巨星落つ
「やめだ! 俺は帰る」
「私も」
発言力のある三年の一部を皮切りに、二年一年が清掃道具を放棄。
その数は半数を占めた。
模範にならないといけない三年がこの様では、もう作業にならないな。
「やめたければやめれば?」
香月は黙々とゴミさらいを継続していた。
そこにはもう何時ものおしゃれなギャルはいない。
泥だらけになりながらも必死に綺麗にしようとしている少女の姿だった。
意外な姿に俺も目を見開くも、万年半開だったので運動不足が祟り目蓋の筋肉が吊った。
外野は邪魔だ。
早くご退場してくれないかな。
目撃者がいると次の段階に入りにくい。
「それが先輩に向かって言う言葉?」
「先輩というのは他の後輩に手本を示している人達の事を指しているんだよ。間違っても面倒くさがって文句垂れてやらないあんた方じゃない」
「くっ!」
正論を突かれ言葉を失う先輩A。
困った。
このままじゃ、香月をここから落とす事が出来ない。
いきなり手詰まりだな。
「あんた生意気なんだ――え?」
先輩が足を踏み外す瞬間、「先輩危ない!」香月が手を無理矢理引っ張ってバランスを取る。
「香月さん落ちるわよ!」
「香月!」
「うわああ!」
だが、間に合わなかった。
庇った香月が代わりに泥しぶきを立てて豪快に落ちる。
こんな尊い行いをした女神様には大変失礼だが、シナリオが若干変更になったけど結果的に計画通り進んだ。
プライドの高いこいつが泥塗れヘドロまみれになったんだ。
異臭の臭いもきつい。
もう、居た堪れなくてここにはいれないだろう。
「生意気な事ばかり言うからバチが当たったんだ。反省しろよ後輩」
「「「ははははっ!」」」
上級生達はオシャレ番長の成れの果てに嘲笑う。
「…………」
なにも言えずに下を向いていた。
髪の毛に付着した泥が滴り落ちた。
これで香月の心が折れるだろう。
だが、何だろうか。
この心の奥底から込み上げてくる怒りの感情は?
「お前ら恥ずかしくないの? 下級生がこんなになってやっているのにプライドはないのかよ?」
「ばかつら、もう良いよ。お前まで憎まれ役やることない」
俺とした事が思わず感情的になってしまった。
だが、人気ワーストワンは伊達じゃない。
嫌われ上等よ。
「仲間が悪かったですね。先輩にとっては講師の前だけ優等生振るのが学生の本分。こんなアピールの意味のない慈善事業は時間の無駄なんでしょう? 恥知らずめ」
「うるさい! お前ら帰るぞ」
誰が帰らせるかよ。
俺は予め準備していたロープを引く。
「うわああああ」
「きゃああああ!」
反逆者達は突如現れたロープに引っ掛かって次々と池に落ちた。
俺が作っておいた罠が役に立った。
本来の用途はそこのギャル用だったんだがな。
俺の胸がすいたから使用目的が大幅に違うが良しとする。




