ガレオンの援軍 ・ プロポーズ
オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道 第二十四章
*********** ハーフエルフの少女リーネ ***********
ワタシは、ご主人様の命を受けて、メイドのネイリーさんと共に王都を目指すべく屋敷を飛び出した。
駆け足で転送屋さんの前まで辿り着くと、ご主人様から貰った転送屋さんのフリーチケットを取り出して中へ入る。
もう、何度も利用しているので、転送屋のおじさん達とも顔見知りだ。
それに、今回の事態の連絡を既に受けていたのか、皆真剣な顔で私達を迎え入れてくれた。
「王都までお願いします。 ガレオン陛下に書簡を届けないといけないので・・・。」
そう言いながら、チケットを受付のおじさんに渡す。
おじさんは、それだけで私達の使命を理解してくれたのだろう、直ぐに転送の準備に取り掛かってくれた。
「気を付けて行ってお出で。」
転送の魔方陣に立った私達に、おじさんはそう言ってくれた。
▽
王都に到着すると、ネイリーさんに手を引かれ、王城へと向かった。
幸い、ご主人様の心配したような、変な人たちに絡まれるような事は無く、意外とすんなりお城の前まで辿り着いた。
「どうやって中に入ればいいんだろう・・・?」
ワタシは王城の巨大な門の前で立ち往生してしまう。
こんな大きな門は見た事が無かった。
「確か門の傍に、お城の衛兵が常駐している場所がある筈だから、そこにいけば良い筈ですよ!」
ネイリーさんに導かれるまま、ワタシはお城の門の傍に近付く。
すると、門の横に小さな建物が城門にくっ付く様に建っていた。
「あ、あそこに人が居る!」
私達が近付くと、そこから数名の衛兵が外に出てきて、あっと言う間に取り囲まれてしまった。
「誰だお前達は、この城に一体何の用で参った?」
いきなり大勢の人に取り囲まれて、思わず怯えてしまった私の代わりに、ネイリーさんが対応してくれた。
「私達はポークビッツの街の領主、デブリンガー・アブラハム伯爵の命により此処にやって参りました。」
「デブリンガー・アブラハム伯爵だと!?」
その言葉を聞いた途端、衛兵達が一斉に緊張するのが分かった。
「さあ、奥様。 例の書簡を!」
ワタシは一瞬奥様と言われて、ネイリーさんが何を言っているか分からなかった。
しかし、書簡と言う言葉で、ご主人様に言われていた事を思い出した。
「わっワタシは、デブリンガー・アブラハム伯爵のつっ妻で、エルリーネと申します。 きょっ・・・本日はご主人様よりお預かりしました、ガレオン陛下への書簡を持って参上致しました。 是非ガレオン陛下にお目通りをお願いいたします。」
ワタシはガチガチに緊張しながら、何とか言葉を終えると、大切に持っていた書簡を衛兵に見せた。
「こっこれは!間違いなくアブラハム卿の書簡・・・。 今直ぐ陛下にお伺いを立てて来るゆえ、しばしここで待っておられよ!」
そう言って衛兵の一人が、先程まで皆が入っていた建物へ入って行った。
もしかして、あの建物から直接城門の中に入れるのだろうか?
