断罪 ・ 黒幕
オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道 第十四章
********** オーク将軍デブリンガー ***********
私は王国騎士の内の数名に、リーネの屋敷の見張りを頼み、我々は偽伯母を騎士団の詰め所に連行した。
領主との関係を尋問する為だ。
今日はポークビッツの街に戻る事は諦めていたので、詰め所の仮眠部屋を数部屋借りてある。
既に日は暮れてしまっているので、リーネはプドルと一緒に先に食事をとって休んで貰う事にした。
私とバルドッグは、他の騎士団の数名と共に、取調室で聞き取りを開始した。
▽
王国騎士団の取調べ室には、記録水晶と言う物が設置されており、これに尋問の一部始終が全て記録される。
更に重要なのが、真実の石版と呼ばれるマジックアイテムだ。
この石版に手を置いて話すと、嘘をついたら石版の表面が光って直に嘘だとばれてしまうのだ。
この石版を使用した尋問の様子を記録した記録水晶は、国王の審判において確実な証拠として使用される事になっているのだ。
元々、この真実の石版を領主に使う事が出来れば、面倒な事などせず一気にカタが付けられるのだが、この真実の石版の使用が認められているのは、原則犯罪者として捕らえられた者だけなのだ。
仮にもこの街の領主で、子爵位の貴族でもあるリドリー・ゴルドーに使用する事など不可能だった。
私は、取調室に座らされている偽伯母(名前はカレンと言うらしい。)に記録水晶と真実の石版の事を説明する。
カレンの顔色は未だ青いままだったが、先程までよりは少し落ち着いた様子だった。
恐らく拷問でもされると考えていたのだろう。
私は、カレンに真実の石版の上に手を置くように支持する。
彼女は恐々石版の上に手を置いた。
「まあ、のんびりやっても意味は無いからな、単刀直入に行かせて貰うぞ。」
ビクリとするカレン。
「先ずは、カレンという名は本名か?」
「はい。」
石版は光らない、本名だったか。
「では次だ、お前はエルリーネ・ミモリーから家や財産と恩賞のメダリオンを奪ったか?」
「・・・・・・。」
「黙っていた場合は、肯定と判断して良い事になっている。 諦めて正直に話した方が良い。」
「・・・はい。」
石版は光らない。
さあ、次からが本番だ。
「屋敷を奪ったのは今回が初めてか?」
「えうっ・・・は、はい。」
すると石版が光りだした。
まあ当然だな、その辺は調べが付いている。
「ふむ、嘘だな。 記録官、今のはしっかり記録できたか?」
無言で頷く記録官。
「今のは嘘だと証明された。 正直に言った方がいいぞ、この映像はガレオン国王陛下がご覧になる。 あまり嘘ばかり吐いて陛下の心象を悪くすると、罪が余計に重くなる事もあるからな。 さあ、正直に話せ。」
私の言葉に、明らかに焦りを見せるカレン。
「す、すみません。 あの・・・今までに3軒、乗っ取りをしました。」
石版は光らない。
「その、お前に家を奪われた者の名は?」
「最初は、ピートという10歳の人族の男の子です。 次がレミーという12歳の人族の女の子・・・。 最後がリーネで、ハーフエルフの少女です。」
石版は光らない。
事前の調査通りだったな。
「つまりお前は、子供が一人で生活している家を狙って、次々と屋敷を奪って行ったという事か? 何故その様な事をしたのだ?」
「一年前の帝国軍の襲撃の際に親を失った子供を狙いました。 親の遠い親戚だと言うだけで、簡単に信用してくれるので・・・。」
「どうやって奪ったのだ?」
「はい、親戚のフリをして家に上がり込んで家捜しし、見舞金と恩賞のメダリオンを見つけ出せたら、譲渡承諾証に無理やりサインをさせて家から追い出しました。」
「家を追い出された子供がどうなるか考えた事は無かったのか?」
「・・・。 最初は多少の罪悪感もありましたが、深く考えないようにしていました。 暫くすると罪悪感もも無くなりました。」
光らない・・・、なんと言う女だ、多少の罪悪感だと!? 子供が死ぬかもしれないんだぞ!?
