第三十一話 王との面会④
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私が王になりたいと言い切ると、鋭い声が飛んだ。
「この痴れ者め! 王になりたいなど謀反を口にしたも同然だ! セルゲイ、この者を斬れ!」
アーカイト王太子が私に指を突き付け、セルゲイも握る槍を私に向けた。
槍を構えるセルゲイが、一歩前に踏み出そうとしたその時、アラタ王が口を開く。
「待て、動くな!」
「何故です! 父上。この者は謀反人です!」
アーカイト王太子は語気を荒らげるが、息子を見るアラタ王の目は驚くほど冷たい。
「そのほうは黙っておれ」
アラタ王は氷の目を、そのまま私に向ける。
「王になりたいと、其方本気か?」
「いけませんか? 私はそれだけの手柄を立ててきたはずです」
私はこれまで、自分が成してきたことを思い返した。
「私はアンリ王子と旅をし、魔王ゼルギスを討伐しました。そしてセメド荒野の戦いではガリオスを撃退し、ザリアの乱では謀反人ザリア将軍も討ち取った。ガンガルガ要塞攻略戦においても、その武功を列強各国に知らしめました。私は十分な手柄を立ててきたはずです」
これまで立てた主要な手柄だけでも、歴史書に残る武勲と言える。
「この上で私はローバーンから魔族を追い出し、更に魔大陸に渡り奴隷となった人々を解放します。それだけの手柄を立てれば、国一つ貰ってもいいはずです」
「……国を得た後はどうするつもりだ?」
「もちろん、偉そうにして過ごしますよ。まぁ故郷に帰れないのは残念ですが、王様になれるのですから、それぐらいは……」
返事をする私に、アラタ王は目を細め刃のように鋭い瞳を私に向ける。背筋が凍り付きそうな視線だ。頭の中では私を殺すかどうかを考えていることだろう。しかしアーカイト王太子のように、すぐに殺せとは言わない。故郷に帰らないとした言葉に迷っているのだ。
アラタ王は猜疑心が強く、人を信用しない。だが一方で、利用出来る者を利用する人間でもある。私が魔大陸に赴き奴隷となった人々を救えば、ライオネル王国は人類を救ったと称賛される。当然アラタ王も、名君として歴史に名を残す。さらに私が魔大陸で自らの王国を築けば、私に謀反を起こされる心配もなくなる。
アラタ王にとっては、最大の障害が遠い海の果てに自分から出ていくのだ。
もちろん私に国をくれてやるのは嫌かもしれないが、海を隔てた魔大陸は遠い、誰かに統治を任せねばならない。適任は私しかいない。
「……世界の全てが、其方の思いどおりになると思っているのか?」
呟くような声で問うアラタ王に、私は笑った。
「全てが私の思いどおりになるのでしたら、もっと楽をしたいですね。私は私の望みを叶えるために、状況を整えているだけです。もしこれが駄目でも、次の手を取るだけです」
「傲慢な女め、そんなことが出来ると思っているのか?」
「逆に問いますが、何故出来ないと思うのです? 魔王ゼルギスを倒した時、私はアンリ王子とたった二人で旅立ちました。誰もが無謀だと言いましたが、私達は魔王を倒した。そしてカシューに向かった時、私は一人でした。女に軍を率いることなど出来ないと、誰もが笑いました。しかし今、私は万の軍勢を率いて戦場に立っています。何故出来ないと言えるのです?」
私はアラタ王の目を見て言い返した。
アンリ王子と二人で旅に出てから、すでに十年が経過しようとしていた。その間、私は多くのことを経験し、さまざまな困難を乗り越えてきた。そしてこれからも乗り越えていくだろう。
「アラタ王」
私が名を呼ぶと、アラタ王は背筋を震わせた。
「ホヴォス連邦との同盟ですが、王がされないと言うのであれば、私は構いません。新型の攻城兵器の使用を許可されずとも、私は構いません。二十騎士を派遣されないとしても、それも構いません。別の方法を取るだけです。そして私は必ず魔大陸に、あの魔族が支配する大陸に到達してみせます。どれほど時間を掛けてでも」
私は右の拳を握り締めた。
手袋に包まれた手は、布越しに爪が食い込む。かつて魔大陸を去るとき、私は爪が食い込むほど手を握り締め、必ず奴隷となった人々を救うと誓った。そしてこのような苦しみを次の世代に残さぬため、私が全てを終わらせてみせる。
それからしばらく後、アラタ王は私の願いを聞き入れてくれた。




