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  作者: Yonohitomi
一章
6/151

6.囚われた使命





 この日も、畳の上に倒れ込むように眠りに落ちた。


 布団もかけず、冷えた床に囚われるように。意識の奥へと深く沈んでいく。


 ここは、また夢の中だ。


 暗く霞んだ景色の中で、何かと必死に戦っている小さな姿がある。誰かと思ったが、それはよく知っている――自分だ。


 懐かしいと思う。けれどここは、知らない風景のはず。


 どこかで見たことがあるのだろうか。

 あたたかくも苦しい思いはなぜだろう。


 手には刀を持たず、鋭い爪を伸ばし、目の前の敵に立ち向かっていた。


 相手の肌を裂く感触に何も思わない。

 負けるわけにはいかないと必死だった。


 父に認められたい。

 それだけだった。


 目が、覚めた。

 瞼の裏に、まだ夢の残滓がちらついていた。


 布団を敷かずに寝たせいか、肩がひどく冷えている。

 夢の名残が指先に残っている気がして、ゆっくりと両手を見つめた。


 爪に泥はついていない。血の気配もない。


 ただ戦っていたのは確かだったという感覚が残るのみ。


 さっさっ、と音がする。

 障子の向こうで、小さな足音は止まった。


「蓮次様、家長様がお呼びです」


 こんな朝から何の用だろうと不思議に思ったが、蓮次はすぐに返事をし、身支度を整えた。


 父の期待に応えたい。

 その一念が、胸の内に静かに灯る。


 廊下を進み、広間へ向かった。


 父を目の前にすると、今日はなぜか緊張した。何かが異なる。

 蓮次は膝をつき、深く頭を下げた。

 顔を上げると、父の視線が真っ直ぐに向けられている。


「蓮次――お前に任務を与える。敵対する一族の動向を探る密偵だ」


 重い声が、空気を断つように響いた。

 蓮次は無言のまま、父の言葉の続きを待つ。


「お前の気配を探る力は素晴らしい。その力で敵の屋敷に忍び、誰にも気づかれぬよう情報を持ち帰れ」


 心臓が一瞬、強く打った。

 身体の奥で熱が灯るような感覚。


 父に、褒められた。


 幼いながらも、自分には特別な役目があると信じてきた。この異質な力は、きっと家族の役に立つ――そう思っていた。


 だからこそ、胸が高ぶる。

 父が、自分を選んでくれた。


 密偵という役目に不安はあった。だが、それ以上に――誇らしかった。


「かしこまりました、父上。必ずご期待に応えてみせます」


 そう告げると、父は静かに頷いていた。微かな笑みも見て取れた。


 けれど、どこか冷たさの残る目に、違和感もあった。


 高ぶる気持ちが、すんと冷える。


 (でもきっと、大丈夫……)



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