第三十二話 翼の参陣
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謁見の間を出た私を、ずっと待っていたレイが駆け寄ってくる。
「ロメリア様、どうでしたか?」
「アラタ王は快諾してくれましたよ」
私は少し事実を歪曲した。結果は同じなのだから、王が英断を下したとしたほうがいい。
「城の外では、カイルやオットー達が兵舎で待ちきれずに来ているようです」
レイの報告に私の口元が緩む。私は部下に恵まれている。
「分かりました。明朝ラナル防壁へと向かいます。翼竜は飛べますか?」
「大丈夫です。翼竜はその気になれば三日は飛べます」
レイが断言する。ライオネル王国では翼竜の第一人者である、レイが請け負ってくれると心強い。しかし三日も連続で飛べるとは驚きの体力だ。
そのままレイを伴い、王城ラクラーナの城門を出た。するとそこに、八人の兵士達が門の前に整列していた。彼らは城から出てきた私を見ると、一斉に駆け寄ってくる。
「ロメリア様、お待ちしておりました」
黒い鎧を身軽に弾ませるのは、ロメリア二十騎士のカイルだった。現在ではカイルレンと名を変え、将軍の地位にまでなっていた。その背後にはオッテルハイム将軍と名を変えた、オットーが山のような巨体を揺らして走る。更にロメリア二十騎士に名を連ねるベン、ブライ、ゼゼ、ジニ、ボレル、ガットがいた。全員、辺境とされていたカシューで、私に最初についてきてくれた兵士達だ。
「皆さん、久しぶりですね」
私は顔を綻ばせた。最初に会った時のことを思い出せば、皆が少し老けていた。しかし目の輝きは変わらない。新兵の時のように力強い。
「カイル、よく来てくれました。貴方の力を貸してくれますか?」
身が軽いカイルは、ロメリア二十騎士の中でも随一の俊足を誇る。その身のこなしは、目に追えぬほどだ。
「もちろんです。ご用命があれば、いつでも駆け付けますよ」
カイルは猫のように目を細める。
「オットー、エリーヌさんとエリオットは元気ですか? 急に呼び出してしまい、すみません」
私が視線を向けると、オットーは短い髪を掻いた。
オットーはエリーヌさんという女性と結婚しており、エリオットという男児をもうけている。まだ一歳にもなっていない子供から、父親を引き離すのは心苦しい。しかし魔王軍との戦いに、怪力を誇るオットーの存在は必要不可欠だった。
「ベン。また太りましたか? すみませんが、美食の追求はまた今度にしてください」
私はお腹の突き出たベンを見る。彼は二十騎士随一の健啖家で、おいしいものを食べるのが大好きだ。王都に居るといろんな物を食べられると喜んでいるが、またの機会にしてもらおう。
「戦場で料理をするのも好きですから」
ベンは朗らかな笑みを見せる。
「ブライ。兵士の訓練を切り上げてもらうことになりますね」
私は禿頭の巨漢を見上げた。ブライは人柄もよく面倒見もいい。新兵を預けると、短い期間で一定の水準に高めてくれる。彼を連れていくと兵士の育成に問題が出るが、オットーに次ぐ体格と力の持ち主であるため、戦線を支えるのに不可欠だ。
「ロメリア様のお呼びとあらば、どこにでもいきますよ」
ブライは禿頭をつるりと撫でる。
「ゼゼ、来てくれますか?」
「もちろんですよ、サッといって、ガーンとやって、バーンと戦って見せますよ」
ゼゼが満面の笑みを見せる。底抜けに明るいゼゼは、兵士達の士気をよく高めてくれる。今回の戦いは、苦戦が予想される。部隊を明るくするゼゼの力は役に立ってくれるだろう。
「お前、はしゃぎすぎて怪我をするなよ」
隣に居るジニが溜息を吐く。落ち着いて思慮深いジニは、気苦労が多い。しかしその分慎重で、また敵の攻撃を見切る目がある。
「ジニ、ゼゼを抑える役を頼みますよ」
「分かりました、ロメリア様。お任せください」
ジニは苦笑いを浮かべながらも頷く。
「ガット、お子さんが生まれるまでは、王都に居させてあげたかったのですが」
私は黒髪のガットを見た。彼はボレルの妹であるポーラさんと去年結婚した。ポーラさんのお腹の中には子供がおり、半年後に出産予定だった。
「いえ、ポーラにはしっかり戦ってこいと言われています」
ガットは顔を引き締め敬礼する。ポーラさんが妊娠してからというもの、ガットは顔つきが変わった。父親としての自覚が出来たのかもしれない。こうなると何としてでも、生まれる前に戦いを終える必要がある。
「ボレル、貴方も心配と思いますが……」
「いえ、お気になさらず。我が家は大家族ですから、出産はそれほど心配していません。子育ても母や親戚が手伝ってくれますので」
ボレルは問題ないと顎を引く。そういえばボレルの家系は大家族で兄弟が何人もいる。ポーラさんも弟や妹、親戚の子供の面倒をよく見ていた。子育ての経験は積んでいるので、私が心配することでもないかもしれない。
「皆さん。今回の戦いは、ガリオスとギャミが出てきています。厳しい戦いとなるでしょう」
私は巨漢のガリオスと小柄なギャミの姿を脳裏に浮かべた。ガリオスは見た目どおりの怪力無双の怪物だが、ギャミの頭脳もまた怪物だ。二頭の竜を相手にするに等しい。
「しかし、必ず倒さねばなりません」
私の言葉に、この場にいる九人が声を揃えて返事をする。裂帛の声が大気を震わせる。ガリオスとギャミの力を、ここにいる全員が知っている。だが誰一人として臆してはいない。
「アラタ王から移動に限り、翼竜の使用許可が出ました。明朝、日の出と共に出発します。それまでに準備を整えておくこと」
私の指示に兵士達が頷く。私は最後にレイを見た。
「レイ、私はこの後またヴェッリ先生のところに向かいます」
無理にカイル達を引き抜いたため、王都の現場では混乱が起きるだろう。最低限の後始末をしておかなければいけない。それにホヴォス連邦と同盟をするならば、その草案もある程度形にしておきたい。忙しくなりそうだった。
「分かりました。明日の朝はヴェッリ様のお宅に、翼竜でお迎えにいきましょうか?」
レイが気を利かせてくれる。私はお願いしますと言いかけて止めた。
「いえ、私の家、グラハム邸に迎えに来てくれますか?」
「それは構いませんが、何か忘れ物ですか?」
「ええ、長く忘れていたことを思い出しまして」
私はニッコリと笑顔を見せたが、レイは何のことか分からず首を傾げた。




