6.囚われた使命
この日も、畳の上に倒れ込むように眠りに落ちた。
布団もかけず、冷えた床に囚われるように。意識の奥へと深く沈んでいく。
ここは、また夢の中だ。
暗く霞んだ景色の中で、何かと必死に戦っている小さな姿がある。誰かと思ったが、それはよく知っている――自分だ。
懐かしいと思う。けれどここは、知らない風景のはず。
どこかで見たことがあるのだろうか。
あたたかくも苦しい思いはなぜだろう。
手には刀を持たず、鋭い爪を伸ばし、目の前の敵に立ち向かっていた。
相手の肌を裂く感触に何も思わない。
負けるわけにはいかないと必死だった。
父に認められたい。
それだけだった。
目が、覚めた。
瞼の裏に、まだ夢の残滓がちらついていた。
布団を敷かずに寝たせいか、肩がひどく冷えている。
夢の名残が指先に残っている気がして、ゆっくりと両手を見つめた。
爪に泥はついていない。血の気配もない。
ただ戦っていたのは確かだったという感覚が残るのみ。
さっさっ、と音がする。
障子の向こうで、小さな足音は止まった。
「蓮次様、家長様がお呼びです」
こんな朝から何の用だろうと不思議に思ったが、蓮次はすぐに返事をし、身支度を整えた。
父の期待に応えたい。
その一念が、胸の内に静かに灯る。
廊下を進み、広間へ向かった。
父を目の前にすると、今日はなぜか緊張した。何かが異なる。
蓮次は膝をつき、深く頭を下げた。
顔を上げると、父の視線が真っ直ぐに向けられている。
「蓮次――お前に任務を与える。敵対する一族の動向を探る密偵だ」
重い声が、空気を断つように響いた。
蓮次は無言のまま、父の言葉の続きを待つ。
「お前の気配を探る力は素晴らしい。その力で敵の屋敷に忍び、誰にも気づかれぬよう情報を持ち帰れ」
心臓が一瞬、強く打った。
身体の奥で熱が灯るような感覚。
父に、褒められた。
幼いながらも、自分には特別な役目があると信じてきた。この異質な力は、きっと家族の役に立つ――そう思っていた。
だからこそ、胸が高ぶる。
父が、自分を選んでくれた。
密偵という役目に不安はあった。だが、それ以上に――誇らしかった。
「かしこまりました、父上。必ずご期待に応えてみせます」
そう告げると、父は静かに頷いていた。微かな笑みも見て取れた。
けれど、どこか冷たさの残る目に、違和感もあった。
高ぶる気持ちが、すんと冷える。
(でもきっと、大丈夫……)