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  作者: Yonohitomi
一章
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10.傷に染みる



「あと少し……あと少しで、着く……」


 激痛と寒気が体を駆け巡る。出血と空腹、意識の遠のく感覚に耐えながら、蓮次は歯を食いしばり、足を引きずって進んでいた。

 今にも倒れそうだったが、それでも歩みを止めなかった。


 やがて屋敷が見えてくる。門前には夜勤の門番が立っていた。

 暗闇の中、ふらつく小さな影を見て一瞬誰かわからなかったが、顔を確認した途端、門番の目が見開かれた。


「なんと! どうされましたか!」


 門番は駆け寄り、倒れそうな蓮次を支えながら屋敷へと急いだ。

 蓮次は痛みに顔を歪めながらも、自分の足で歩こうとしたが、その力はもう限界だった。


「このままでは危ない……急いで手当てを!」


 屋敷の者たちは息を呑み、すぐに手当ての準備に取りかかった。


 年配の男が薬箱を抱えて駆け寄り、蓮次の背中を血で染めた衣を裂く。


「息を整えておくれ……少しばかり痛むが、我慢しておくれよ」


 薬草を混ぜた布を手に取り、止血のための薬酒をたっぷり染み込ませて傷に押し当てる。

 痛みが体を貫いたが、蓮次は声を上げなかった。

 その姿に、周囲の者たちは言葉を失う。――この子はただ者ではない。


「これを噛んでおきなされ」


 男は手ぬぐいを蓮次の口元に差し出し、さらに薬草を塗り、布を丁寧に巻きつけた。


「これで血は止まるだろう。しばらくは安静にしておくべきですな」


 処置を終えた蓮次はうつ伏せに寝かされ、荒く息を繰り返す。

 背中の激痛は収まらず、体は高熱に蝕まれていった。


 意識が遠のく中、胸を占めていたのは――

 任務に失敗した自分を、父はどう見るのかという恐れだった。


 薄暗い天井を見つめながら、声も出せずに思いが渦巻く。

 深い闇の中で、蓮次はただ孤独な苦しみに耐え、命の火を繋ぎ続けていた。




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