第十一話 サラの過去
魔王カゲインは憂鬱だった。
魔王を束ねる者から異世界から来た危険因子の暗殺をそろそろ本格的に進めなくてはならなくなった。
なぜなら獣人族が勝手に危険因子へ戦闘を申し込んでしまったからである。
だがどうせあの者に任せたら簡単に終わるだろう。
実のところはそのことよりもそろそろ聖国への侵略を開始せよとの命令の方がもっと憂鬱なのだが。
そんなカゲインのもとに先ほど言ったあの者・・・フードで顔を、マントで体を隠した少女がやってきた。
顔を見たことはないが信頼できる転生者だ。
あのお方から一年前に頂いた初めてのまともなプレゼント。
恐らくカゲインの次にこの魔王国で強い者だろう。
「例の者がこの世界に転生してきました」
透き通った少女の声はいつもと変わらぬ冷ややかな声でそう言う。
「それでは作戦を決行しろ。半年前から仕掛けていたのだ、絶対に失敗するなよ」
「了解」
その声と共に少女は踵を返し部屋の外へと出ていった。
良く晴れた日の元、僕は居眠りから目覚めた。
隣ではサラが寝ている。
どうやら日向ぼっこしていたら二人とも寝てしまっていたらしい。
そんな僕達を眺めオイトさんが微笑んでいた。
「目が覚めたかね」
「はい」
「それじゃあ、少し老人のお話に付き合ってはくれぬだろうか?」
「喜んで」
僕達はサラが寝ている近くに椅子と机を持ってきて座り、紅茶を淹れ準備万端に整えてから話を始めた。
「私は昔、東アカレフ聖国軍のファースト兵だったのだよ」
《補足:ファースト兵とは軍のトップ層のこと。
又、東アカレフ聖国とはこの大陸の東側の最後の聖国であり、光の魔法の研究が盛んです。
聖国とはこの世界でもっとも信仰されているキズレイ教の信仰者が運営している国のことです》
なるほど、だからこれほどまでにオイトさんはただならぬ雰囲気なのか。
「でもそこまでいきつけたのは、今は亡き妻のお蔭だった。
二十年前に結婚し、お互いに子供は欲しかったが忙しかったため結局子供は出来なかった。
結婚してから四年後のある日、私は魔王に滅ぼされた国に違和感を覚えそこへ調査に行ったのだ」
「なぜあなたが直々に?」
「部下が魔王国の領土にうかうかと入ったら殺されるからな。
それに私が行かないといけないとなぜか思った。
それで実際に行ってみたわけだが異常な魔気が漂っていたよ。
そんな中、一人の赤ん坊が泣いていた。
私はなぜこんな所に赤ん坊がいるのか理解出来なかった。
普通赤ん坊は魔王の影響が残る強い魔気にさらされてしまったら死んでしまうのだよ。
だが、なぜかこの子は私達夫婦が育てねばならないと思った。
本当は軍に報告しないといけなかったのだが私は妻の元へ赤ん坊を連れて行った。
妻はその子をサラと名付けた。
私達はサラを実の娘のように育て、そしてサラはすくすくと育ち十六になった。
だが私達はサラに実の親ではないといってなかったのだが私の弟ライトが酒に酔って喋ってしまった。
サラは帰ってきた瞬間私に問い詰めた。
私は全てしゃべったよ。
魔王国で見付けたこともね。
サラは自分が魔王の者であると思ってしまったのかもしれない。
話しているうちにサラの顔はどんどん青ざめていったよ。
全部話し終わった瞬間サラは突然家から飛び出した。
急いで追いかけたがもうサラは見当たらなかった。
私と妻は町のあらゆるところでサラを探した。弟も探してくれたよ。
あらゆる伝手を使って探したが見つからなかった。
だが突然二週間後にサラは自分から帰って来てくれた。
その時はすごく嬉しくてサラを抱きしめようとした。
もう我が子を逃がさないぞってね。
だが抱きしめようとする私の手をスッと避け私達にこう言った。
『私はもうあなたたちの子供に戻ることは出来ません。
でも、あなたたちとはもっと一緒に居たい。だから私をメイドとして雇って下さい』ってね。
勿論私は反対した。
サラはメイドではなく自分たちの子だって。けどサラは頑なにそれではここに居られないといった。
仕方なく私はサラをメイドとして雇うと言う形で迎い入れた」
そう言い終わるとオイトさんは紅茶を一口飲んだ。
「そんな事があったのですか」
すごく複雑だな。
それにしてもなぜサラさんはメイドとしてしかいられないんだろう?
「話はまだ続きがある。
今から半年前、魔物が突然活発化し始めた時にサラは魔物に襲われた。
妻はその時サラを庇い亡くなった。
私は町に襲ってきた魔物を倒しながら急いで家に戻ったが、もうすでに遅かった。
サラは呆然としながら座りこんでいよ。
周りの木々は燃えていたり、風により倒れていたりした。
恐らくサラがやったのだろうとその時私は悟ったよ。
だがその炎と風を操ると言う二つの属性を操ることは普通の人間にはできない。
つまりサラは限りなく魔人に近い人間、人と魔人との混血だってことに。
だから赤ん坊なのに異常な量の魔気でも生きてられたのだろう。
その時に私は最悪なことにも気付いてしまった。
それは、サラは滅ぼされた国の姫と魔王との子供だったんじゃないかということに。
流石に軍の人間もこの現場を見たらサラには何かあると気づいたのだろう。
儂はサラを守ると共に監視することを上官に言われた。
だから今はこうしてずっと家にいるのだ。
そのことに気付いているのかそれ以来サラは必要最低限のことしか喋らなくなった」
確かにサラさんとオイトさんが普通の会話をしているところは見たことは無く、最低限度のメイドと主の会話しか見ていない。
だからてっきり本当にメイドと主という関係なのだと思っていた。
「だがな、私は今のまま死ぬまで私の世話をしてこの狭い世界にサラを閉じ込めたくないのだ。私はもっとサラに世界を見せてやりたい。それが、最後に私がサラにしてやれることだと思うのだ」
オイトさんはそう言い紅茶を飲みながらこちら見る。
「もしよかったら、獣人達と決着がついた後娘に世界を見せてやってくれないだろうか」
本当にそれでいいのだろうか?
サラさんは世界を見ることよりもオイトさんと暮らす方が幸せなんじゃなかろうか?
「軍のことは心配ない。私が抑える」
「・・・・・考えさせてくれませんか」
今はまだ結論を出すわけにはいかない。
僕はサラさんの気持ちを知ってからじゃなきゃ決めてはいけないと思う。
「分かった。良い返事を期待しているよ」
オイトさんは紅茶を飲み終えそこら辺を歩いているヤギを見つめていた。
その目に涙が溜まっていたのは気のせいだろうか。
結局、まだ飲んでいなかった紅茶は冷えきっていた。




