EX02A_鴉羽さんは焦ってる
少し前、アタシ・鴉羽雛乃に彼氏ができた。
と言っても特に恋愛感情があったワケじゃなくて、面倒ごとに巻き込まれてるっぽいところを助けたついでに流れで付き合うことになったんけど。
最近、その彼氏との関係で困ったことが起きていた。
「あ、鴉羽さんここだよ」
アタシの隣を歩いていた彼氏・古内裏幸成がそう言って目の前の建物を指す。大きくエントランスが開いた近代的な建物、映画館だ。
今日はアタシが古内裏に借りてドはまりした漫画『ソロ・ロッカー』の実写劇場版が上映されているとのことだったので、こうして二人で見に来たワケなんだけど……。
「何年か前の映画だけど、ちょうどリバイバル上映してるところがあってよかったね鴉羽さん」
「え、あ、うん、そうだね? よかったよかった!」
「…………?」
ぼ~っと古内裏の横顔を眺めていたところで急に振り向くもんだから、慌てて目を逸らした。おかげでちょっと上ずった声が出ちゃったじゃんか! もー……変に思ったかな?
今日は珍しく古内裏から提案されたデートプランだ。前にノープランのデートで映画館に入ろうとしたときはけちょんけちょんにコキ下ろしてやったけど、今回はあらかじめ「映画を観る」という予定から始まっているので問題なし。
ここ二ヶ月半くらいのあいだにあちこち連れ回したおかげで、古内裏のエスコート力もまぁまぁ様になってきた。
それは全然いいことだ。いいことなんだけど……問題もある。
「あ、チケットはカップル割りで取ってあるから一緒にこっちのゲート来てね」
「…………うん」
さっとスマホを取り出しオンラインチケットの二次元コードを呼び出す古内裏。
恥ずかしげもなくカップル割りを利用するその姿に、まぁいいんだけど、少しモヤモヤしたものを感じる。
ちょっと手馴れてき過ぎてないかコイツ……? 前にアタシがカフェでカップル特典を頼んだ時なんか、そりゃもう顔を真っ赤にして照れてたくせに。
別に、手馴れすぎてる男は嫌だとか言うつもりは無い。あたふたする古内裏を見てるのはそれなりに楽しくもあったけど、こうして頼もしくなった古内裏を見ていると自分の教育の成果を実感できるし、それはそれで悪くない。
じゃ、何が問題かって言うと――
「おっと」
正面から山盛りのポップコーンと飲み物を持って近づいてくる男三人組。談笑しながら歩いているせいか周りを見ておらず、危うくアタシとぶつかりそうになる。
すると古内裏がアタシの腰に手を添え、そっと自分の方へと引き寄せた。
「!」
夏も近いから今日のトップスはシャツ一枚。思いのほかぐっとした力と手のひらの熱をダイレクトに感じて、心臓が跳ね上がる。
「急にごめん。鴉羽さん、大丈夫だった?」
「う、うん。ぜぜぜぜんぜんよゆーだし?」
いや、焦るだろーが! 急に女子の腰を掴むんじゃない!
普段なら、腰は女の子の性感帯なんだよ?……とか言ってからかうところなのに、今日のアタシは心配そうにこちらを見る古内裏を見ていられず、さっと目を逸らして距離を取る。
そう、問題だ。
大問題だ。
最近アタシの彼氏がかっこよくなり過ぎてて、まともに目も合わせらんないなんて。
◆
別に、古内裏が初めての彼氏というわけじゃない。
自慢だけどアタシは昔からモテた。
いつもクラスの中心にいるギャルで、しかもバスケ部ではエース張ってる人気者。特に中学時代は同級生だけじゃなく先輩、後輩、果ては学外の男子やOBの卒業生まで、色んな相手がアタシに言い寄ってきた。
明らかに「そういう目的」のヤツはソッコーでお断りだけど、中にはまぁ悪くなさそうと思う相手もいて、付き合ってみたこともある。
けど今にして思えば彼らにとって、アタシという彼女は半分以上がトロフィーか勲章みたいなものだったんだと思う。要は「俺はこんなギャルを彼女にできるくらいの男なんだぞ」とアピールするための飾り物だ。
まぁ、中学生にしてアタシみたいなギャルと付き合おうなんて男子は大抵が自信過剰で自己肯定感のカタマリみたいなヤツだし、それも仕方のないことかもね?
けどアタシはどーせ付き合うなら相手のことをよく知って好きになりたいタイプだし、逆に自分のことも知ってもらって好きになって欲しいタイプだ。
必然そういう連中とはウマが合わず、付き合い始めてしばらくしたら別れるといったことの繰り返しが続いた。
そこいくと古内裏はそういうヤツらとはだいぶ毛色が違う。
目立たず大人しく教室のすみにいるような陰キャで、付き合い始めた頃は全然頼りなくて、とことんズレてるヤツだった。
けどいつでもアタシの話を真面目に聞いて、イジれば照れるし腐せばヘコむし、何かアドバイスすればすぐさまそれを実践してみせる。
最初はアタシに捨てられないように必死で可愛いなぁ、なんて思ってたけど、次第に分かってきた。
なんと、ヤツは生意気にもアタシと対等に並び立つ存在になろうとしていたのだ。
分不相応。そう言ってしまえば簡単なんだけど、それは紛れもなく自分とアタシとの距離を縮める行為だった。
少なくとも最初から対等か、あるいは自分の方が上だと思って歩み寄ろうとしなかった元カレ連中よりは好感が持てる。
……でもそれは「好き」とは違う感情のはずだった。
例えるなら、子猫が自分のいるところに登ってこようとにゃーにゃー頑張る姿は誰だって可愛く思う。そんな感じだ。
いつからだろう……古内裏の言うことやることにドキッとしたりきゅんとしたりするようになったのは。
髪型もまともにセットできない、デートのエスコートもおぼつかない、それでいて変に気をまわして空回りしてばかりだった古内裏は、いつの間にかアタシに言われずともマリが男子苦手なことに気付いて気を遣ったり、球技大会でヘコんでいるアタシを元気づけたり、果てはアタシのために校長に啖呵を切ったりできるヤツになっていった。
そしてトドメに、あの堂々たる告白だ。
自分が大事に育ててきた結果とは言え、予想を超えて成長しすぎてる!
アタシも勢いに呑まれて、あ、あんなことしちゃうし……。
ちょっとヒマ潰しに遊んでみるかと付き合った陰キャが、立場逆転してアタシをメロつかせる側になってしまったのだ。
ああ、問題だ。
大問題だ。
お待たせしました!
本当はある程度ストックしてから再開しようかと思ったのですが、せっかくこういうストーリー形式なので書きあがった分から上げていくことにします……!
あとこれとは別に新作短編もアップしているので、よければご覧いただけると嬉しいです!
https://ncode.syosetu.com/n3241ml/
更新はだいぶ不定期になると思いますが、よければ読んで感想などいただけると嬉しいです!