私は怒りを必死で落ち着かせる。
「それで、次の家を狙う際、前の家はどうしたのだ?」
「売りました。」
「しかし、どうやって売ったのだ? お前は建物の販売を扱えるような立場ではあるまい、幾ら恩賞のメダリオンがあっても、易々と家を売ったり出来ないはずだ。」
さあ、此処からだぞ!
「り・・・領主様にお願いしました。 領主様にお願いするのが確実なので。」
「確かに領主なら建物の販売の資格を持っている。 しかし、お前は既に二回も家を売っているはずだ。 しかも別々の名義の恩賞のメダリオンを使用して! 何故領主はお前にその事を尋ねなかった? 普通は有り得ない事だぞ?」
「・・・・・・。」
「黙っていては分からんでは無いか。 なぜ領主は、お前が短期間に二度も家を売ったことを疑問に思わなかった? 何故それぞれ、お前と関係ない名前の刻まれた恩賞のメダリオンを提示して家を販売しても疑われる事が無かったのだ?」
私はカレンに顔を近づけて静かに言う。
「領主も・・・仲間だったのか?」
カレンの顔が真っ青になる。
「答えろ、答えなければ肯定と判断するぞ!」
暫く沈黙したままだったカレンだが、ガタガタと震えながら遂に答えた。
「はい、領主様は仲間・・・、私達のボスでした。」
真実の石版は光らなかった。
「記録官、今の言葉に石版が反応しなかった事を、しっかりと記録できたか?」
「はい、しっかりと記録できております。」
今度はしっかり言葉で答える記録官。
カレンはと言うと、涙を流しながら震え続けていた―――。
▽
それからはカレンは素直に全て話した。
自分が元窃盗犯で、領主の衛兵に捕らえられたところを、犯罪奴隷にならないで済む代わりに乗っ取りグループの仲間になった事。
乗っ取りの手口も、乗っ取るべき家も全て領主、リドリー・ゴルドーの支持だった事。
見舞金と目ぼしい金目の物と恩賞のメダリオンは領主に渡さねばならないが、家財道具等は好きに売って自分の金に出来る事。
家の売却価格からかなり高額の報酬を受け取っていた事。
自分以外にも何人か同じ人族の女の仲間が居る事・・・。
知っている事を全て語って、かえってすっきりしたのか、カレンは落ち着きを取り戻していた。
▽
気が付くとかなり遅い時間になっていた。
私は取り合えず領主を捕らえるのに必要な情報が手に入ったので、後の細かい話はバルドッグと他の騎士団の面々に任せることにした。
本当はバルドッグも一緒に休ませようとしたのだが、どうしてももう少し続けたいと懇願されたのだ。
バルドッグは、この女にかなりの怒りを覚えていた。
実は、この女が最初に家を奪った子供、ピートという10歳の男の子だが・・・。
家を追い出された時期がまだ寒い時期で、所持金も全く無く、炊き出しの事も知らなかったピートは、僅か数日後には凍死してしまっていた事が分かったのだ。
そして、二軒目の子供、レミーと言う12歳の少女は愛玩奴隷となっていた。
幸い、酷い虐待までは受けては居ない様子だが、それでもまだ12歳の女の子だ・・・。
調査をしていた仲間からこの事実を知らされた時、バルドッグの顔には悔しさが滲み出ていた。
これは彼に聞いた話だが・・・、私と同じく、彼自身も幼い頃は貧しい暮らしの為に大変苦労したらしい。
元々貧しい村の出身で、村人全てが貧困に苦しんでいる時に飢饉が起こり、その為多くの友人や家族を失ったそうだ。
バルドッグが幼い頃といったら70年近く前、先代の国王の時だ。
先代は国王になった直後から、自らの利益に目の眩んだ大臣達の傀儡で、貧しい村への支援など全く行っていなかったらしい。
結果、彼らのように飢饉や寒波で沢山の餓死者や凍死者を出す貧しい村が続発していたそうだ。
そんな辛い思いをして来たバルドッグにとって、あの女のやった事は決して許せる事ではなかった。
しかし、あの女は、既に王国騎士団に逮捕された身。
こちらで勝手に処罰する事は許されない。
あの女に刑罰を与えることが出来るのは、あくまでガレオン陛下ただ一人なのだ。
まあ、決して軽い罪で済む訳も無いのだが・・・。
