第十七話・商売の相談に行く
一応、僕の部屋の壁には、村を出た日から七日を一列としたカレンダーもどきの石板が置いてある。
頼んだらモリヒトが作ってくれた。
日記帳代わりに、その日に何があったかを簡単に記入したり、後日の予定なんかを書き入れたりしたもの。
やっぱり人を雇うなら、きちんとした休日はあったほうがいいよね。
せめて七日に一日くらいはダラダラしても良い日を設けることにした。
ドワーフに出会ってから一週間。
ガビーのパン焼き窯も設置が完了し、鍛治炉の工事も始まっている。
ドワーフの親方が弟子を連れて毎日やって来るので肉の減りが早い。
まあ、早く仕上げてくれるそうなのでモリヒトをなだめておく。
魔獣はまた狩る機会はあると思うよ。
干し魚も焼いて渡したら、魚は今まであまり食べなかったらしく、その美味しさに驚いていた。
「あ、それは私が!」
『いえ、わたくしの魔法のほうが早いです』
何故か最近、ガビーとモリヒトが家事の取り合いをしている。
ガビーは必死に僕の世話を焼こうとするのだが、眷属で僕が産まれた時から一緒にいるモリヒトに勝てるはずがない。
まあ「働かざるもの食うべからず」なので仕事が欲しいのは分かるけど、ガビーはすぐションボリする。
「炉が出来たらイヤというほど働いてもらうから」
「はいー」
「あ、そうだ。 ドワーフも魔力があるなら魔法は使えるよね?。 暇な間に魔法の練習をするといいよ」
僕も練習中だし。
「はいっ!、鍛治用ならだいたい使えます!」
鍛治限定かい。
モリヒトがクスクス笑っている。
『魔法は魔力さえあれば誰でも使えますよ』
ただ個人差があり、種族や得意な属性などで魔力の消費量が異なる。
例えば、ドワーフ族は火系と鉱石系魔法が得意で水系は苦手。
そのため水魔法は使えなくはないが魔力消費が半端ない。
人族に関しては種族的に魔力量が少ないため、生活に密着した種火や清掃、少量の水程度の魔法しか使えない。
『それでも特別な才能を持つ個人は存在します』
それを魔法と呼ぶかどうかは分からない。
そして、その才能を把握して管理しているのが教会である。
『詳しいことは教会警備隊のティモシーさんに訊ねると良いでしょう』
ああ、あの騎士さんね。
「えっと、あの」
会話に入れなくてオロオロするガビーに、
「今度人里に買い物に行くから」
と、必要な物を書き出すように頼んだ。
「はい!」
嬉しそうに指折り数える姿は年相応の女性らしい。
必要なものが増えたので、そろそろ人里に買い物に行きたい。
ガビーが書き出した品物をモリヒトに確認してもらったら、
『部屋の装飾品は不要です』
と、ほとんど却下されてションボリしていた。
僕が欲しいのは本とか服、お茶、小麦粉くらいかな。
米や醤油はヨシローに訊いてみようと思う。
もしかしたら持ってるかも知れないと淡い期待を抱いている。
風が弱くて晴れた日。
大きな袋に試食用の干し魚や、魔魚の素材、昼飯用の干し肉を詰め込んで出発した。
タヌキは少し重くなってきたので腕から降ろし、足元を歩かせる。
短い足でチョコチョコ歩くので可愛い。
早朝から歩いて夕方近くにワルワさんの家に到着。
森にはあまり強い魔獣の気配はなかった。
「アタトくん!、この間はごめんよー」
家に入った途端ヨシローに泣きつかれ、お詫びにこの間の店の菓子や茶葉をたくさんもらった。
今日はガビーも一緒だ。
相変わらず男性の服を着ているがドワーフ族の女性であることを話す。
最初は驚いていたが、ヨシローは種族など全く気にせずにまた友達宣言していた。
「ガビーなんて呼び名は男みたいで嫌じゃない?」
二人の身長はほぼ同じだ。
ヨシローは三十歳を越えているそうだが若く見える。
十七歳のガビーと並んでも同年代にしか見えない。
しかし、ガビーのほうが筋肉はある。
「いえいえ、子供の頃からなので特に気にしていません」
ガビーの格好は工房で働くために嫌々してるのかと思ったら違うらしい。
「たまに本名で呼ばれると恥ずかしいです」
色白だが癖っ毛の濃茶の短髪に筋肉質な体型のガビーを上から下まで見回して、
「男でも可愛いのになあ」
と、ヨシローがボソッと呟いた。
とにかく、本人が嫌がっていないのでそれで良いという結論に落ち着く。
ワルワさんからは週一ぐらいでタヌキの様子を見せに来て欲しいと言われたが、月一程度にしろと交渉する。
モリヒトだけなら早いが、僕の足では町まで片道ほぼ一日掛かる。
買い物一日を含めると往復三日だ。
僕は狩りとか漁とか、魔法の練習とか、色々と忙しいので週一は無理。
「そうか、それは残念じゃが仕方ないのう」
ワルワさんも納得してくれた。
それより、今日はどうしても買い物がしたい。
「これが買いたい物だけど、どこで買えますか?」
紙が無いので石板に書いたものを見せる。
「石板重いだろ。 これ使いな」
ヨシローが見かねて紙とペンを出してくれた。
助かる。
「これもたくさん欲しいですね」
エルフの村にも紙とペンはあるにはあるが、持ち出せなかったのだ。
欲しいものばかりになってしまうので、こちらから売れる物も提案しなければならない。
「これ、見てもらっていいですか?」
干し魚と魔魚の素材を見せる。
「魚は試食用なので炙ってもらえますか」
「おう、任せろ」
ヨシローがヨダレを垂らしながら台所に持って行った。
「干し魚はこの町でも売ってますか?」
ワルワさんに訊くと頷いた。
「あるにはあるが魔魚を取れる漁師の数が少ないのと、天候で左右されるため市場に出回ることがあまりない」
ほお、それは都合が良い。
「じゃあ売り物になりそうですね。 商売は誰にでも出来ますか?。 許可が必要なら手続きしたいんですが」
「そうじゃな。 ご領主に一度相談してみよう」
そのまま夕食に干し魚が追加され、試食しながら話し合いを続ける。
「魚にはコレだよな!」
ヨシローが大切そうに小瓶を出してきた。
やはり魚醤はあった。 これも入手しなければ!。
「くーっ。 米が欲しい!」と、ヨシローが叫ぶ。
あ、米は無いのか。
実に残念である。




