10.傷に染みる
「あと少し……あと少しで、着く……」
激痛と寒気が体を駆け巡る。出血と空腹、意識の遠のく感覚に耐えながら、蓮次は歯を食いしばり、足を引きずって進んでいた。
今にも倒れそうだったが、それでも歩みを止めなかった。
やがて屋敷が見えてくる。門前には夜勤の門番が立っていた。
暗闇の中、ふらつく小さな影を見て一瞬誰かわからなかったが、顔を確認した途端、門番の目が見開かれた。
「なんと! どうされましたか!」
門番は駆け寄り、倒れそうな蓮次を支えながら屋敷へと急いだ。
蓮次は痛みに顔を歪めながらも、自分の足で歩こうとしたが、その力はもう限界だった。
「このままでは危ない……急いで手当てを!」
屋敷の者たちは息を呑み、すぐに手当ての準備に取りかかった。
年配の男が薬箱を抱えて駆け寄り、蓮次の背中を血で染めた衣を裂く。
「息を整えておくれ……少しばかり痛むが、我慢しておくれよ」
薬草を混ぜた布を手に取り、止血のための薬酒をたっぷり染み込ませて傷に押し当てる。
痛みが体を貫いたが、蓮次は声を上げなかった。
その姿に、周囲の者たちは言葉を失う。――この子はただ者ではない。
「これを噛んでおきなされ」
男は手ぬぐいを蓮次の口元に差し出し、さらに薬草を塗り、布を丁寧に巻きつけた。
「これで血は止まるだろう。しばらくは安静にしておくべきですな」
処置を終えた蓮次はうつ伏せに寝かされ、荒く息を繰り返す。
背中の激痛は収まらず、体は高熱に蝕まれていった。
意識が遠のく中、胸を占めていたのは――
任務に失敗した自分を、父はどう見るのかという恐れだった。
薄暗い天井を見つめながら、声も出せずに思いが渦巻く。
深い闇の中で、蓮次はただ孤独な苦しみに耐え、命の火を繋ぎ続けていた。




