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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第十九話・領主の娘、再び


 また中二階の席に案内された。


ここは店の中が全部見渡せるからヨシローの定位置なのだろう。


丸いテーブルに八人は座れる椅子。


「ごきげんよう、皆様」


今日はそこに先客がいた。


「ケイトリン様、こんにちは。 どうされたんです?」


ヨシローは軽く挨拶をしながら領主の娘の隣に腰掛け、皆にも座るように勧めた。


「ええっと、ヨシロー様がいらっしゃるかと思って、いえ、経営者として確認に」


本音が駄々洩れの令嬢である。

 



 皆が座るとヨシローが宣言する。


「何にする?。 何でも美味しいよ」


ヨシローが協力しているのだから、こちらの世界のものより元の世界に近いのだろう。


その世界が僕の世界と同じとは限らないが。


 喫茶店は初めてらしいガビーが戸惑っているけど、お品書きは無いのか?。


まあいいや。


「ヨシローさんのおススメでお願いします」


僕はガビーの分も一緒に注文した。


「私はいつもので」


ティモシーさんは常連らしい。


「了解」


ヨシローは店員を呼ばずに自分から立ち上がり、注文を伝えると戻って来た。


先日はゆっくり食べられなかったから今日こそは味わって食べたいと思う。




 前回は紅茶だったが、今回はまず緑茶が出て来た。


そういえば、ワルワさんの家でも紅茶ではなく普通の緑茶だったな。


元の世界でも外国では最初に水は出て来ない。


無料ではないのだ。


「アタトくんは普段どんなお茶を飲んでるの?」


ヨシローはお茶に関して興味があるらしい。


「村にいたときは薬草茶でしたが、今は手元に無いので白湯です。


今日は茶葉を買いたいと思っていましたけど、ヨシローさんから昨日たくさん頂いたので」


しばらくは買わなくて済むと思う。


「緑茶も紅茶もこの町の名産品なんですよ!」


ケイトリン嬢はヨシローの隣で嬉しそうにニコニコしている。


そういえば、町の外れに茶畑が見えた。


「特に紅茶はサナリ様から助言を頂いて作りましたの」


それは「異世界の知識の利用」とかいう規制事項には引っ掛からないの?。


ティモシーさんをチラリと横目で見るが知らん顔してお茶を飲んでいる。


騒ぐほどの事でもないということか。


 湯呑みではなくカップで、というのは不思議な感覚だが久しぶりに緑茶の香りを楽しんだ。


ケイトリン嬢がゆっくり味わっている僕を誇らしげに見ている。


その後に紅茶と先日食べ損ねたホットケーキが出てきて、甘い香りにガビーの顔が崩れた。



 

 僕は確認したいことがあった。


他の人からは見えない位置に座り、今はフードを下ろしている。


「この町でエルフの扱いというのはどうなんでしょうか?」


見たことがない、という人は多いのだろう。


それはワルワさんやティモシーさんの態度で分かる。


「そうですね」


ティモシーさんが食後のお茶を飲み干す。


「王都など主要な都市ではあまり見かけませんが、エルフ族の居住区に近い辺境地ではたまにお会いします」


ティモシーさんは教会警備隊の仕事でいくつかの町を訪れたことがあるそうだ。


この町以外でもそういう場所はあるということか。


「見かける、とは好意的な意味で?」


少し意地悪な質問に、ティモシーさんの眉がピクリと動く。


「もちろん、皆さん好意的に見ていますよ」


ニコリと笑うが本当にそうだろうか。




 僕はワルワさんにしつこいくらいエルフであることを隠すように言われた。


もうケイトリン嬢には見られているが、僕のことに関しては他言しないようティモシーさんが言い含めたと聞いている。


確かに多くの住民は見て見ぬフリをするだろう。


 ただ、人間には好奇心の強い者がいる。


自分たちとは違う種族があまりいない環境で、突然出会ったら何を思うのだろうか。


「まずは『好奇心』かな」


危険ではないのか、普通は……。


「ここは危険が日常だからなぁ」


異世界から来たヨシローの言葉には実感がこもっている。


「この町の人たちはあんまり気にしないと思うよ」


危険な魔獣の森があり、それ故に隣国からの侵入は抑えられている状況。


だから、たいていのものは魔獣より危険度が下がる。


 ティモシーさんは「辺境地だからだ」と言う。


だから、この町ではエルフ自体はそんなに脅威ではない。


僕一人ぐらいなら見逃してくれるのか。


「他の町ではまた対応は変わるだろうね」


それは『好奇心』という意味で。




 好奇心という『欲』は満たされるまで終わらない。


簡単に諦めるということが出来ない者もいる。


「興味から近付きたい、触れたい、手に入れたいと願う。


だが、それが満たされないとなると『執着心』という厄介なものに変わってしまうんだよ」


相手によってはかなり危ういとワルワさんに言われた。


「誰でもそんな対象にされたくはないだろうね」


美男子騎士様は何か身に覚えがありそうに薄く微笑む。


「そうなんですか」


僕は、領主令嬢がそういう厄介な連中の一人ではないことを祈った。




「ですが、商売に関してはご領主の許可が必要になりますよ」


ヨシローの話では、どうしても一度領主館に行く必要があるようだ。


「営業許可に必要な書類と主に扱う商品を持参して領主様に申請するんだけど」


本当は領主に直接会うわけでなく、家人に渡して許可が出るまで待つのが普通。


だけど運良く領主様に直接渡せればすぐにでも許可は下りるだろうという。


それは手っ取り早くて助かるが、そんなにうまくいくだろうか。


「大丈夫だよ。 ヨシローと私が同行するからね」


ティモシーさんが請け負ってくれる。


教会の監視下では、領主様でも異世界人であるヨシローを無下には出来ない。


「それに私も応援いたしますので」


ケイトリン嬢に応援される?。 そんなに大変なことなのか。




「本日、お父様は館におりますわ!」


「そうだね。 ちょうどいい、これから申請に行こうか」


ケイトリン嬢とヨシローが勝手に話を進める。


 僕はフードを被り直し、小声でモリヒトと話す。


『出来過ぎじゃない?』


早過ぎる展開に僕は警戒を強めた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「僕は、領主令嬢がそういう厄介な連中の一人ではないことを祈った。」 いくら強い眷属が傍にいるとはいえ、やはり安全のため自分自身の戦闘力を鍛えておく必要がありますね。
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