全てはこの時の為
「なはは……」
「はっはっはっ」
「時期尚早だったか」
「努力します」
「そこら辺が譲歩か」
こんな勇者王の話を本気で信じられる訳がない。
俺が逆の立場でも信じられなかったろう。
それでも今は協力者が一人でも欲しい。
エドウインがもし三人いるとしたら、ただの高校生に成り下がった俺では手も足もでない。
食べ終わった一条は竹細工がお洒落なランチボックスの蓋を閉めた。
お茶を飲んで間を置き、「桂ちゃん、作戦はもう組上がっている。見るかい?」大学ノートを硬いコンクリートの床へ直に置く。
そこには事細かく、奉仕活動時ターゲットに成りうる学生達のタイムスケールが書き込まれていた。
「どうしたんだこれ?」
「ふふん、情報収集は僕の得意分野だぞ。それに元々川の件が失敗した時に備えて、奉仕活動の作戦を練っておいたのだ。これを原案にしてスケジュール立てればなんとかなると思う」
ってか、どれだけ一条は個人情報を把握しているんだ? その内訴えられるぞ。
その位、一人一人の性格をよく掴んでいた。
「これで分かっただろ。貴様に、貴様に……、何だけ?」
魔導書と言う名のカンペ『ぐりもわぁる』に目を通す一条 サラサは、「あ、そうだったのだ」納得して再び相まみえる。
「ふふ、これで分かっただろ。貴様の横に並び立つ者の名は、この世界の魔王にしてラスボスである一条サラサである事を!」
絶対にこいつ、決まった! って、胸中でガッツポーズを決めているんだろうなぁ。
現に凄いやってやった感が漂ってくる。
どや顔とはここで表現するんだなと、自信満々なパートナーのご尊顔で初めて気付いた。
「助かったよ。俺は班割りとか知らないからな」
「随分前から班決めされていたのに、プリント貰ったのどうした? 」
「誰かさんのパフォーマンスで白い液体まみれになったんだよ」
名付けて牛乳逆流事変。
「変な性癖?」
「違うわ。とてつもなくズレているわ」
「僕と楓子の班は図書館で子供達に読み聞かせ。桂ちゃんとまどかの班は自然公園で清掃だぞ」
奉仕の定番中の定番で草生える。
「円谷は?」
「凛子は本部で陣頭指揮」
「これが一番厄介だな」
「ここからどうやって挫折されるかだ」
「とても全ての奉仕活動を妨害は不可能。ピンポイントでやっても、他でホフォローするから大したダメージにはならない」
「それよりも僕は、何で凛子が光属性になったか知りたい」
「俺も詳しくは知らない。何でも円谷は火属性だったんだ。何かの拍子で光属性に変化したのが予言者の見解だ」
「何かの拍子ねぇ……、ははーん、なるほど」
「何か分かったか?」
「大丈夫だ。凛子の攻略は上手く。我に策ありさ」
一条は意味ありげに微笑んだ。
ふと空を見上げると雲の蛇口は閉じられたのか、青空を垣間見た。
ただ、「一条よ、下濡れているぞ?」上から落ちてきた雨水がここまで浸透してきた。
ウンコ座りのお陰で免れた俺とは対照的に、直接腰を落としていたロリ軍人は直撃。
「え? なぁぁぁ、パンツが冷たい! ふかくうぅぅぅぅぅぅ!」
「はははっ」
これが仲間って奴なのか。
――そして、この世界と人類の存亡を掛けた聖魔戦争が人知れず厳かに幕を開けるのであった。