私としては、せめてバルドッグの気が済むように好きにさせることにしたのだ。
心配しなくても、彼は決して暴力に訴えるような事はしないだろう。
尤も、時にはたった一つの言葉で地獄に突き落とされるなどと言う事もあり得るのだが・・・。
▽
私は取調室を出ると、今日の宿泊の為に借りていた仮眠室の一つに入る。
隣の部屋はリーネとプドルが二人で使用している筈だ。
明日はリーネの家を調べなければいけない。
少しでも多くリーネの物が残って居れば良いのだが・・・。
後は陛下の支持次第だが、領主も早々にケリをつけねば。
私は、仮眠室の小さなテーブルの上に用意されていた夕食を一気にかき込むと、さっさと眠りについた。
********** バルドッグ・ハウル **********
私は怒りに震えていた。
目の前に居るこの人族の女の、あまりに自分勝手な考え方が許せなかった。
しかも、今は全てを話し終えて、むしろ晴れ晴れした顔をしているではないか。
自分がしでかした事をまるで理解していない。
しかし、今の私は王国騎士団員でも無ければ軍人でも無い。
デブリンガー様に仕える執事でしかないのだ。
あの女を裁く権利を持ってはいない・・・。
しかし私は、この女に自らのやった事を少しでも後悔させてやらねば気が済まなかったのだ。
デブリンガー様に頼み込んで、もう暫く取り調べに参加させて貰う事になった私は、デブリンガー様の代わりに尋問する為に女の前に座った騎士団員に断りを入れて、一言話させてもらう事にした。
私はカレンと言う名の女の横に立つ。
「カレンと言ったな、貴様自分がこれからどうなるか分かっているのか?」
いきなり声を掛けられ、私の方を向く。
私は静かな目付きで女を見下ろし、そして告げる。
「普通の窃盗程度ならば、軽犯罪奴隷として長年勤め上げれば、いずれは開放される事もある、しかし人の命を奪った者は、ほぼ間違いなく重犯罪人・・・重犯罪奴隷となる。」
「そ、それがどうしたって言うのよ・・・。 それぐらい知っているわ。」
女は今まで殆ど言葉を発しなかった私に話しかけられ、少々戸惑っているようだった。
「お前の場合、他人から奪った金品の額が相当な額になっているはずだ。 果たしてそれらを全て返しきるまで生きていられるかどうか・・・。 まあ、今回は重要な証言をした事で、多少は刑も軽減されるだろうがな・・・。」
私のこの言葉に、期待と不安が入り混じったような表情をする。
ここで私は敢えて、女の目の前に置いてある真実の石版に手を乗せる。
「所で貴様は知っているのか? 貴様が最初に家を奪ったピートと言う少年は・・・死んだぞ!? 貴様が家を奪ったせいで、食事もまともにとる事も出来ず、冬の寒さの中凍え死んでしまったのだ!!」
石版は光らない。
当然だ、真実なのだから。
「記録官、今の私の言葉も、しっかりと記録できましたか?」
記録官は黙って頷く。
「この言葉をお聞きになったガレオン国王陛下が、貴様にどの様な判決をお下しになるか・・・。 せいぜい楽しみにしていると良い。」
女は目を見開き、顔中に脂汗を流しながらガタガタと震えだした。
確かに、この女が直接手を出した訳ではない。
しかし間違いなくこの女のせいで一人の幼い少年が、命を落としたのだ。
そして、この事実が、陛下にお渡しする記録水晶にしっかりと記録された。
実際、陛下が如何に判決をお下しになるかは私にも分からない。
しかし、この女が軽犯罪奴隷などではなく、重犯罪奴隷になる可能性はかなり大きくなった。
これが、私がこの女に出来るささやかなお仕置きだ・・・。
私は踵を返すと、ガタガタと震える女を無視し、後は王国騎士団員の面々に任せて取調室を後にした。
********** 悪徳領主リドリー・ゴルドー **********
俺の父親は実に愚鈍な男だった。
バドリー・ゴルドー伯爵。
この巨大な城塞都市、シャウエッセンの街の領主で、王国の貴族と言う立場にありながら、唯一の自慢が実直である事などという、モノの役にも立たないつまらない男だ。
当家が所有する広大な荘園の農地の収益の殆どを、シャウエッセンの街の補強と、街の人間達の為に長きに渡って使い続けて来た。