▽
暫く待っていると、先程の衛兵が慌てて先程の建物から出て来た。
「陛下が今直ぐお会いになられるとの仰せだ。 案内するゆえ、私の後に付いて来られよ! 城門、開門せよ!!」
その言葉で、ガッチリと閉じられていた大きな門がギギギと音を立てて開きだした。
そして先程の衛兵の後を着いて中に入る。
王城の門の中は、それは凄く大きな庭だった。
美しい花の咲き乱れる花壇に、綺麗な噴水、一面の青い芝生。
それらの広がる庭を抜けると、目の前の大きなお城の前に立つ。
私達がお城の前に到着するのを見計らったように、お城のこれまた大きな門が開いて行く。
すると中から、バルドッグさんのような格好をした老人と、綺麗な格好のメイドさんが現れ、私達を出迎えてくれた。
お城の中を覗き込むと、中には豪華な鎧を着込んだ強そうな騎士が、左右に列を成して整列していた。
その姿は、お城の中の豪華な装飾と相まって、まるで絵本の中に出てくるお城の風景そのものだった。
ワタシが如何したら良いか分からずに固まっていると、奥から聞いた事のある声が聞えた。
「わははははっ、やはりそなたであったか! 我が兄弟の妻と言うからそうだろうと思っていたが・・・。」
そこにはガレオン陛下が笑いながら立っていた。
「ガレオン様、玉座を勝手にお離れになっては・・・。」
「やかましい、爺。 今から会うのは我が親友の妻だ。 堅苦しく玉座などで謁見なぞして居れるか!」
門を開けてくれた老人にそういいながら、ガレオン陛下は私達の方を改めて見る。
「おや、リーネの傍に居るのは、麗しのネイリー嬢ではないか!?」
そう言って、ワタシの横に居るネイリーさんの事を見る陛下。
「半年ぶりだな、ようやく余の第二夫人になる決心でも付いたのか?」
「ガレオン陛下、お戯れはお辞め下さい。 今は緊急事態ですので・・・。」
ガレオン陛下の爆弾発言を、冷静に対処するネイリーさんの言葉に、ワタシは大事な事を思い出した。
「そ、そうだった! ガレオン陛下、ご主人様から緊急の書簡です。」
そう言ってワタシが差し出した物を見ると、ガレオン陛下の顔色が明らかに変わった。
「これは、兄弟に渡してある、最大レベルの危機の時のみに使用する約束の封筒ではないか!?」
ガレオン陛下はそう言うと、サッと私の持っていた書簡を奪い取って、即座に中身を確認した。
▽
「ポークビッツの街に約5000体のゴブリンの大群が攻めて来るだと?」
その言葉に爺と呼ばれた老人が、驚いて陛下の方を見る。
陛下は、その後は一言も話さずご主人様からの手紙を読んでいた。
そんなガレオン陛下に声をかける人が、もう一人現れた。
「ほう、確かあの辺りには陛下の提案を跳ね除けて、国を捨てたゴブリンの一族が居りましたな。 まさか今更その様な事をしでかそうとは・・・。」
その人はそう言いながら、奥の方から歩いてきた。
その人はかなりの年齢の犬人族の老人だった。
ただし、ワードッグのバルドッグさんとは少し違う気がする・・・、いったいどんな種族の男性なのだろう?
その老人は、美しい鎧を身に纏い、腰には立派な剣を下げていた。
恐らく、かなり身分の高い方なのだろう。
「しかし陛下、かのデブリンガー・アブラハム卿ともあろう者が、その程度の軍勢相手に緊急事態とは? 一体如何したというのですかな?」
そういう老人に、ガレオン陛下は何も言わずに読んでいた手紙から一枚抜いて手渡した。
「大将軍、此処を読んでみてくれ。」
そう言われて手紙を受け取った大将軍と呼ばれた老人は、手紙に目を通すと突如大声で叫んだ。
「ま、魔王!? 洞窟の魔王、牛王だと!?」
