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  作者: Yonohitomi
一章
84/177

91.蘇る孤独


黒訝は、あれ以来、蓮次を強引に連れ出すことはなかった。気にする素振りすら見せず、任務なのか、外へ出ていることが多い。


蓮次にとっては、煩わしい衝突が減ったという意味では気楽だったが、同時に何かを失ったような気もしていた。


耀も同じく、あれほど頻繁に部屋を訪れていたのに、今ではそれも落ち着いていた。蓮次の体調が安定してきたからだろう。


烈炎もまた、若い鬼たちに戦い方を教えたり、各地の防衛を見回ったりと忙しそうにしていた。


朱炎も忙しいのか、しばしば屋敷を空けている。


(これが、鬼の生き方……?)


落ち着いて周囲を見渡せば、誰もが己の役割を持ち、それを果たしていることに気づく。


朱炎一族の山は何十にも及ぶ警備が敷かれ、鬼たちが交代で見張りにつく。

戦える者は結界の維持や外敵の監視を任され、経験の浅い者や若い鬼たちは皆、戦の訓練に励んでいた。


蓮次と同じくらいの年頃の鬼たちが真剣な眼差しで剣を振るう。

その姿を目にした時、心のどこかがざわついた。


自分はあの輪の中にはいない。ただ屋敷の中にいるだけの存在。それだけだ。


ふと、人間だった頃の記憶が蘇る。あの時も、自分だけは除け者のようだった。


結局、今もそうだ。


人の屋敷にいた頃と変わらず、鬼の屋敷でも馴染めない。

黒訝からは「特別扱いされている」と言われたが、特別なのではなく、特異なだけではないかと思う。


蓮次は暇を持て余し、時々、山の中を彷徨いた。


この山には、鬼が営む宿屋や茶屋のほか、幻術を使って占いや見世物を提供する小屋もある。


美酒を振る舞う店もあれば、人間相手の遊郭のような楼もある。


人間を招き入れるために、様々な趣向を凝らした建物があり、人間さながら商人や職人として店を切り盛りし、客をもてなしている。


人間を楽しませ接待する者。人間を狩ったあとに処理する者。

広大な山に張られた結界を維持する者。出入りする鬼を取り締まる者。

各地の情報を集める者。人間との取引を担当する者。


鬼たちはそれぞれの仕事に従事している。

誰もが自分のなすべきことを理解し、働いているのだ。


だが、蓮次だけは違った。


「……俺は、何をすればいい?」


ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

人間でもなく、鬼の中にも溶け込めず、ただこの場にいるだけの存在——。


蓮次はため息をつき、遠くに瞬く建物の灯りをぼんやりと見つめた。


何もない。


何かをしろと命じられることもなく、果たすべき役割もない。ただ、ここに置かれているだけ。


最初は「退屈」だと思った。それが今は変化して、胸の奥がじわりと軋む「何か」になった。


——孤独だ。


そう気づいた瞬間、ひどく虚しくなった。

なぜ、自分には何も役割を与えられないのだろうか。


(鬼になりたくないから?)


日に日に、疎外感が増していく。

このままここにいることに意味があるのか?

鬼にならないなら、ここにいる意味などないのではないか。

そんな考えが頭をよぎる。


(逃げるか?)


けれど、行く当てもない。

屋敷の中を歩いた。気晴らしのつもりだった。


だが、行く先々で鬼たちに出会い、目が合うたびに頭を下げられる。これは面倒だった。


自分が何者かも分からないのに、周囲はまるで蓮次が「鬼の主」とでもいうように接する。


こんなものは求めていないのに。


蓮次は足を止めた。

気がつけば、あの部屋の近くまで来ていた。


——ここは。


「前世の蓮次」が暮らしていた部屋。

恐ろしい鬼の部屋。


はじめてこの部屋に案内された時には、恐ろしすぎて腰を抜かした。


自分が鬼になりたくない理由。それがここで輪郭を持ち、はっきりと見えた気がしていた。


——きっと触れてはいけないものだ。


部屋の戸が、わずかに開いている。

蓮次は喉を鳴らした。


なぜ、自分はここに来てしまったのか。


足は勝手に動く。


部屋に入ってはいけないはずなのに。

自分が何者なのか、何者だったのかを確かめたくて。



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