第十二話 サラの気持ち
獣人族のリーダーであるソウの目の前には力をソウに与えた魔王カゲインが信頼している、頭をフードで体をマントで隠した者がいた。
この方の言うとおりにすればなんでも叶うとソウは信じている。
もはやここら一体の魔人を支配下に置くのも可能だろうとも。
そんなお方にとうとう恩返しする時が来たのだ。
「言われた通り戦闘を満月の夜・・・つまり明日の夜に申し込みました。して、明日の何時ごろ開始いたしましょう」
「今日の夜八時頃だ」
その言葉を聞いた瞬間ソウは全身になんともいえぬ興奮が血の流れと共にいきわたった。
今日とうとう恩返しができるとともに自分の力や配下の者の力を試すことができる。
だが一つの疑問も浮かんだ。
本来ならば戦闘は明日のはず。
それに満月の夜でなければ本来の力を十分に発揮できないのだから。
「失礼を承知でお聞きしますが何故今日の夜八時頃なのでしょうか?」
「不意打ちを狙う」
「ですが・・・」
「そう心配するな。カゲイン様が月を満月に変えてくださる」
「・・・かしこまりました。急ぎ準備をいたします。あなた様はどうされますか?」
「私は近くの森で様子を見ている。私は見ているだけだ、今からはいないものと思え」
「かしこまりました」
ソウはすぐに配下に戦闘の準備をするように言う。
やっとこの日が来たのだ。
絶対に失敗できない。
まあ、失敗することは無いだろうが。
何せ私はあのお方から力を頂いたのだから。
そう思うソウの顔には笑みが広がっていた。
ふと気がつくと僕は薄暗い草原に立っていた。
周りには見渡す限りなにもない。
孤独。
その言葉が相応しかった。
とても怖くて悲しくて寂しくて辛くて不安で仕方がなかった。
「父さん……母さん……帰りたい、帰りたいよぉ」
次々と涙が目から零れ落ちるが僕はその涙を拭うことができない。
足を動かすこともできない。
涙を拭ってしまったらなにもない草原が見えてしまう。
足を動かして人を探したら誰もいないことが分かってしまう。
それが怖い。
だから僕はなにもしない。
帰ろうとしたって帰れない。
もし帰ったとしても僕の居場所は何処にもない。
元々いた場所は隆の場所であってリユイの場所ではない。
もう隆は何処にもいない。
帰る場所は何処にもない。
隆は死んだのだから。
人間は生きているのは生物的にだけではいけない。
存在として周りの人がその人を認めない限りそれは生きているとは言わない。
隆は死んだ。
だからその存在はもうない。
帰る場所はない。
寂しくなんかないって思わないと、僕はリユイとして生きていけない……。
はっと目を開けるとそこには最近やっと見慣れた天井がぼやけて見えた。
どうやら悪い夢を見ていたらしい。
僕は涙を拭い、また寝ようとするも結局寝付けずバルコニーで夜空を眺めることにした。
それにしても明るいな。
明日が満月なだけのことはある。
・・・それにしても明るい気もするが。
「わ!」
そう言ってサラさんが後ろから少し押してきた。
だが残念だったな、足音が少し聞こえていたぞ。
「気づいていたんですか?」
つまんなさそうに僕を見てくるサラさんに足音が聞こえたと言うとがっかりした。
だがすぐに気を取り直し、
「眠れないんですか?」
と聞いてきた。
「ちょっと考えことをしていたら眠気が覚めちゃってね。サラさんは?」
「私もです」
サラさんも考え事か。
「実は昼間のこと、少し聞いちゃっていました」
あっ、なるほど。
「サラさんはどうしたい?」
「私は・・・・・」
そう言いうつむいてしまう。
だがすぐに真剣なまなざしでこちらを見る。
「私はメイドです。ご主人様にまだいてほしいと言われるならばここにいますし、出ていってほしいと言われるなら出ていきます」
そうきたか。
「僕はサラさんの気持ちを聞きたいな」