その言葉に、お城の中の騎士からも急にどよめきが漏れ出した。
「どうやらゴブリン共が、洞窟の魔王を誘き出して、そいつにポークビッツの街を襲わせるつもりらしい。」
「あの怪物は、今までに何人もの冒険者が挑み、命を落としてきた正に化物です。 それこそ、ありえないレベルの賞金がその首に掛けられるほどに・・・。 アブラハム卿は、一体如何するつもりなのでしょう?」
「この手紙には、牛王は兄弟一人が相手するとある。」
「なっ、それはあまりにも無茶なのでは!? いくら無敗の鬼将軍と呼ばれた彼でも、たった一人でどうにかなる相手ではありませんぞ?」
「無論、全て兄弟一人でと言う訳では無い。 かつての仲間の協力するというし・・・。」
ガレオン陛下はくるっと騎士達の方を向いて大声で言い放った。
「当然このクラウザー・ガレオンも、親友デブリンガー・アブラハムを救う為に現地に救援に向かう事にする。 明日の朝一番に私を含めた親衛騎士団の皆は、転送屋より一斉にポークビッツの街へと向かう。 余に着いて来る者は今直ぐ準備を整えよ!」
そうガレオン陛下が命令すると、お城の中で整列していた騎士達が一斉に動き出した。
しかし、爺と呼ばれた人と大将軍と呼ばれた人が、ガレオン陛下に駆け寄る。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。 ガレオン様! その様な危険な場所にガレオン様ご自身がお向かいになるなど・・・!」
「全くですぞ、流石にあの牛王が相手となると、かのアブラハム卿でも、勝てるかどうか分かりませぬ。」
二人の言葉を聞くと、ガレオン陛下は持っていた手紙の残りを大将軍さんに手渡した。
「そこに書いてある、仮面を被った人族と思しき謎の人物・・・。 大将軍はどう思う?」
突如そう問われ、慌てて手紙に目を通す大将軍さん。
「こ、これは・・・。 この者が今回のゴブリン達を手引きした可能性があると・・・? しかし、この格好では人族かどうかの判断は難しいのでは?」
「兄弟の見立てだ、顔は見ずとも骨格などから人族と判断したのだろう。 しかも、あの街はアルトの街の隣にある・・・。」
その言葉にハッとする大将軍さん。
「まさか、ガレオン陛下は、現在逃亡中のあのゲスパーとか言う男の可能性があると?」
「確証が有る訳ではない。 しかし、今まで大人しくしていたあの辺りのゴブリン族が、急に動き出したのも解せない話だ。 」
ゲスパーと言う名前にワタシは聞き覚えが無かった。
「今回、全ての手引きが帝国のスパイだったゲスパーの仕業だとしたら・・・。 ポークビッツの街がゴブリン達に奪われてしまったら、間違いなく帝国軍が再び攻撃を仕掛けてくる事になる。」
その言葉に顔をしかめる大将軍さん。
ワタシも、帝国が再び攻めてくるかもしれないという言葉に恐怖を感じた。
「だからこそ、余が直接赴いて、ポークビッツの街を防衛せねばならぬのだ。 確かに、その謎の仮面の男がゲスパーであるという保障は無い。 だが、あの街は我らガレオン王国ににとって、帝国を牽制する上でも欠かす事が出来ない要所。 例え僅かでも可能性があるのなら警戒してしかるべきだ。」
その言葉に、大将軍さんも渋々納得した様だった。
「それに、余は我が親友であるデブリンガー・アブラハムを信じている。 さあ、皆の者、今直ぐ準備に取り掛かるのだ!」
ガレオン陛下の号令で、一気に周囲が騒がしくなる。
騎士の人達は、一斉にお城の中から出て行ってしまった。
辺りが喧騒に包まれる中、ワタシが唖然としていると、ガレオン陛下がワタシに向き直し、こう言ってきた。
