後片付けをしている朔夜に一言声をかけ、風呂場に向かい風呂に入る。
ちなみに、家の浴槽は無駄に広く、5人程度なら問題なく一緒に入れる大きさである。
「ふはー生き返る。」
命の洗濯とはこれまさに、ゆったりと体を伸ばし、湯船に浸かれるこの贅沢、最高である。
「にい、背中流すよ。」
そんな俺の楽しみを奪うかのように、朔夜が浴室に入ってきた。
もちろん何も着けずに。
朔夜の体型は背丈もそんなに高くなく、中3にしては若干子供っぽいともいえる体型であるが、胸もほんのりと膨らんでおり、決して女らしくないというわけでもない。
学校では生徒会長も務め、成績も良好、部活は弓道部に所属しており、今夏の大会では関東大会まで出場した実力者(全国大会にも進める成績を残したが、全国大会の会場が関西であったため、俺の見舞いに行けなくなるという理由で辞退したらしい)でもある文武両道を兼ね備えた女の子である。
そして、母に似て容姿もよく、俺が中学に在学していた間だけでも二桁は告白を受けていたように思われる。
そんな妹が裸で俺の入る風呂へと突入してきた。
もちろん今回が初めてではなく、大体週に1回は一緒に風呂に入ろうとする。
「朔夜、前から言っているが、俺が入っているときに入ってくるな。」
「にいになら見られても問題ない。」
「問題大有りだ。」
「ない。にい、背中流すからこっち。」
俺の言うことなど意に介さず、自分の前を指さす朔夜。
「だから、まずいだろ。」
「いいから、こっちにくる。」
「いや、な?」
「にい、あれだけ心配かけたのに、私の言うこと聞いてくれないの?」
「うっ…」
そう言われてしまうと、反論しづらい。
朔夜に心配かけたのは事実だし、入院中はかなり世話になった自覚がある。
「にい、早く。」
急かすように手招きしてくる。
「わかったよ、今日だけだからな。」
今日ぐらいは朔夜の言うことを聞いてもいいだろうと思い、湯船を出て朔夜の前に座る。
「背中だけだぞ。」
釘をさすことは忘れない。
以前、一度だけ背中流すことを許したことがあるのだが、その時は背中から抱きつき、俺の息子に手を伸ばしてきたのだ。
「…にいがそういうなら、今日は背中だけで我慢する。」
後ろでシュコシュコッっと、ボトルからボディソープを出す音が聞こえてきた。
少し間を置き、背中に柔らかいものが触れる。
その柔らかいもので、俺の背中が洗われていく。
時折、背中に朔夜の吐息がかかりくすぐったい。
なんか、前にもこんなことがあったような気がする。
あの時はたしか、胸で洗ってくれたような…
「ちょっと待て、朔夜何で洗っている?」
「私のおっぱい。気持ちいいでしょ?」
「いやいや、いろいろと不味いから、俺とお前は兄妹だから。」
「おっぱいで洗うくらいなら平気。なんなら前も洗うよ?」
「お前はほんと、何言ってんの?シーナとフランだってそこまではしなかったぞ!?」
前に背中を胸で洗ってもらった時には、彼女たちの恥ずかしさもあり、前まで洗う勇気はないようだった。
しかし、この妹は恥ずかしげもなく前を洗うと言ってくる。
羞恥心くらい持って欲しいものだ。
「にい、誰その女?」
朔夜の動きが止まったと思ったら、冷淡な声が聞こえてきた。
「シーナさんにフランさん?外人さんかな?にいはいつの間に外人さんとそんなことするようになったの?」
朔夜の腕が俺の体に巻きつき、お腹のあたりを締め上げる。
「にい、聞いてるの?」
妹がめっちゃ怖い。
「あの、朔夜さん、痛いのですが?」
「にいが答えるまで離さない。いいから答えて。」
「何を!?」
「その女の居場所。二度と私のにいに近づけないようにしないと。」
「居場所って…どこにいるんだ?」
またあの気持ち悪さが込み上げてくる。
自分の口から出たシーナとフランという人物、俺にはそんな知り合いはいない。
ましてや、一緒に風呂に入るような仲の人物ならなおさらだ。
「にい、早く答えて。」
ギリギリと腕に更なる力がこめられる。
「シーナにフラン?他にも…」
あと少しで何か思い出せそうな気がする。
金髪の2人に、ウサ耳の女の子、それに、日本人然とした娘。
「他にもいるの?にい、私に隠れて彼女作ったの?」
朔夜が何か呟いているが、今の俺にはそんなことは気にならない。
あと少し、本当にあと少しでこの気持ち悪さの正体がわかる。
「リア?花凛?」
ふと、頭に浮かんできた名前。
頭が割れるように痛い。
「ふーん、リアさんに、かりんさん。日本人もいるんだ。で、にいとどんな関係なの?」
「どんなって…」
どんな関係だったんだろうか、そんなこと俺が知りたい。
「もしかして、もう結婚の約束とかしてないよね?」
「結婚?」
朔夜の放った結婚という言葉に引っ掛かりを覚える。
結婚まではいかないが、それに近しい絆があった気がする。
「結婚の約束までしたんだ。」
「いや、違う。まだ婚約者になっただけで…あれ?」
自分で口に出しておきながら、首をかしげる。
朔夜の抱きしめる力は相変わらず強く、お腹がつぶされそうだ。
「で、誰と婚約したの?」
「誰って、シーナとフラン?」
そうだ、俺には婚約者が2人いた。
まだ出会って数か月程度だが、大切と思える人たち。
リアは俺の奴隷で花凛は俺の娘だ。
「よし、そいつら殺そう。」
妹が何やら物騒なことを呟いている。
うちの妹にはヤンデレの素質があるみたいだ。
「で、にい、そいつらどこにいるの?」
俺は彼女たちのことを思い浮かべる。
瞼に映し出される彼女たちの姿。
ゆるふわの金髪の髪をしたシーナ、色素の薄い金髪を短く切りそろえたフラン、白髪のストレートロングにウサ耳のリア、ブラウンの髪をした花凛。
俺は彼女たちと一緒に旅をし、遺跡の探索をしていた。
早く彼女たちの下に戻らないといけない。
でも、どうやれば戻れるんだろうか?
今彼女たちがいるのは塔の最上階だ。
ここは春野家の浴室。
そこから塔に行くにはどうすればいいのだろうか。
何かヒントがあったはずだ。
「…空間転移魔法?」
頭に浮かんできた言葉はそれだった。
「そうだ、俺はそれを覚えるためにYESを選択したんだ。」
すべて思い出した。
なら、さっさと戻らないと。
これが試練なら、空間転移魔法で戻れるはずだ。
「にい、いや、春野水月さん。」
後ろの妹の声色が変わった。
それは今まで聞いたことのない声だった。
後ろを振り返ると、裸の妹はいなくなっており、見たことのない女性がそこにいた。
俺も裸から、黒いジャケット姿に変わっていた。
「もっと行きたい場所のイメージを高めてください。」
黒髪の女性の言葉に従い、智の塔の最上階、和室の隣にあったラボを思い浮かべる。
「ふふっ、あなたは素質がありますね。いいでしょう、私の魔法を授けます。」
体が眩い光に包まれる。
この感覚ももう何度目だろうか。
「春野さん、あなたが元の世界に戻れることを願っています。」
その言葉を最後に、俺の意識は靄に包まれた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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