エピローグ
アーチ型の天井には天使のフレスコ画が描かれていて、正面のステンドグラスは複雑な花文様が施されている。
オルレアはウィリアムの腕に手をかけて、ゆっくりと主廊を進む。
ミルドレッドに助言を受けながら誂えたレースが豪奢なウェディングドレスを纏うオルレアは晴れやかな気持ちで、十六歳の時に抱いた不安や重苦しさを微塵も感じなかった。
ふと隣を歩くウィリアムの横顔を見上げれば温かな黒青色の視線と絡んで、誤解がとけて互いの気持ちを確認してからの半年間を思い出す。
ブラックオパールと琥珀は髪飾りとクラバットピンに仕立てて、数え切れないくらい身に着けて二人で夜会に出席した。
双子へのウィリアムのお土産は機関車の模型玩具で大喜びした二人の心をあっという間に掴み、ジェイコブは少し苦い顔をしていた。
そのジェイコブが作成した婚約誓約書をウィリアムから〝実は〟と見せられたが、スティールの綴りの最後のeが無く、不備により効力のないものだった。〝自分の名前を書き間違えることはあり得ないからスティール卿は俺の覚悟を試しただけじゃないかな〟とウィリアムは笑ったが、オルレアは看過できなくてジェイコブを責めた。が、はぐらかされた上にミルドレッドの〝愛されているわね〟という参戦もあって早々に諦めざるをえなかった。
マーグレス侯爵夫人は大きなお腹を抱えて参列してくれている。傍らにはぴったりと侯爵が寄り添っていて、妻ともうすぐ生まれてくるお腹の中の赤ん坊を心配している。あの夜会で会った時には既に侯爵夫人は妊娠していて、気分が悪くなったのは人酔いではなく悪阻だった。
ゼッタリング辺境伯は――。
一時噂されたヴィクトリアの妊娠説は誤りと判明して以来、社交界で二人が話題に上ることは少なくなった。しかしアラスター経由でウィリアムから〝近々結婚するようだ〟と聞いた。オルレアは〝そうなのですね〟とだけ返した。
あの貴族名鑑は早々に送り返すと〝受け取った〟とだけのロバートの署名がされた返事が届いてオルレアは驚いたものの、それを書いたのが本当に彼なのかはわからなかった。
祭壇の前まで来るとオルレアは感傷をやめて、司祭の言葉に集中する。
「ウィリアム・レスター 。あなたは健やかなる時も病める時も、オルレアを愛し敬い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います」
ウィリアムの瞳はオルレアだけを映して、高らかに答えた。
「オルレア・スティール。あなたは健やかなる時も病める時も、ウィリアムを愛し敬い共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います」
オルレアの唇は少し震えてしまうが、懸命に言葉を紡いだ。
「では、誓いの口づけを」
ウィリアムが丁寧にオルレアのベールを上げる。
今この瞬間さえ、夢のようだ、と伝えれば彼は何と言うだろう。
そっと指先で頬に触れられて、瞳を閉じれば柔らかく唇が触れ合った。瞼を開ければウィリアムに甘く微笑まれて現実であることを実感してオルレアも微笑み返す。
歓声の中二人を祝福する鐘の音が三回鳴り響いて、雲一つない青空に吸いこまれていった。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました
次回作は、7月10日(金)夜に短編を投稿予定です
今作とは無関係の作品で、婚約破棄を題材にしていますが、一般的な「ざまぁ」作品ではありません
ご興味がありましたら、ぜひよろしくお願いします
本作を見届けてくださり、心より感謝申し上げます




