第二十二話 会議の後①
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六国の間で、私は会議で使用した資料をまとめながら小さく息を吐いた。
正午から始まった会議は数時間続いた。その間にさまざまな議題が円卓にのぼる。
各国がどれだけの戦力を持ち寄り、どこに配備するか。連合軍を維持する戦費を分担する割合や食料、武器、物資の供給をどこの国がするか。編成中の連合艦隊の進捗状況。予想される魔王軍の反撃に、それに対する対処方法。
議題は尽きず、会議は明日に持ち越しとなった。六国会議は三日にわたり開催される予定だったが、おそらく何日か延長されることだろう。それが何日になるかは、見通しもつかない。ただし忙しくなることだけは絶対確実であった。
私は首を動かし、会議で固まった体をほぐした。だが凝り固まった体は、簡単にはほぐれない。私にとって肩凝りや腰痛は、魔王軍と同等の敵となりつつある。
「お疲れのようですね」
レイが歩み寄り声をかける。その隣にはアルもいた。アルも私と同じく肩が凝ったのか、体を伸ばしている。
「貴方達も疲れたでしょう」
「ええ、クタクタです。戦争を一回終えた気分ですよ。これ何日続けるんです? こんなの連日やっていたら死にますよ」
アルが間延びした声で、嫌なことを言う。本当に、何日続くのだろうか。
「少し気分転換をしませんか?」
レイが六国の間のバルコニーに目を向けた。ガンガルガ要塞の主塔は高く、六国の間は塔の一番上にある。バルコニーに出れば遮るものは何もなく、北はディナビア半島まで望むことが出来る。気晴らしには丁度いいだろうと私は頷いた。そして二人を伴いバルコニーに出ると、私は思わず息を呑んだ。
西へと落ちる太陽が赤々と燃え、空を、森を、大地を朱色に染め上げている。まるで世界の全てが燃えているかの如き光景は、先程まで頭を占めていた悩みと疲労を忘れさせてくれた。
「すごいですね」
隣で声を漏らすのはレイだった。青い髪の彼は、同じく空のように蒼い鎧を身につけている。だが今は髪も鎧も赤く染め上げられていた。
「ロメ隊長、髪も服も真っ赤ですよ」
レイの隣に立つアルが私の背中に頭を向ける。私の亜麻色の髪も、レースがあしらわれた黒い上着すらも、茜色に染まっている。もっとも、かく言うアルは赤い髪に赤い鎧を着ているので、さらに赤味が増して紅蓮のようだ。私はアルとレイに笑みを返し。しばし言葉もなく夕陽を眺めた。
「……戦わなければいけませんね」
西に沈む陽を見ながら、アルが呟く。ガンガルガ要塞の西には、魔王軍の本拠地であるローバーンが存在する。さらにグラナの長城が聳え、ギレ山砦にはガリオスとギャミが立て籠もっている。ギレ山砦の攻略は、ライオネル王国に任された。戦いの準備を始めねばならない。
「今うちの手元にある戦力は四万人。ギレ山砦に立て籠もる魔王軍は一万体程。平地でならともかく、砦を攻めるには足りませんね」
アルが目を細め、冷徹に計算する。
魔王軍の兵士一体の戦力は、人間の兵士二人分に相当する。普通に戦っても互角の戦力。ギレ山砦を攻めるとなると、最低でも倍は欲しい。
「連合各国が兵士を出してくれることになりましたが、これは各地に割り振らねばなりません」
私は六国会議で決まった項目を思い出した。連合軍は二万二千人の兵力の派遣を決定した。しかしこれらがギレ山砦の攻略に使用されることはない。何故ならば魔王軍は、ギレ山砦以外にも戦力を分散しているからだ。
まずグラナの長城を封鎖する戦力が一万人は必要であるし、ギレ山砦以外にも再利用された砦が四つ発見されている。それらを封鎖するためにも、最低三千人は必要となる。これで二万二千人。これらはガンガルガ要塞やディナビア半島、そしてラナル防壁の守備兵から抽出した戦力だ。ほかの戦力をぎりぎりまで削ってのものであり、これが限界だ。
魔王軍に、いいように戦力を分散させられてしまっている。おかげでギレ山砦の攻略には、ライオネル王国一国で当たらねばならない。
「ライオネル王国からも、これ以上の増援は期待出来ないでしょう」
私は空を見ながら呟いた。ライオネル王国は常に四万人もの兵力を動員して、ラナル防壁の防衛に当たっている。
この出費は国庫に重くのしかかっており、これ以上の増援は望めないだろう。それに大軍を移動させるとなると、結構な日数がかかってしまう。ガンガルガ要塞やディナビア半島から、連合軍の兵士を集めるのは十日程かかる。逆に言えば兵力が集まった段階で、戦争を開始せねばならない。援軍を待っている時間的な余裕はない。
「手持ちの四万人で、何とかするしかありませんね」
私は溜息と共に、ギレ山砦のある西に目を向けた。
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