11.遠ざけられる手駒
家長は屋敷の一室で、蓮次の傷の具合についての報告を聞いていた。
まだ七つの蓮次が命を賭して任務を果たし、今も苦痛に堪えながら休んでいるという。
「傷が深かったにもかかわらず、蓮次様は一言も声を上げませんでした。…あの子は、まこと尋常ではありません」
その言葉を耳にしながら、家長は冷めた目を伏せ、考えを巡らせる。
異質な存在。
蓮次がそうであることは、もはや疑いようがなかった。
白い髪、常人離れした耐久力、そして人の気配を察知する不気味なほどの鋭敏さ。
剣術においてもただの子供の域を超えていた。
「さて、どうすべきか……」
蓮次は血のつながりのない身である。彼は捨て子だった。
家長にとって、蓮次は使いようのある駒。しかし最近は、その異質な能力は、自身の制御をも超えるのではないかと思えた。
異質。さらには、不気味。
(遠ざけておくのが賢明か……)
心中でそう呟くと、家長は報告を終えた家臣を下がらせた。
ふと近頃囁かれている噂が脳裏をよぎる。
町では夜な夜な子供が狙われているという恐ろしい話が広がっていた。
噂はしだいに形を持ち、鬼の仕業ではないかと、まことしやかに囁かれるようになっている。
家長はこの噂を利用し、蓮次を町に送り出そうと考えた。
蓮次の異常な気配の察知力を持ってすれば、その“鬼”と噂される殺し屋のような存在を見つけることもできるだろうし、始末できれば報酬も得られる。
「蓮次にとっては、これまで以上の試練にはなるだろう……」
家長の唇が僅かに歪む。
(町でその“殺し屋”を仕留めるまでは戻るなと命ずるか? 例えそれが命を落とすようなことになろうとも。その命が、我が家の役に立つのであれば)
家長の心には、蓮次への憐れみも慈しみも、微塵もなかった。
ただ利用する価値があるだけ。
彼は再び家臣を呼び寄せ、翌朝には蓮次に新たな任務を命じる段取りを指示した。
こうして蓮次は傷を癒やしきる間もなく、さらに過酷な任務に放り込まれることになる。
(成長する度に不気味さを増している。どうせ実の子ではない。別に死んでも構わん……)
家長の胸の奥にある冷酷さがまた一段と深まっていった。