「さてリーネ、兄弟からのこの手紙には、そなたの事を、此度の一件が収まるまでの間、この城で匿って欲しいと書いてあるのだが・・・、そなたはどうしたい?」
********** オーク将軍デブリンガー **********
夜が明けた。決戦を前にしてしっかりと身体を休めた私の体力は万全だ。
一方、引き連れている牛王に追い付かれない様、一晩中行軍を続けて来たゴブリン達とはコンディションがまるで違う。
敵を発見してから、街に到着するまでの時間のうちに十分な対策が取れる。
こういう所が、このポークビッツの街の強味なのだ。
メイド達も、朝を迎えてからまた避難してくる市民の為の食事を再び用意している。
これから、街中の要避難者がこの屋敷に一斉に押し寄せてくる事になるのだ。
使用人達の中で、戦闘能力に長けていない者は、この屋敷で避難者達の面倒を見ることになる。
戦闘に参加する者は、各自城門前に集合だ。
各々が準備を始めるなか、私は戦闘に使用するつもりの武器の類を、牛車に積めるだけ積み込んで居た。
「さて、後は鎧か。」
そう言いながら私は、武器庫に保管してある、私専用の防具を身に着け出した。
この鎧は、私が王国遊撃部隊の部隊将軍として前線に立っていた時のものだ。
古い物だが、手入れは怠っていないので、壊れた所は何処にも無い。
私が胸当てを身に着けようとしていると、背後から声が掛かる。
「デブリンガー様、お手伝い致します。」
声の主はバルドッグだった。
「今戻ったのか? ちゃんと夕べは休んでおいたのか?」
「抜かりは御座いません。 最後に立ち寄ったシャウエッセンの街で仲間に連絡を着けた後、しっかりと休んでおきました。」
「そうか、それで仲間はどれ位集まってくれた?」
私の言葉にバルドッグは誇らしげに答える。
「かつての仲間たちは皆、デブリンガー様のお力になりたいと、次々にこの街にやって来てくれています。
シャウエッセンの街からは、ウロスとクレア、そしてラックも駆けつけてくれております。」
「ラックも来てくれたのか、今はシャウエッセンの街の領主となって大変な時期であろうに・・・。」
「実は今、クレアがラックの元で働いておりまして、クレアに話をしに行った際にラックも協力を申し出てくれたのです。」
「そうか・・・。 しかし、クレアの奴も遂に行動に出たのか? あいつはずっと昔からラックの事が好きだったからな!」
「あ・・・。」
バルドッグの少し困ったような声を聞き、ふと後ろを振り返ると、武器庫の外にはラックやクレア達が立っていた。
見ると、クレアは顔を真っ赤にしており、その横でラックは照れた顔をしている。
ウロスはニヤニヤと二人の事を見ていた。
「すまん、居たのか皆・・・。」
「居たのかじゃありませんよ、将軍・・・。」
何とかラックが言葉を発するが、顔がかなり赤くなっている。
まあ私は、ラックもクレアの事を憎からず思っている事は知っていたのだが、流石に本人達の前でぶっちゃけてしまったのは不味かったか。
しかし、言ってしまったものは仕方が無い。
「クレアすまなかったな、お前の気持ちをばらしてしまって!」
益々真っ赤な顔になるクレア、彼女は戦闘の能力とはうって変わって、性格は控えめで口下手なのだが、ずっと一途にラックの事を思い続けていたのだ、私のうっかりで全てを水の泡にさせる訳には行かない。
「だが心配はいらん、この戦いが終わったら、私が責任を持って、ラックの嫁になれるように、ラックを口説き落としてやる。」
「ちょ、ちょっと将軍!?」
「ラックの方だって丁度いいんじゃないか? お前も私と同じく、早く妻を見つけろとガレオン陛下にせっつかれていたクチだろう? クレアならお前の事をよく理解してくれているし、年齢も丁度いい。 おまけに美人だ!」