金こそが一番大切だと常々考えている俺は、もっと屋敷に金を残すべきだと考えていた。
しかし幾ら俺が意見しようとも、父は一切耳を貸さない。
「これが陛下のご意思だ。」
何時もこの一言で話が終わる。
だから俺はこの父が邪魔で仕方なかった。
しかし、五年前、遂に俺に好機が訪れた。
父が病に倒れたのだ。
急遽領主の代役に決まり、俺は以前から考えていた作戦を実行する。
病に伏せる父に毒を盛ったのだ。
腕の良い魔法医など迂闊に呼んで、万が一回復されたら堪ったものでは無い。
治療の為、他所の街の高名な魔法医を呼ぼうと、手続きを行っていた爺の眼が離れた隙に、以前から何時か父に盛ってやろうと入手していた毒を、病身の父の飲み物に混ぜてやった。
効果は抜群で、父はあっさりと死んでしまった。
そして俺はこのゴルドー家を継いだのだ。
悲しみにくれる使用人達を尻目に、俺は一人ほくそ笑んでいた。
▽
それから三年、気が付けば、昔から当家で働いていた使用人の大半が辞めてしまっていた。
この俺に意見する目障りな奴等を、次々と首にしていたのだ。
俺は、父の様に頭の悪い事はしない。
街の維持費に回す金は必要最低限。
教会への寄付も大幅に減額していった。
しかし、そんな俺の行動を窘める奴等がいた。
先代の様にもっと街の為に金を使えと言ってくる爺も首にした。
別に俺としても、下らない意見をしてくる奴など、傍にいても邪魔なだけだし、使用人など新たに雇いなおせば良いだけの事。
爺を解雇して、清々した俺は更に自由気ままにやりだした。
気付けば、俺は街の連中から無能領主と呼ばれていた。
尤も、表立ってそのように言ってくる者など一人も居はしない。
あくまで陰でそう呼んでいるだけだ。
しかし、そんな情報くらい直に俺の耳にも入る・・・。
そんな時だった、あの男が俺の前に現れたのは―――。
▽
ゲスパーという名のその男は、俺にある提案をして来たのだ。
「リドリー様、この街ごとニクロム帝国に売り渡す気は御座いませんか?」
俺も最初は戸惑ったさ、流石にそれは無いと思った。
しかし、この俺を全く評価しようとしないこの街の人間共や、ガレオン国王にそこまで義理立てする必要があるのかと・・・。
なんでも、帝国軍がこの街を襲撃する手引きをすれば、俺は帝国の貴族として取り立てられるという。
しかも、その報酬として金貨1000枚も約束してきたのだ。
そして、占領後のこの街は王国襲撃の為の拠点とするとの事だったが、俺が望めばそのままこの街の領主になってもいいという。
だから俺は帝国に手を貸す事にしたのだ。
▽
俺はゲスパーを新たな執事として雇い入れ、帝国の襲撃作戦に向けて準備を始めたのだ。
計画は順調に進んでいた。
帝国軍が侵入する為に、城壁の門の一つをあえて脆く細工し、王国騎士団の見張りから盲点になりやすい接近経路も確保した。
そして、多くの衛兵達には決行日直前に休暇をやり、街の警備を手薄にする事で、王国騎士団の手が必然的に足りない状況をつくりだしたのだ。
作戦当日、俺は戦闘に巻き込まれて死んでは堪らないので、屋敷の地下に避難していた。
当然、俺の屋敷には攻撃をしないように話は付けておいたが・・・。
▽
しかし、全ては失敗に終わった。
計画は完璧だった。
見張りの目を盗み、城壁の近くに集まった大量の帝国軍の兵士。
王国騎士団の警備が手薄な時間を狙って、細工をした門を破壊して一気に街に雪崩れ込む。
パニックになった街の人間を次々と襲い、逃げ惑う人々に邪魔されて思うように攻撃できない王国騎士団を次々と撃破していく。
あと少しで王国騎士団を壊滅出来るという時に、奴等が現れた。
元王国騎士団の戦士で、引退後はこの街で隠居していたという夫婦。
こいつらが、ありえないレベルで帝国軍に抵抗したのだ。
王国騎士団の詰め所前に篭城しながら、そのたった二人の戦士は、約三割の帝国軍兵士を倒し、帝国軍の部隊将軍までも倒してしまったというのだ。
しかし、流石に数の差には勝てず、遂にその二人も倒れた。
それで全てが終わる筈だったのに、あの悪魔が現れたのだ!!
