10話 ゴブリンの群れ
ロゼの地雷魔法により一匹のゴブリンを撃退することに成功した三人。
しかし、その夜はそれ以上何も起こることはなかった。
そのため、朝を迎え村人たちが活動し始めたころ、シルトたちは改めて作戦を立てることにした。
「結局夜のうちに何かが起こるってことはなかったな」
「そうね、ただ今夜以降に群れで攻めてくることは充分考えられるわ」
「村長さんとも話しをした方がいいね。村に被害が出てしまったら元も子もないから」
リヒトの提案通り村長と話しをすることにした。
ゴブリンの群れに関する情報が聞けるかもしれないからだ。
シルトたちが村長の家に着くと村長は快く家に上げてくれた。
「冒険者様、昨夜は爆発音のような音がしておりましたが、ゴブリンを撃退してくれたんですかな?」
「仕掛けておいた罠にゴブリンが一匹掛かったので、一匹は倒すことができましたがこれで最後というのは早計過ぎるかと思いまして、お話しを伺おうと思い足を運びました」
「村長さん。王国騎士がこの村を守っていたときはどれくらいゴブリンが攻めてきてましたか?」
シルトたちが来る前、この村は王国騎士により警護されていたのだが、今は別件で村を離れてしまっている。
その頃のゴブリンたちの動向から何か新しい情報が得られないかと考えたのだ。
「そうですな~騎士様は日に数匹ゴブリンが出てくれば多い方だと言っておりました」
「なるほど。なら、まだゴブリンが周囲にいてもおかしくないけど……」
「なんで一斉に襲ってこないのかってことだよな」
「そうね。まるで何かを待っているような動き方よね。タイミングが来るまでは偵察を続けるみたいな」
ゴブリンは知能が高い魔物であるため斥候を出して偵察させることもあるらしい。
ただ、王国騎士がこの村を守っていたころを含めると、もう一週間以上少数だけが送り込まれていることになる。
これは群れ全体としての戦力を下げているだけであり、明らかに不自然な行動なのは間違いない。
何か目的があるのだろうか。
そう推測するのが妥当である。
不安そうな表情で思案するシルトたちに対して、村長は明るい口調で話しかけた。
「ですが、やはり冒険者様に依頼して良かった。私たちでは例えゴブリン一匹でも倒せないでしょうからな。依頼の護衛は後3日程ですのでどうかよろしくお願いします」
そして村長はシルトたちに頭を下げる。
不安要素はあるものの、実際に村は無事なのだから、村長としてはシルトたちに感謝しているようだ。
今回シルトたちが引き受けた依頼は四日間村を護衛するというものである。
村長の話しから察するに、四日経てばもともと村を護っていた王国騎士が戻ってくるということだろう。
要は、騎士がいない間の繋ぎということだ。
村長としても、雇うのにお金がかかる冒険者よりも王国騎士の方が良いのだろう。
「失礼します」
玄関で挨拶をしてシルトたちは外へと出る。
村長からはこれ以上新しい話しが聞けなそうだからだ。
「まあ、飯でも食うか」
「そうだね。動くためにも食事は大事だしね」
「ジルもいっぱい食べて大きくなるのよ!」
『ピィ』
村長の家を出た三人は、村の警護をしながら村の中を見て回っている。
昨日は罠の設置などで村の施設などはほとんど見て回ることが出来なかったからだ。
この村はそこまでの広さはないものの、いくつかの店が立ち並ぶ活気のある村である。
その理由というのも、アンファングの街と王都を結ぶ街道に立地しているため、それなりに交通があり、人が立ち寄ることも多いからである。
「アンファングの街からすれば小さいけど、この村も結構活気があるいいところだよな!」
「まあ、私たちにはアンファングの街が広すぎるのよ。辺境の地で育ったんだから」
「でも、大きい街も楽しいよね! いろんなお店とかもあって!」
三人は雑談を交わしながら村の散策を行い、食事を取ったりお店を覗いたりして時間を過ごした。
そんなにのんびりしていて良いのかと思うかもしれないが、魔物は夜間に活発になる傾向がある。
それは魔物たちの住む領域である魔界が闇に覆われた土地だからではないかという仮説が立てられているが解明はされていない。
それに、ゴブリンは魔物の中では知能が高いとされているので、わざわざ人が多い時間を狙うことは少ないというデータも出ているらしい。
不意打ちや闇討ちを得意とする魔物なのだ。
何とも姑息というか狡賢い魔物なのだろうか。
いや、ゴブリン自体は個体としてそこまで強くないからこそ、そのような作戦を取るのだろう。
魔物というのは種によって多様な行動をするため恐ろしいものだ。
現在この村で警戒すべきはゴブリンのみ。
そのため、日中は気を引き締めすぎるのも逆に良くない。
気を抜けという訳ではないが休めるときは休むというのも大切ということだ。
結局、日中にゴブリンは姿を現すことはなかった。
日が沈み始めたころ三人は宿に戻り、夜の護衛について話し合いを行った。
