第十五話 六国会議②
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私はアル達と共に馬を進めて、ガンガルガ要塞の広場を横切る。すると主塔の前に千人程の兵士が整列しているのが見えた。ガンガルガ要塞を守る守備兵かと思ったが、よく見ると違った。先頭に立つ兵士は車輪の旗を掲げ、隊列の中程には数台の馬車が並んでいる。そのうちの一台は白い外観に金の装飾が施されていた。
美しい馬車に目が引かれていると、白い扉が開かれて緑色のドレスを着た女性が現れた。
艶のある紺色の髪は肩まで伸び、切り揃えられた前髪の下には愛らしい大きな瞳が輝いている。背丈は小柄で子供のようにも見えるが、顔には落ち着きがあり成人していることが分かる。
女性はドレスの裾を持ち上げると、白い靴を覗かせて馬車から降り立つ。長旅に疲れたのか、息を吐く女性が私を見つけ目が合う。すると大きな瞳がさらに広がり、顔には笑みが浮かぶ。
「ロメリア様、お久しぶりです!」
女性がこちらに向かって歩み寄る。私も馬を降りて笑みを返した。
「はい。お久しぶりです、ヘレン王女」
私は軽く会釈した。この女性はヘイレント王国の第二王女であるヘレン王女だ。そして二年前のガンガルガ要塞攻略戦において、一緒に戦った仲間でもある。
「いえ、今は聖女ヘレンとお呼びしたほうがよかったですか」
私は言い直した。彼女は人の傷を癒す力を持つ、癒し手と呼ばれる存在であった。そして一年程前に、教会から聖女としての認定を受けている。
「やめてください、ロメリア様」
ヘレン王女の愛らしい顔が曇る。どうやら知り合いに聖女と呼ばれるのが恥ずかしいらしい。
「そんなことを言うなら、ロメリア様こそ救国の聖女ではありませんか」
言い返され、今度は私が顔を顰める番だった。聖女というのは名誉ある称号だが、呼ばれるのはなんとも恥ずかしいのだ。
「それに私は王家の力を使い、聖女となりました。自らの偉業で聖女となった方々を思えば、とても誇る気にはなれません」
ヘレン王女は言葉と共に、愛らしい顔を伏せた。
聖女として認定されるには、卓越した癒しの力で人々を救い、偉業とされるほどの成果を積むことが条件とされている。ヘレン王女は癒しの力を持っているが、その力は平均的なものであった。彼女が聖女として認定されたのは、王家の後押しがあったからだと言われている。
「しかしヘレン王女。それは謙遜がすぎるというものではありませんか? ご活躍は我が国にも聞こえておりますよ」
私は俯くヘレン王女に笑みを向けた。
確かにヘレン王女には、聖女と認定されるほどの偉業はなかった。だが彼女が活躍するのは、聖女となってからだった。聖女と認定された彼女は、ヘイレント王国の医療改革に着手したのだ。改革は着実に実を結び、ヘイレント王国の癒し手は数が増え、質も向上しているという。
「いえ、私はノーテ枢機卿の教えを真似ただけですので」
ヘレン王女は、再度顔を俯かせる。
我がライオネル王国では、ノーテ枢機卿が癒し手の技術や育成に関して改革を行っていた。この改革の効果は高く、ノーテ枢機卿の教えを受けた癒し手達は、皆が腕利きとなっている。
「ですがその教えをヘイレント王国で広めたのは、ヘレン王女ではありませんか」
私はそれが大事ですと、ヘレン王女を励ました。ノーテ枢機卿のやり方はすでに成果を出している。だがこの医療改革は、世界に普及していなかった。多くの癒し手や彼らを取りまとめる教会が、ノーテ枢機卿の医療改革を認めなかったからだ。
ノーテ枢機卿は自らの医療改革を本にして出版し、各国の教会に贈った。だが読まれることはなく、場合によっては邪教であるとして燃やされることもあるらしい。
ノーテ枢機卿の改革は、世界では全く相手にされていなかった。しかしヘレン王女は評価し、ヘイレント王国の医療改革に乗り出した。これにはヘイレント王国の教会関係者や王族達も驚いた。これまで王女は万事控えめでおとなしく、自分から主張することなどなかったからだ。
「改革を進めるのは大変だったでしょう」
私の労いの言葉に、ヘレン王女は小さく息を零す。その溜息には苦労が見えた。
癒し手達は、教会を中心とした利権構造に固定化されている。そこに切り込み、医療改革を断行するのは簡単ではない。
「私は改革を推し進めるために、聖女としての名を利用しました。聖人達の名を貶める行為と言えるでしょう」
溜息と共にヘレン王女の声が落ちる。
医療改革の断行にあたり、彼女は王女と聖女、両方の立場を利用して改革を推し進めた。教会関係者の中には、ヘレン王女を聖女としたのは間違いだったという者すらいる。
「しかしそれで救われた命もあるのでは? 何より王女や聖女ではなく、ヘレン王女について来た人もいるのでは?」
「そう、でしょうか?」
問い返すヘレン王女は首をかしげる。自分の人望に自信がないようだが、私は彼女の人望こそが、改革がうまくいった理由だと思う。
二年前のガンガルガ要塞攻略戦において、ヘレン王女は率先して兵士達の治療に当たった。彼女に命を救われた兵士は多く、共に働いた癒し手もまた多い。
ヘレン王女と直に接した彼らは、人を救おうとする彼女の理想に共感して支持したのだ。そうでなければ、短い期間で成果が上がることはない。
「正しい行動をしたからといって、正しい結果が出るとは限りません。しかし正しい行動をしようとする人のもとには、多くの人が集まると思いますよ」
私は持論を展開する。本当にそうかはさておき、そうであってほしいという願望もある。
するとヘレン王女が笑みを浮かべ、私の背後に目を向けた。
「そうですね。ロメリア様を見ていると、そう思えます」
ヘレン王女の大きな瞳の先には、アルとレイがいた。確かに私は多くの人に支えてもらっている。もっとも、私が正しいことをしているかといえば微妙だ。人を救うという名目で、人を戦わせている。正しいとはとても言えないと、内心で付け加えておく。




