第十八話・朝の市場の様子
一晩泊めてもらった。
また部屋で揉めたけど、ヨシローを部屋から追い出すくらいなら庭で野宿すると言ったら居間でゴロ寝の許可が出た。
僕は居間のソファ、ガビーには床に厚めの毛布を敷いてもらう。
逆でも良かったのだが、ガビーは断固として受け入れなかった。
寝る用意をしながらガビーはヨシローの印象を話す。
「あの人は反応が少し違いますね」
「あれはああいう生き物だと思えば良い。 気にするな」
僕はそう返す。
異世界の人間の思考など、人間でもない異種族に理解は難しいだろう。
ヨシローが異世界から来たということはワルワさんがそっと教えてくれた。
だが、ヨシローの世界と僕の世界が同じとは限らないし、転移した時代も違うかも知れない。
元の姿も年齢も変わってしまった僕がいるのだから、ヨシローがそうではないとは言えないしな。
この世界ではヨシローのような者を『異世界の記憶を持つ者』というらしい。
昔から、そういう者がたまに現れるこの国では、
『異世界の記憶を持つ者が現れた場合、支援は惜しまず、更に本人が望むならば一人の住民として静かに暮らせるように見守る』
という決まりが出来たそうだ。
過度の保護や異世界の記憶を利用することは厳しく制限され、それを監視しているのが教会。
あのティモシーという騎士がヨシローに引っ付いている理由がソレなのだろう。
誰でも友達にするヨシローだし、それだけじゃない気もするがな。
翌日は早朝から市場に向かう。
タヌキはワルワさんと家でお留守番。
フードを深く被った僕に同行するのはガビーとヨシロー。 モリヒトは姿を消してついて来る。
「やあ、アタトくん。 おはよー、今日はよろしくね」
休みを取った騎士のティモシーさんが馬車で迎えに来た。
はあ、来るだろうとは思った。
「それじゃ、案内しましょう」
私服姿のティモシーさんがお勧めの店を教えてくれる。
必要なのは小麦粉や調味料といった料理で消費する物や保存出来る野菜。
後は古着屋で着替えを何着か購入。
いくら魔法で綺麗に出来るといっても普段着と寝巻きしかないのはやっぱり少な過ぎると思う。
下着は古着が無いので、布地を買って縫うことにした。
鍋や刃物類は炉が完成すればガビーが作ってくれることになっているので、今はどんな物があるのか見て回っている。
ガビーは僕が目を付けたものを必死になって紙に描き写す。
あんまり目立つと営業妨害になりそうなので、
「覚えて帰ってから図面を描けば良いのに」
と言ったら、
「忘れるかも知れません」
と、またションボリする。
邪魔臭いヤツだな。
「アレと全く同じにしなくていいんだよ。 性能が問題なんだ。 後、僕が使う場合は体格に合った大きさな」
そう言って説明したらウンウン頷き、今度は店主に道具の性能をしつこいくらい聞いていた。
まあ、作るのはガビーなので任せるけど商売の邪魔だけはしないようにしろよ。
ほら、他の客が来たから、もう止めな。
魚醤は市場には無かった。
ヨシローは漁師さんから直接買っているそうで、値段もかなり高い。
「漁師さんが個人で作ってるやつを頼み込んで分けてもらったからなあ」
ヨシローの社交性が羨ましい。
「生産を増やしていただく訳にはいかないでしょうか」
その漁師さんも自分の家でしか消費していないらしいので、増産しても売れなければ意味がないのは分かる。
「うーん。 じゃ、直接聞いてみたら?」
ヨシローがそう言うので、港のほうへ向かった。
昼食の時間に近かかったので、市場の屋台で惣菜を挟んだパンと飲み物を多めに買う。
それを持って漁師さんの家を訪ねる。
初めは警戒していた中年の漁師のおっさんも、昼食用のパンと試食用の干し魚を差し出したら、話だけは聞いてくれることになった。
「増産つってもなあ。 買うヤツがもっと増えりゃ考えなくもないが」
「無理ですか」
とりあえず小瓶一つを分けてもらえた。
干し魚を炙ってもらいながらパンを食う。
魚醤とは、簡単にいうと小魚を内蔵とともに塩漬けにし、魚が溶けて液状になったものである。
それを炙った干し魚にちょっとだけかけてもらう。
「うめえな」
驚く漁師さんの言葉に僕はニコッと笑う。
「この干し魚を市場で売ろうと考えています」
干し魚を売り、さらに美味しい食べ方を教えれば売り上げは増えると考えた。
そのためにも僕はこの魚醤が欲しい。
「では、僕が材料になる小魚を納品したら作ってもらえますか?」
この町は塩などの調味料が安い。
だが魚醤については、魚が液状になるまで腐らない工夫をしながら一年以上も時間が必要なのだ。
この漁師さんはその技術を持っている。
そこへ、奥で話を聞いていたお爺さんがこちらに来た。
魚醤を垂らした干し魚を食べている。
「こいつがやらんのなら、ワシがやっちゃる」
「お、おやじ、何を言い出すんや」
親子で言い合いが始まった。
「今まで匂いが嫌だとか魚が溶けるわけねえとか散々言われたが、美味いって言ってくれたのはヨシローと坊ちゃんくれえだ」
僕は、顔を隠してるが身なりの良いヨシローや騎士も一緒だから良いとこの坊ちゃんには見えるのか。
お爺さんの話では、今ならちょうど空いた樽が蔵にあるそうだ。
「気に入ったよ。 魚さえ用意してくれりゃあ、ワシが漬け込む」
「ありがとうございます!」
「わ、分かったよ、おやじ。
じゃ、坊ちゃん。 一樽分やってみるけんど、それはあんた方が必ず買い取るっていう契約書を作ってくれ」
「それは私のほうで用意しよう」
ティモシーさんが代理で作成してくれることになった。
そして僕は近日中に、ある程度の量の小魚を納めることに同意して交渉を終える。
再び町中に戻り、雑貨屋へ行って紙などの文房具を購入。
残念ながら本屋は無かった。
荷物は全てモリヒトに渡すと結界内に取り込んでしまうので見えなくなる。
そういう魔法なのかとあまり気にされないのはありがたい。
「疲れたよね。 お茶にしようよ」
ヨシローが先日の喫茶店に誘ってきた。
何か嫌な予感がするのは僕だけか?。




