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  作者: Yonohitomi
一章
7/183

10、11話 傷に染みる



「あと少し……あと少しで、着く……」


 激痛と寒気が体を駆け巡る。出血と空腹、意識の遠のく感覚に耐えながら、蓮次は歯を食いしばり、足を引きずって進んでいた。

 今にも倒れそうだったが、それでも歩みを止めなかった。


 やがて屋敷が見えてくる。門前には夜勤の門番が立っていた。

 暗闇の中、ふらつく小さな影を見て一瞬戸惑う門番だったが、蓮次の顔を確認した途端、彼の目は見開かれた。


「なんと! どうされましたか!」


 門番は駆け寄り、倒れそうな蓮次を支えながら屋敷の中へと急いだ。


 蓮次は痛みに顔を歪めながらも、自分の足で歩こうとしたが、もう限界だった。

 膝から崩れる蓮次。


 門番は蓮次を抱えて走った。

「このままでは危ない……急いで手当てを!」


 屋敷の者たちは、蓮次を見ては次々と息を呑み、すぐに手当ての準備に取りかかった。

 年配の男が薬箱を抱えて駆け寄る。

 また別の男は蓮次の血で染まった衣を引き裂いた。


「息を整えておくれ……少しばかり痛むが、我慢しておくれよ」


 止血のための薬酒をたっぷり染み込ませた布を、傷に押し当てる。

 傷に染みた。けれど、蓮次は一度も声を上げなかった。


 その姿に、周囲の者たちは言葉を失う。

 この子はおかしい。子供らしさの欠片もない。

 妙な空気が広間に漂った。


「これを噛んでおきなされ」

 男は手ぬぐいを蓮次の口元に差し出し、さらに薬草を塗り、布を丁寧に巻きつけた。


「これで血は止まるだろう。しばらくは安静にしておくべきですな」


 処置を終えた蓮次はうつ伏せに寝かされた。背中の激痛は収まらず、体は高熱に蝕まれている。


 だが、意識が遠のく間も胸を占めていたのは――

 任務に失敗した自分を、父はどう見るのかという恐れだった。


 深い闇の中で、蓮次はただ孤独な苦しみに耐え、命の火を繋ぎ続けていた。


***


 そのころ、家長は一室で蓮次の容態を聞いていた。

 まだ七つの蓮次が命を賭して任務を果たし、今も苦痛に堪えているという。


「傷が深かったにもかかわらず、蓮次様は一言も声を上げませんでした。…あの子は、まこと尋常ではありません」


 家長は冷めた目を伏せ、考え込む。


 ――やはり、異質。


 白い髪、異常な耐久力、そして人の気配を察知する鋭敏さ。剣術もすでに子供の域を超えている。


(遠ざけておくのが賢明か……)


 蓮次は拾った子にすぎない。家長にとっては使える駒でしかなかった。


(次の任務は、さらに遠くへ……)


 近ごろ町では、夜な夜な子供が狙われるという噂が立っている。鬼の仕業だと囁かれる「殺し屋」のような存在。


 家長はその噂を利用することを思いついた。蓮次がそれを仕留められれば報酬が入る。もし死んだとしても、都合が良いではないか。


「蓮次にとっては、これまで以上の試練にはなるであろう……」


 家長の唇が僅かに歪む。

 憐れみも慈しみも、そこにはない。


 家長は翌朝、蓮次に新たな任務を与える。

 こうして蓮次は傷の癒えぬまま、さらに過酷な任務に放り込まれることになる。


 

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