「あ・・・あうあう。」
「諦めろ、ラック。 デブリンガー様には、お前がクレアへの思いのせいで未だに妻を娶れて居ない事も既にお見通しだ。」
バルドッグからも助け舟が入る。
「そうだラック! せっかくだし、私がお前達の婚礼の仲人を勤めようじゃないか!」
「デブリンガー様! それは本当ですか!?」
今まで真っ赤になって黙っていたクレアが、真っ赤な顔のままで叫ぶ。
「ああ、ラックの奴が渋っても、私達が何とかしてみせる!」
「もう、勘弁してくださいよ・・・。」
そう良いながらも、ラックの顔は照れ笑いを浮かべていたのだった。
▽
私が鎧を着込んで屋敷の外に出ると、屋敷の門の前には、大勢の騎士が整列したいた。
どうやら、ガレオン陛下の親衛騎士団が早速応援に掛け付けて来てくれた様だ。
そして、予想通りその親衛騎士団の中心に、ガレオン陛下が立っていた。
「兄弟! 助けに来たぞ!」
「・・・。 まあ、陛下が大人しく王城で待っていて下さるとは思っては居ませんでしたがね・・・。」
「フフン! 当然だろう、この街は王国にとって大変重要な街だ。 遠くから高みの見物をしている場合ではない。 それに・・・。」
私の顔を真っ直ぐ見ると、真面目な顔になって続ける。
「あの仮面の男は、かなり危険な存在だ。 奴が帝国のスパイなら、万が一にもこの街を奪われる訳には行かんからな。」
私もその意見には賛成だった。
あの仮面が、帝国のスパイだったとして、今回の一件が奴の暴走によるものなのか、帝国の支持によるものなのかは分からないが、どっちにしても街を奪われたら、間違いなく停戦条約は破棄になる。
「しかし、懐かしいなその格好は・・・。」
陛下が完全武装をした私を見てそう言った。
そういえば、前回は陛下からお借りした特製の鎧を纏ったいたな。
この武装は、ほぼ一年ぶりになるのだろうか・・・。
「だが、せっかくなのだから、余がプレゼントしたあの鎧を着けてゆけばどうなのだ?」
「え? プレゼント?」
「何をおかしな顔をしている、この前シャウエッセンの街で兄弟に渡しただろう?」
「あ、あのお借りした鎧の事でしょうか? それなら陛下にお返しする為に、武器庫に大切に保管してありますが・・・。」
私の言葉を聞いて、ガレオン陛下はやれやれといった風に頭を掻く。
「あのな兄弟、あの馬鹿でかい特注の魔法の鎧を、我が親友デブリンガー・アブラハム以外の一体誰が身に着ける事が出来ると思っているのだ?」
あっけに取られる私に陛下は続ける。
「あれは、兄弟が大将軍になってくれた時のプレゼントのつもりだったと言っていただろ? まあ、大将軍の座は蹴られてしまったが、あの鎧は兄弟以外にくれてやるつもりは無い! だから有り難く貰っておけ!!」
「・・・今回の相手は、流石に強敵でしたので、正直ガレオン陛下のお気持ち、心から感謝致します。」
私はガレオン陛下に一礼すると、再び武器庫に戻る。
そして大切に保管していた、銀色の鎧を身に纏った。
流石は装着者の身体のサイズに合わせて大きさが変化する魔法の鎧だ、一人でも楽に身に着ける事が出来る。
フルフェイスのヘルムはまだ被らず、小脇に抱えて私は陛下達の待って居る屋敷の前に向かった。
私が戻ると屋敷の前は、既に屋敷に避難を始めている街の人々でごった返していた。
私は、屋敷に避難する人々を見守るように整列している親衛騎士団の面々の傍まで移動する。
再び戻った私をガレオン陛下が迎え入れてくれる。
「ふむ、やはりそれを着た兄弟は貫禄があるな!」