全員が徹夜で護衛するのは明日以降に響くため、交代で休憩することにした。
一人で見回るのは限界があるため、二人で見回りを行い一人が休憩を取るということで話しが纏まったようだ。
じゃんけんの結果、最初はロゼが休憩を取ることに決まり、シルトとリヒトは夜の帳が下り始めた村へと出ていった。
「今日はゴブリンどうなんだろう? 群れで襲ってくるのかな?」
「何とも言えねえな~。ゴブリンの考えることなんて分かんないし」
「そうだよね……」
「あんまり考え過ぎるなよ、リヒト。今のところはゴブリンの群れが近くで動いてる形跡はない。群れで動けば早めに感知することもできるからさ、対策通りに行動すれば大丈夫だよ!」
ゴブリンのことについて話しながらシルトとリヒトは村を見て回る。
今のところは村に異常はなくゴブリンが出てくる気配もない。
その静けさが不気味でもあるのだが。
そのままゴブリンに遭遇することなく見回りの交代時間になった。
次の休憩はリヒトの番だ。
二人は一旦宿屋に戻ると、シルトとロゼは共に夜の村へと向かって行った。
シルトからすれば二度目の見回りになる。
月夜の下を歩きながら、二人は周囲に意識を集中させる。
しかし、先ほどと変わらず平穏そのものだ。
少し休憩しながら二人は会話を交わす。
「私が休憩している間にもゴブリンは出なかったみたいだし、今日は出ないのかしらね」
「そうだな。このまま何もなければいいんだけどな」
「平和が一番だものね」
会話もそこそこに、再び警戒を始める二人。
そうしてただただ静かな村を警戒し続けて、また交代の時間を迎える。
その後、ロゼとリヒトが村を見回るもゴブリンは現れず、結局この日は一匹もゴブリンが現れなかったのだ。
不気味さは増す一方である。
それとも、ゴブリンの被害は終わったのだろうか。
この日の夜の静けさは、シルトたちの頭を悩ませる結果となった。
陽が登り始め、朝を迎えた村が徐々に活気に包まれ始める。
シルトたちは昨日の報告をするために村長宅を訪れていた。
「ではゴブリンは一匹も出なかったということですか。良かった良かった。魔物が出ないというのが一番いいですからな」
三人の報告を聞き、ゴブリンが現れなかったことを知ると、村長は安堵の声を上げる。
魔物が現れないというのは村長にとって嬉しい報告だろう。
それが嵐の前の静けさでなければだが。
「このまま何もないまま平穏な日々に戻ればよいのですが……何はともあれ、残り二日よろしくお願いします。」
村長への報告を終え、昨日と同じように村で時間を過ごすシルトたち。
「村を護ってくれてありがとよ、冒険者さん!」
この数日で村人とも交流が深まり、シルトたちに明るく声をかけてくれる村人も大勢いた。
シルトたちも笑顔で交流し、良好な関係を築けているといえる。
夜になると交代で見回りを行うが、この日もゴブリンが現れることはなかった。
やはりゴブリンの群れなどいないのだろうか、罠に掛かったゴブリンが最後の一匹なのだろうか、という考えが浮かび始める。
朝になり恒例となった村長への報告を済ませる。
「今日で依頼も終わりだな! やっぱり考え過ぎだったみたいだな」
「……本当にそうなのかしら」
「悩み過ぎても良くないよ、ロゼ姉」
「ロゼが仕掛けた地雷にビビッて逃げちまったんじゃないか?」
「そんなわけないでしょ」
「まあ、何にせよ今日一日頑張るだけだ!」
気を引き締めシルトたちは最後の一日を過ごす。
ただ、この日も日中は何の問題もなく夜を迎えることになった。
やはりゴブリンはいないのだろうか。
そんな空気が村全体に漂っている。
「今日はみんなで見回りしない?」
やはりロゼはどこか引っ掛かるところがあるようで、そんな提案をした。
ということで、シルトたちは宿にジルを寝かしつけると村の警護に向かった。
最後の一日ということ。
そして、ロゼの希望ということもあり三人一緒にだ。
シンと静まり返る村。
昼と夜ではまるで別の場所のようだ。
そんな村を見回る三人だが、やはりゴブリンの気配は無い。
「ロゼ、心配しすぎじゃねーの? 周囲に群れの気配は無かったぜ」
「今日くらい徹夜でも耐えられるでしょ。警戒し過ぎるくらいでいいのよ」
「何もないといいけどね……」
そうして月も天高く昇り、次の朝を迎えるために傾き始める頃。
村を妙な気配が包み始める。
「何か感じるわ。これは……魔力?」
三人の中で最も魔法に長けるロゼが魔力を感知した。
その表情は苦々しいものだ。
冷や汗が頬を伝っている。
そしてしばらくして、
「俺にも分かるぞ!? なんだこの魔力!」
「僕にも分かるよ。とても不気味な魔力だ……」
シルトやリヒトにも感知できるほど濃い魔力が満ち溢れ始めた。
漂う魔力は異質で、不気味で、おぞましいものだ。
そして、
シュゥゥゥン
何かが通り抜けるような音がしたかと思えば、村は数十匹、いや数百匹はいるゴブリンの大軍勢に囲まれることとなった。




