元聖女はのんびりします
後ろでぎゃーぎゃー喚くアイラを横目にシャルディア様は眉を顰める。
「それでも私はアイラを選ぶ!」
「ヘンリー様!」
「確かにアイラは聖女の力がなくなるかもしれない……それでもアイラの癒しが民を救っていた! 力だってこれから増えるかもしれない!」
「それは分からんがな」
「っ……それでもだ」
国の王族としてその判断が良いのかは分からない。
それでもヘンリー殿下はアイラ様を選ぶと言っているのだから……
「殿下、婚約は解消しましょう」
「ミ…シャ」
「私では貴方を支えられません。 アイラ様とお幸せに」
殿下とは婚約者というだけの間柄。特に特別な感情はなかったけれどそれでも少し寂しいのはやっぱりそれなりに一緒に居たからだろう。
「私は聖女を辞めます」
「ミーシャそれはっ」
「私がいるのは国にとっても良くないですし」
「もしや国を出るのか?」
「そう、ですね。 それもいいかもしれません」
「なら、我の所に来るが良い」
「シャルディア様」
「ミーシャが聖女なのは変わらないと言ったであろう。 それに精霊達が喜ぶ」
『ミーシャ僕達の所に来るの?』
『嬉しい! ずっと一緒にいられるね』
『毎日お菓子が食えるな』
「皆……私が行ってもいいの?」
『大歓迎!』
「ありがとう…」
「待て! それは困る!」
精霊界に行く事を決めたミーシャに殿下が止める。
「それではアイラの力が無くなった時どうすれば……」
「それはお前達の問題だ」
「そんなっ」
「ミーシャよりその娘を選んだのだからな」
「しかし!」
それでも食い下がる殿下に……
「いい加減にして下さい!」
人前では滅多に怒らないミーシャが声を荒らげた事に驚く。
「殿下……要らないと言ったのは貴方でしょう。 私はアイラ様の代わりじゃないんです」
「ミーシャ……」
「安心しろ。 娘の力が無くなっても次の聖女が誕生するだろう。 まぁ、5年後だがな」
「ごねん、ご?」
「本来の聖女の交代は、大体10年ぐらいだ。 今の聖女はミーシャでその娘は聖女として祝福されていない為、後5年は聖女は誕生しないだろう」
「…………」
顔が青ざめる殿下。聖女がいないままでは民に示しがつかない。この国は精霊の国なのだから。
精霊に見捨てられたと民に思われ、それが王族のせいだと知られればどうなるか……。
「まぁ、せいぜい反省するがよい」
王族も重鎮達も何も言えず立ち尽くす。
「それより、ここは何故こんな嫌な感じがするんだ」
「え」
「これは生まれ変わる事になった精霊と同じ感じだ」
「良くないものって言ってたやつですよね。 でもあれは精霊だけに起こる事では?」
「そんな事はない、元々人間の負の感情が溜まったものが精霊につく事で今回みたいな事が起こるんだ」
「じゃあ、陛下や他の人たちがおかしくなったのはこれのせい?」
「原因は、完全にあの娘だと思うがな」
周りが落ち着かせようとするのを振り払うアイラ。
「普通はここまで周りに影響が出る事はないのだが…もしや本当に聖女の資格が有ったのか?」
ちゃんと祝福され、聖女になっていたらアイラはまた違ったのかも知れない。今となっては遅すぎる事だ。
「仕方ない」
そう言ってシャルディアが指を……
―パチン―
「わっ」
空気が変わったのが分かった。
「これは……一体」
すっきりしたのか目に輝きが戻った陛下。
「それでは陛下、もう会う事は無いかもしれませんが私はこれで失礼させて頂きます」
「ま、待つのだミーシャ!」
陛下の制止の声が聞こえたが、私はシャルディア様と精霊達とその場から姿を消す。
あれから、両親の所に行き今までの事と精霊界に行く事を伝えた。当然両親は驚いたし心配していたが、それよりも今まで気づかなかった事を涙ながら謝ってくれた。
好きに生きていいと、何かあれば頼ってくれと言ってくれた。
シャルディア様の姿を見て腰を抜かしていたのはちょっと笑った。
精霊界ではたくさんの精霊に出迎えられ、生まれ変わった精霊にも会う事が出来た。
※
「はぁー、今日も平和だね」
『ミーシャ、今日は何する?』
『あたしジャム食べたい!』
『お菓子……』
「そうね、ちょっと木苺が出来ていたしスコーンも焼いて載せましょうか」
『やったぁ!!!』
「ふふっ」
精霊達とも毎日穏やかに……時々わんぱくだけどそれでも幸せに過ごしていた。
すると頭上から……
「我の分もあるんだろうな」
「シャルディア様。 勿論ですよ、たくさん用意しますね」
「あぁ」
私とシャルディア様は結婚する事になった。
シャルディア様の温かさに惹かれ一緒にいたいと思いシャルディア様も私と同じ気持ちでいてくれた。
あの後国がどうなったかというと……
アイラ様は力がどんどん弱くなっていき民からのブーイングが凄かった。
陛下も参ってしまいミーシャに頼む事になった。プライドが高い殿下も土下座していた為、仕方なしに月に3回だけ手伝う事に。シャルディア様は嫌な顔をしていたけどミーシャがいいと言ったため仕方なしに許可する事に。流石にまずいと思ったのか、アイラ様は心を入れ替え自ら修行を始めた事で力の弱まりが止まり、もしかしたら後何年かしたら本当に聖女として祝福されるかもしれないとシャルディア様が言っていた。
「あの娘次第だがな」
ふんっ、と嫌そうにしつつアイラ様の努力は認めてきているのだろう。
「シャルディア様」
「なんだ」
「私、幸せです」
「そうか」
やっと完結しました。拙い文章を読んで頂きありがとうございました。
色々と書き足りない事が多すぎて不完全燃焼ですが(アイラの心情とか王妃とかその他諸々)とりあえず完結したのでほっとしています。
自分で書きながら意味が分からなくなったり、設定を忘れたりいつまでも精霊のミルクだけ覚えられないと言う事がおきましたが温かく見て頂けて感謝です。
今後は短編を書きつつ、苦手な長編も挑戦してみたいと思います。ありがとうございました。




