執念
小泉は投石作戦を諦めたのか、キョロキョロと物色するかのように周囲を見渡す。
そこに前方に都合良く棒が落ちていた。
これも小泉が豪運たる証だ。
守護霊が十二体位憑いているのではなかろうか。
ブツの正式名称は物干し竿だ。
しかし、残念ながらこれで燕返しは出来ないし、釣り糸を付けても魚を釣り上げられないだろう。
粗大ゴミが多いエリアだ。
落ちていても不思議じゃないが、これも一条の読み通りだ。
小泉を知り尽くしているから、ここまで行動を先読み可能なのだろう。
「これならどう?」
緑の棒はターゲットを捉える。
だが、それでも箱を小突く程度の効果しか得られない。
逆方向へと誘導するのみ。
高跳びの棒だったら向こうまで届いたのだが、神はまだこの少女を試すのか。
向こう岸に人がいれば大した問題じゃなかった。
だが、小泉は携帯で人海戦術するまで頭が回っていない。
にゃん太郎の窮地に視野が狭くなっているんだろう。
この猫も意外と機転が利くので、イザとなったら棒渡りぐらい余裕なはずだが、ダンボールがまたもや妙な動きをするので渡るタイミングを失っている。
十連ガチャや最近のクレーンゲームみたく意地悪だ。
「絶対に助ける」
「ぶにゃあ♪」
小泉はにゃん太郎にそう宣言しているのか、それとも自分に言い聞かせているのか。
靴と靴下を脱ぎ捨て、躊躇無く川に入った。
何故に彼女をそうまでさせるのだろうか。
普通なら諦める。
見て見ぬふりを決め込むのが子供のいや人間の特権だ。
自分にとって正当で都合のいい言い訳を製作して理論武装、トラウマにならない為に心の防衛に走るのが常識だ。
俺はその小泉の姿に苛ついていた。
良心が痛むか……?
これが俺の平穏への唯一無二の道なのか?
水が苦手な勇気ある者は躊躇するも意を決して進む。
水位は下半身まで達した。
スカートが揺らめいている姿は海藻やクラゲにも見えなくもない。
水の流れが早くなってる。
小泉が石に足を取られているのか中々先に進まなかった。
どうする俺。
どうしたい。
このままじゃ小泉が二次被害に合う。
だが、それでミッションが成功するのだろうか。
光属性を確認するには方法がある。
一つは予言者に確認とる。
もう一つはこの手に持っているビー玉だ。
俺の半径10メートル以内の目標物の光属性を計る事が出来る。
白く濁っていたら光、透明なら浄化な具合だ。
残念ながら俺固有の特殊能力なので、確認可能なのは本人のみ。
昔、友達と思っていた奴に相談したら、次の日から笑顔が妙に優しかった……。
ただの妄想、世迷言。
古来より宗教以外実証出来ないものに関して人間は冷たい。