「私の気持ちは・・・・・」
サラさんは僕から視線をそらし満月を見る。
サラさんの黄色い瞳が月に照らされトパーズのように輝く。
だが、そのトパーズは瞼を閉じられ、しまわれてしまった。
「リユイさん。私の話に付き合ってくれますか?」
その頼み方がオイトさんにそっくりだったので思わず笑みをうかべてしまった。
だが目を閉じているサラさんは気付かなかったと思う。
「勿論」
そう言うとサラさんは目を開けまるで昔話をするような声でオイトさんの知らないサラさんの過去を語り始めた。
「私はおじさんに言われるまでてっきり本当に自分はオイト様の娘だと思っていました。現実を知り本当は少し嬉しかったです。
本当の子じゃないのに本当の子供のように育ててくれて。
でもやっぱりどうして私はオイト様に育ててもらうことになったのか気になり聞いてしまいました。
私はオイト様の話を聞いている内にオイト様の後ろに私とそっくりな者が現れ、私にお前は魔王と姫の子だと言ってきました。
多分これは姫といわれた母が自分はもう助からないのでせめて我が子に親がどんな人物かを教えるために仕掛けた魔法と言う名の呪いが原因だと思います。
私は本当の自分の親を知ってしまったせいで父である魔王カゲインの言葉を聞こえるようになってしまい、そいして呼び出されました。
私はオイト様の話が終わった瞬間魔王に会いに行きました」
「何で何も言わずに行ったの?」
「オイト様と話してしまったら全て話してしまいそうで。
真実を知ったオイト様は私を怖がってしまうのではないかと思ったからです。
続けますね。
魔王は私を見た瞬間いやそうな顔をしてこう言いました。
『お前は私にとっては最悪の存在だ。
人間だった時のことを思い出させる。
だがお前がもう二度と私の前に現れず、あの老人と静かに暮らすと言うならば何もしないでやろう』って。
私は勿論了承しました。
ですがその後、私はオイト様の所へ帰ろうとしましたがそこで魔物に襲われました。
多分魔王は最初っから私を殺すつもりだったのだと分かりました。
私は死を覚悟しましたが突然周りの木々と共に魔物が風で飛ばされたり燃えていたりしだして・・・もうなにがなんだか分かりませんでした。
でもこの現象は自分が起こしているということは何となく分かりました。
そこに前にも言った転生者が来て私に不思議な石をくれて、それに触れた瞬間私の周りで起きていた現象は収まりました。
今でもこうして身に着けています」
サラさんは首から下げたペンダントを見せてくれた。
意外にも少し大きく、紫色をしている丸い石が付いていた。
「その後その転生者の方にこの現象は魔法だと言われました。
このまま帰ったらオイト様に迷惑がかかると思い転生者の方に二週間、魔法の制御の方法を教わりましたがまだ完全には制御できませんでした。
簡単な心の高ぶりで暴走してしまいます。
それが、私がメイドでないとそばに居られない最大の理由でした」
「どう言うこと?」
「この世界では魔法を使い契約をすることができます。その中にメイドと主との契約に用いる契約魔法があります。契約内容の中にはお互いにお互いの身体に直接的な影響を与えないと言うものがあります。それによりもし私の魔法が暴走しオイト様に当たったら・・・オイト様に当たった攻撃をなかったことにする代わりに私は消滅します」
「なっ!」
そんな。
もし力が暴走したらサラさんは死ぬということか。
そんなことまでしてオイトさんは一緒にいてほしいと思うのか?
いや、もしかしたらオイトさんはそれが分かっていてサラを遠ざけようとしているのか?
僕の中に様々な考察が渦巻く。
だがそれは突然の出来事により遮られる。
異常なほど大きな地震。
そう、僕がスキルで仕掛けておいた罠が作動したのだ。




