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  作者: Yonohitomi
一章
37/177

44.夢か、それとも



 朦朧とする意識。曖昧な景色。


 体中に冷たい何かが何本も刺さっている。痛みは鈍いが、骨に響くような不快感が全身を締めつけた。


 しばらくすると、冷たさに加えて、激しい衝撃が落ちてきた。

 それは容赦なく、執拗に、何度も。

 蓮次の視界は徐々に鮮明になっていった。


 ――膝をついていた。

 木の台の上、柱に縛られたまま。


 陰陽師のような衣をまとった人間たちが周囲を取り囲んでいる。

 空気は張り詰めていて、ひどく冷たい。


 そして、また――刺される。

 鋭く、冷たく、無慈悲な刃が胸元を貫いた。


 息が止まる。痛みは鈍いが、内側を抉るような感覚が残る。刺さったまま、冷気が体の奥まで侵食する。


 ひどく、不快だった。

 そして、それで終わりではなかった。


 雷が落ちる。

 耳をつんざく轟音。視界が白く焼きつく。直後、全身が痙攣し、骨の奥まで衝撃が突き抜けた。


 焼け爛れたはずの体は、すぐに再生を始める。だが、治るが早いか、また錫杖が突き刺さる。繰り返し、何度も、何度も。


 耐えきれず、呻き声が漏れた。


 悲しかった。

 自分を拷問しているのが、人間だということが。


 彼らの手は冷たく、まるで鬼を裁くかのように迷いがなかった。


 ……違う。

 これは――何かがおかしい。


 今までの夢では、拷問していたのは鬼だったはず。

 なのに、今の夢では――人間が、鬼のような顔で自分を痛めつけている。


 一体、どちらが真実なのか。

 その疑念が胸に残る。



 蓮次はそこで目を覚ました。

 重たい意識が浮上し、朧げだった視界が輪郭を取り戻す。


 廃屋の天井は所々崩れて穴が空いている。そこから差し込む昼の光が、強烈な暑さを帯びていた。

 

 外は良い天気なのだろう。


 蓮次はゆっくりと体を起こした。すると、ふわりと何かが滑り落ちる。


 白い布。いや、違う。


 手を伸ばし、指先で確かめる。

 柔らかく、上質な織り。丁寧に仕立てられた着物だった。


「……朱炎か」


 誰がこれを置いたのか、考えるまでもなかった。あの男が、自分に着ろと言っているのだろう。


 蓮次は掛けられていた着物を手に取った。

 羽織り、自分の体を確かめる。



 しなやかで、引き締まった青年の体つき。


「……戻された?」


 呟いた声には、僅かに困惑が滲んだ。

 昨夜まで、蓮次の体は三歳児のように小さかった。まるで無力な存在にされたかのようだったのに。


 今は、元の体に戻っている。

 不自然なまでに、何事もなかったかのように。


 全身に鈍い痛みがあった。成長痛のような感覚だが、蓮次にとってはさほど気にならなかった。


 その時、不意に肌が焼けるような違和感を覚える。


 熱い。


 反射的に腕を見下ろすと、穴の空いた屋根から降り注ぐ直射日光が、皮膚を赤くただれさせていた。


「……っ」


 蓮次は咄嗟に影へと身を移す。

 壁際の薄暗い場所に入ると、肌を焼く痛みがじわじわと引いていくのが分かった。


 日差しを避け、改めて着物を身に纏う。

 その布は驚くほど馴染んで、炎の熱を遮る、冷ややかな着心地だった。


 朱炎の気配はない。だが、蓮次には分かっていた。


 あの男は、必ず戻ってくる。何を考えているのかは分からない。

 なぜ体を戻したのかも、なぜここに置き去りにしたのかも。いつも、何も説明されない。


 それでも、蓮次は確信していた。


「待つしかないか……」


 そう呟き、蓮次は態勢を整えて座り直す。


 胸の奥では、先ほどの夢がまだ燻っていた。鮮明すぎる、まるで過去の記憶のような夢。


『鬼に拷問されていたはずの自分』

 その夢が嘘で。

『人に拷問されていた自分』

 それが本当ならば、もしかして――。


 蓮次はそっと瞼を閉じた。


 目を逸らすように。

 けれど、消えない疑問と共に。


 朱炎の帰りを待つ。


 ――俺の前世は鬼だったのか?


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