「お待たせ致しました。 そろそろ他の部下も準備が整いそうですし、集まり次第北門へ向かいましょう。」
私達が会話をしていると、一通りの準備が終わったプドルが屋敷の中から出てきた。
今日は何時ものメイド服ではなく、彼女にとっての戦闘服・・・白い魔法師のローブを纏っている。
「あらあら、これはこれはガレオン陛下、やはり来て下さったのですね!」
「久しぶりだなプドル女史。 勿論、余は兄弟のピンチとあらば、何処へなりとも駆けつけて見せるさ!」
「所でガレオン陛下、リーネちゃんは何処に居るのでしょうか?」
一応プドルにも、リーネは陛下の元で匿ってもらうつもりだという事は伝えてあったのだが、それでも心配なのだろう。
「わははははっ! 心配には及ばぬ。 約束通り、リーネは余の元で匿って居るわ! なあ、ネイリーよ!」
そう言ってガレオン陛下が後ろを振り返ると、親衛騎士団の後ろからネイリーがおずおずと顔を出した。
「え、ええ・・・まあ・・・。」
ネイリーは随分と困った顔をしている。
それもその筈だ、ネイリーは私からリーネの護衛を指示されている。
なのにリーネを置いて此処に一人戻ってきてしまっているのだ。
「ネイリー、お前がどうして此処に? まさか王都にリーネを置いて来てしまったのか?」
私が困った顔でそう尋ねると、ネイリーは慌てて首を横に振る。
「いっいえ、そっそのような事は・・・!」
そんな挙動不審なネイリーの背後から、リーネがひょっこり顔を出した。
「ご主人様、ワタシもガレオン陛下にお願いして戻って来てしまいました・・・。」
「なっ、リーネ!!」
私が、王都に居る筈のリーネの姿に驚いていると、ガレオン陛下が私の背中をバンッと叩いた。
「わははははっ! 約束通り余の元に匿って居るから心配するな!!」
「ガレオン陛下・・・。」
「い、言っておくが・・・、余は、最初は王都に残るかと聞いたのだぞ? なあ、ネイリー。」
非難がましい目で見る私に、ガレオン陛下は慌てて弁解を始め、ネイリーに助けを求める。
話を振られたネイリーは、呆れたという顔で答えた。
「ええ、確かに最初はリーネ様に王都に残りたいかお尋ねになりました。」
「な、余の言った通りだろ?」
「ですがその後、王都に居るよりも陛下と一緒にデブリンガー様の傍に戻った方が安心だと、説得されていたようにお見受けいたしましたが?」
「あ、こら! 裏切り者め!!」
「は~~~~~っ! 陛下・・・。」
私が呆れて溜息を吐くと、そんな私の傍にリーネがやって来た。
「御免なさいご主人様、ガレオン陛下は悪くないんです。 ワタシがご主人様に傍に居られないのが不安だったから・・・。 もしガレオン陛下が誘って下さらなかったとしても、多分ワタシ一人で戻って来たと思います。」
そんな風に私の手を掴み、見上げるリーネにすっかり毒気を抜かれてしまった私は、諦めて頭をボリボリと掻いてしまう。
「まあ、そう言う訳だから、諦めて腹を括れ兄弟!!」
そう言いながら私にグイッと身を寄せてくるガレオン陛下。
「兄弟は、護るモノが多い程強くなれる漢だ! だから今まで一度も負け無かった、そうだよな?」
陛下の言葉が私の心を揺さぶった様な気がした。
「護るモノが多い程・・・。」
「だったら、一番大切なモノを他所に預けてどうする? それこそが兄弟の力の源だろ!!」
一番大切なモノ、その言葉でリーネを見る。
リーネは不安そうな顔で私を見上げて居た。また怖い顔でもしてしまっていたのだろうか?
「せっかくだ、今此処でその一番大切なモノを、もっと大切なモノにして見せろ! そしてあの魔王を倒すのだ!!」
もっと大切なモノに・・・?
