第十六話 六国会議③
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「ハメイル王国、ゼファー様、ご入城!」
私がヘレン王女に笑みを向けていると、ガンガルガ要塞の門より門番の声が響き渡る。私とヘレン王女が顔を向けると、大鷲の旗を掲げた兵士達が行進してくる。
入城してくる兵士達の数は千人程。その中ほどには三台の馬車が並んでいた。
「あら、ゼファー様も到着されたようですね」
ヘレン王女が大きな目を広げる。その声は先程より僅かに高い。
兵士達が馬車を護衛しながら要塞の広場に入り、主塔の前まで進むと行進を止めた。馬車も停車し私達の前で止まる。三台ある馬車のうち、一台は磨き上げられ艶やかな光を放っていた。御者が降りてきて扉を開くと、若い男性が姿を現す。
青年は肩に金のモールが施された黒い衣服に身を包んでいた。茶色い髪の下にある双眸は光が宿り、伸びた背筋と張られた胸には威厳と自信が満ち溢れていた。
私はこの青年を知っていた、ハメイル王国のアムブレスト公爵家のゼファーだ。
「なんだか印象変わりましたね」
背後にいるアルが呟く。確かに最初に会った頃は自信がなく、俯きがちであった。しかし父であるゼブル将軍の亡き後、アムブレスト公爵家を継いだ彼の活躍は目覚ましかった。軍事に内政、外交にと辣腕を振るい、今や宰相の補佐をするまでに至っている。名実共にハメイル王国を支える重鎮である。ゼファー公爵と呼ぶべきだろう。
「やっぱり結婚すると男って変わるんですかね?」
続けて呟くアルの言葉に、私もつい口元が綻ぶ。最初合った時は、ゼファー公爵はとても気弱な印象だった。しかし今や一国をを支える重鎮であり、堂々としたたたずまいを見せている。
「かもしれませんね」
アルからゼファー公爵へと顔を戻すと、馬車から降りたゼファー公爵は振り返り右手を差し伸べる。公爵が伸ばした右手を、白い手袋に包まれた左手が取る。そして手を支えに、一人の女性が馬車から降りてきた。
降り立つ女性は波打つ金髪に、ゆったりとした赤いドレスを纏っていた。ドレスは装飾が少なく派手さはなかったが、身につける女性の淑やかさと美しさを引き立てている。
私はこの女性も知っていた。元ホヴォス連邦のスコル公爵家のレーリア公女だ。そして今ではゼファー公爵と結婚し、アムブレスト公爵夫人となっている。
私は目だけ動かし、ヘレン王女を見た。彼女は二人が来るのをじっと待っていた。しかし声をかけたそうにうずうずしている。無理もない。ヘレン王女とレーリア夫人は大変仲がよく、親友といってもよい間柄だ。しかし国が違うため、頻繁に会うというわけにはいかない。今日は久しぶりに再会出来たのだ、ヘレン王女の喜びも当然といえよう。
「あっ、ヘレン王女」
レーリア夫人がこちらを見て笑顔を見せる。再会を待ち侘びていたのはレーリア夫人も同じらしい。レーリア夫人がヘレン王女のもとへと歩み寄ろうとする。しかしその時、レーリア夫人が足を躓かせた。倒れそうになったレーリア夫人を、そばにいたゼファー公爵が手を差し伸べて転倒を防ぐ。
「大丈夫ですか? 気をつけてください。もう貴方一人の体ではないのですから」
ゼファー公爵が安堵の息を漏らしながら注意する。レーリア夫人が倒れなかったのはいいとして、ゼファー公爵の言葉には、気になる部分があった。
「お久しぶりです。ゼファー様、レーリア様。ところで、先程のお言葉は、もしかして……」
ヘレン王女が堪えきれずに問うと、レーリア夫人は頬を赤く染めゼファー公爵の顔を見た。ゼファー公爵も照れ笑いを浮かべる。
「実は……妊娠したの」
照れながらも、レーリア夫人が懐妊を告げる。するとヘレン王女が大きな目をさらに広げた。口元は淑女の嗜みとして両手で隠されていたが、目と同じくらい丸くなっていたことだろう。
「おめでとう! レーリア!」
ヘレン王女が感極まり、敬称を抜きにして友人の妊娠を喜ぶ。私としても二人の間に子供が出来ると聞いて大変嬉しい。しかし一つ気掛かりがあった。
「おめでとうございます。ですが旅をして大丈夫なのですか?」
私としてはそこが気掛かりだった。妊婦に長旅をさせるのは、あまり良くないだろう。
「大丈夫ですよ、ロメリア様。というか妊娠が判明したのは数日前で、旅の途中ですから」
レーリア夫人の答えに私は顎を引く。それならば仕方がないだろう。
「実は迷っているのです。このガンガルガ要塞である程度過ごすべきか、それともすぐに国に帰すべきなのか」
「妊娠が判明してから、ずっとこの調子なのよ。心配のしすぎって言っているのに」
気弱げに目尻を下げるゼファー公爵に、レーリア夫人が呆れた声をかける。しかしゼファー公爵の気持ちも分かる。初産となるとやはり不安になるだろう。
とは言え、喜ばしいことである。今は気に病むよりは、祝福をするべきだろう。
「ありがとうみんな。この子が大きくなる頃には、戦争が終わっているといいわね」
レーリア夫人は微笑みながらお腹を撫でた。
確かにその通りだった。この子にまで戦争を経験させたくはない。生まれてくる命の為にも、戦争の決着をつけねばいけなかった。