デブリンガー・アブラハム将軍。
王国遊撃部隊と言う特殊部隊を率い、王国内ならばどこにでも即座に現れて、どんな強敵をも打ち倒すという最強の部隊。
奴等が間に合ってしまったのだ。
もし、あの時間稼ぎが無かったら、もっと早く転送屋を支配下に置き、奴等の侵入を防ぐ事が出来たものを。
▽
結果、侵略しようとした帝国軍は全滅。
俺は、防衛を放棄した責任を取らされ、子爵に降格のうえ、領地の半分近くを没収されてしまった。
しかし、全てを諦めかけた俺に、ゲスパーは帝国への亡命を進めて来たのだ。
だが、ただ亡命するという訳には行かず、皇帝への手土産として、集められるだけの金を集めて亡命しようというのだ。
結局このまま、この貧乏な街に居ても未来は無いと判断した俺はその提案に乗る事にした。
その後、国王から支給された見舞金をくすねようとしたのが、恩賞のメダリオンには見舞金の支給額と王国の為に命を落とした者の名前が刻まれていた為に、金額を誤魔化せない。
仕方無く、恩賞のメダリオンが無い者からだけ見舞金をくすねる事にした。
そこに、ゲスパーが入れ知恵をしてくる。
見舞金を受け取った子供だけの家から、金も家も奪ってしまってはどうだというのだ。
死んだ親の遠い親戚のフリをして子供に近付き、恩賞のメダリオンと見舞金を奪ったら家から叩き出す。
後はその家を売却し、その金すらも自分の物とするというのだ。
俺は、その作戦を実行する為に、衛兵に捕らえられていたコソ泥の女達を脅し、協力させることにした。
男の方が数は多く、確保しやすかったのだが、男では子供が警戒するだろうと考えたからだ。
俺の作戦は上手く行った。
馬鹿なガキ共は面白いように引っかかり、我々は次々と屋敷を手に入れていった。
俺は、もうどうせ亡命するのだからと、自重せずにどんどん屋敷を売り払っていく。
そろそろ屋敷の乗っ取りを始めてから、一年が経とうとしていた。
金も大分貯まって来たが、まだ乗っ取りが出来そうな屋敷はいくつか残っている・・・。
「しかし、そろそろ潮時か・・・。」
確か、近々売るはずの屋敷はかなりの豪邸で、既にある貴族からかなりの金額で打診が来ている。
「あれを売ったら、この街を出るとするか。」
俺がそう言うと、傍にいたゲスパーが尋ねてくる。
「それでは、今まで協力させてきた女達は如何されますか?」
ふむ、あの元盗人の女達か・・・。
奴等は、騎士団に感付かれた時に囮として使う為に仲間に引き入れてあるのだ。
その為に、態々家財道具を売った金は自分の物にしても良い事にして、頻繁に古道具屋に顔を出させている。
どうせ、庶民の家財道具などたいした金にもならないしな・・・。
もし何かあったら、先ず奴等に目が行く筈だ。
そして我々はその隙に他の街へ逃げる段取りになっている。
「必要とあれば、私が始末して参りますが?」
物騒な事を言い出すゲスパー。
俺はあまり生臭いのは好きではないのだ。
「そうだ、一緒に亡命させてやると帝国まで連れて行けばいい! 荷物持ちも必要だしな。」
「それでよろしいので?」
「ふふふ、それで帝国に着いたら、奴隷として売り払えば良いだろう? ゲスパー、隷属魔法のスクロールを人数分用意しておいてくれ。」
「承知致しました。」
ゲスパーはクククと笑った。