私はその言葉の意味を考えながら、周囲を見渡す。
そこには、私の大切な仲間達が私達を取り囲んで居てくれた。
何時も私の傍に控え、手助けをしてくれる頼れる兄のような存在のバルドッグ。
普段は冷静でありながら、実は誰よりも熱く優しい心根のプドル。
メイドとしては半人前でも、世話好きで子供の世話をさせたら誰よりも慕われるネイリー。
今も変わらず私の事を将軍と呼ぶ、気の良い仲間のラック。
口下手だが、何時も一生懸命なクレア。
私に次ぐ怪力だが、性格は人一倍温和なウロス。
この国の国王となってからも、以前と変わらず私の事を兄弟と呼び親友で居続けてくれるガレオン陛下。
そして・・・、そんな私の事を慕っていてくれるリーネ。
「もっと大切・・・? それは・・・。」
今だ答えを出せずに居る私に、いい加減焦れてしまったプドルが呆れたように言い放つ。
「今此処でリーネちゃんにプロポーズしなさいって事ですよ。 デブリンガー様!」
私はプドルのプロポーズの言葉にあせって周囲を見渡す。
皆、私の事を笑ってみていてくれた。
若干名、お返しだと言わんばかりの満面の笑顔で見ている者も居たが・・・。
そしてリーネは、顔を赤くしながらも、真っ直ぐ私の事を見続けていてくれた。
私は、そんなリーネの目を見つめる。
・・・私と来たら、皆に此処までして貰わなければ、惚れた女に告白の一つも出来ないのか・・・。
「全く、情け無い男だな・・・私は。」
私はそう呟くと、リーネの前に片膝を付いてしゃがみ込んだ。
これでも、私の目線はリーネよりも遙かに高い。
しかし、これは仕方が無い。
私はそのままの態勢で小脇に抱えていたヘルムを地面に置くと、そっとリーネの手を取った。
「リーネ。」
「は、はい!」
「この私、デブリンガー・アブラハムは、エルリーネ・ミモリーの事を心から愛している。 だから私の妻になってはくれないだろうか?」
私は、出来る限りの笑顔でそう告げた。
リーネはと言うと、顔を真っ赤にしたまま、その瞳に涙を溜めている。
「あ、あの・・・本当にワタシなんかで良いんですか?」
「勿論だとも! 正直に言うと、私はリーネを王都の奴隷商で見た時からずっと好きだったのだ。 しかし、奴隷として引き取ってしまった関係上、主人の立場で無理やり自分の物にしてはならないと、ひたすら己に言い聞かせて来たんだ。」
「ワタシは・・・最初はずっと怖かったんです。 奴隷商で自分を買ってくれるご主人様がどんな人なんだろうって・・・、いくら想像しても怖いご主人様しか想像出来なくて。 でもあの時、ワタシを買ってくれたご主人様は、私の想像していたどんなご主人様よりも優しい方でした。 初めて私の頭を撫でてくれた時も、凄く大きな手なのに、物凄く優しくて暖かくて・・・。」
何時の間にかリーネは涙をポロポロと流していた。
「それにお屋敷でも、ご主人様のお屋敷に居る人達は皆良い人ばかりで、そんな人達が心から信頼しているのがご主人様で! 街の視察の時だって、すれ違う街の人達が皆笑顔で手を振ってくる・・・、そんな素晴らしいご主人様の事を、ワタシはいつの間にか大好きになっていました。」
リーネが私の手を掴む指に力を込める。
「でも、そんな素晴らしいご主人様の事を、奴隷のワタシなんかが好きになっちゃいけないんじゃないかって・・・。 ずっと・・・ずっと不安だったんです!」
「奴隷にしたのは、奴隷商から買い上げる時の形式上の手続きの為で、いずれは解消するつもりだったんだよ。 ただ、私なんかの傍に居てくれるのは、奴隷だからなんじゃないか・・・そう考えてしまうと不安で、ついつい解除の手続きを先延ばしにしてしまっていただけなんだ。」
私はリーネの手を軽く握り、もう一度しっかりとリーネの目を見つめる。
「しかし、私はもう逃げない。 リーネ、私のお嫁さんになってくれるかな?」
私の再びの求婚に、思いっきり泣き笑いの笑顔になったリーネは、元気な声で―――。
「はい、喜んで!! ご主人様!!」
すると、リーネの返事にあわせる様に周囲から喝采が上がった―――。




