状況によっては、無実でも罪になる
「だから!それはアタクシがなんとかしますわ!」
「じゃからクレフィアではどうにもならんと言っておるじゃろうて」
「でも!シン様に任せるなんて・・アタクシ達の国の事でしょう?!」
「クレフィアよ少しは落ち着くんじゃ話にならんであろうて」
「ですから!」
「まぁまぁ、お前は少し落ち着けって・・」
「シン様・・・」
クレフィアの肩を掴むと何やら悔しそうな顔と泣きそうな顔が混ざって辛そうに見える。自分の国のことが故に行動力はあるものの力が足りないと自覚しているからこそ歯痒いんだろうな。二人がというよりクレフィアが白熱している理由に起因してるんだが。
「長引かせと言いつけておったじゃろうに」
「これでも頑張ったんですよ~クレフィア様が御自分でお着替えなさるって聞かないんですもん!」
「レアレが何か企んでる事ぐらいわかりますわ」
「企むも何もこの青年から色々と話を聞かせて貰っていたところじゃよ」
仲でも悪いのか?そんな目をラガノに送ると彼も肩で返事をし呆れている様子。レミナは俺の背中に登り完全に落ちて、エルジュは話に興味が無いのか天井をじぃーと黙って見つめている。ノシュネもさっきからぼけーとしていてなんだか眠そうだ。
「あのさ、まぁなんだー悪いんだけど俺達も少し疲れててさ?一端冷静になるってのも含めて続きは明日にしないか?」
「そうじゃなおんし達が一番疲れておるんじゃった。話は明日じゃな!テュルよ部屋に案内してやれ」
「はい!シンさん達の部屋の準備はしてありますからどうぞこちらへ」
「エルジュー行くぞ~」
「はいなのですよ!!」
「ノシュネ!レミナと寝るか?」
「いいの!?」
「シン殿・・それは・・・」
「よい、ノシュネ様がお戻りになって下さったのは青年が居たからであろうて」
「お兄ちゃん早く!早く!」
「あいあい・・・じゃあまた明日なクレフィア」
「はい・・お休みなさいませシン様・・」
俺が部屋へ行っても暫くは話合いが行われるんだろうけど、向こう側もまだまとまってない様子だったし無理に詰め込んでもいい結果にはならんだろう。
テュルに連れられて入った部屋にはベットが二つだけだったが、竜殿に来た賓客用の部屋らしく内装は綺麗で豪華だ。
レミナをベットに寝かせてやるとノシュネも横に並び布団を掛けてやる。
レミナは起きること無くグーグー寝てノシュネは「お兄ちゃんお休みなさい」を最後にスースー寝てしまった。そして俺はやらかしたと思ったのだ・・・。レミナとノシュネが寝ているベットには俺が並んで寝るスペースが無かった。
つまり・・・後ろを振り返るとベットの上でエルジュが正座に笑顔を貼り付けてこっちをじっと見ていて逃げ切れないことを悟る。
「私めと一緒におねんねなのですよ~飼い主様」
「流石に俺達二人が並んで寝るには少し狭いからさ・・・俺はあの椅子で寝ることにするよ」
「飼い主様はちんぷんかんぷん訳の分からない事を仰っているのですよ?」
「いや分かるだろ」
「分からないのですよ?」
「お前も疲れてるだろ?今日はゆっくり休めって」
「飼い主様が一番大変だったのですよ?」
この間、エルジュはずっと笑顔のままで口以外は微動だにしていないのが怖い。あんまり拒否し続けるとキレジュが出てきそうで俺の声は上ずっていたらしく「飼い主様早くするのですよ?」
「小さい飼い主様になれば大丈夫なのですよ?私めが抱いて添い寝するのですよ?はぁ・・はぁ・・」
矢継ぎ早に言われてもうどうにでもなれとばかりに俺は龍法を用いて体を小さくしたのだった。
「さぁ、飼い主様こちらにどうぞなのですよ?」
「あのさ・・・枕が・・・」
「私めの腕が枕なのですよ~」
「えっと・・」
「早くなのですよ!」
「あーもう分かったって」
エルジュの二の腕を枕に彼女に背を向けて寝ようとした、というか寝た。にも拘らず体を回転させられて彼女と対面状態に持っていかれてしまう。
「んぐっ!?」
「飼い主様はぎゅっとしやすくて良いのですよ」
「んっぷっぐっ~」
タップを試みるも虚しく終わり、どうにかもがいてみた結果は彼女のぐにぃの隙間から呼吸するという方法だった。
「エルジュ流石にこれだと苦しくて寝れないから」
「むー分かったのですよ~これだったら大丈夫なのですよ?」
「あーこれが楽でいい・・いやこれがいい」
「んふふ~飼い主様の髪は柔らかいのですよ」
「もっとギッシギシの方がいいんだけどな・・」
「それはダメなのですよ!柔らかくないとちくちくして痛いのですよ」
結局、俺はエルジュに背を向けぐにぃに頭を挟まれた形で寝ることになったのだ。
仕方ないでしょ!頭がぐにぃに挟まれて気持ち良いし!妙に暖かくてはんなりしてしまうんだもん!
抱き枕になった気分を味わいながら俺は眠りへと落ちて行った。
そしてまた夢を見る。
俺の体は無く、視界だけが残ったような感覚。
見える景色は一面真っ白な世界で寒さこそ感じないがとても冷たい印象を与えてくる、そんな世界。視界の先に溶けた朱色が上からぽたぽた雫のように落ちてくる。朱色は紙に染み込むように少しずつ広がっていく。少女の泣き声が聞こえた。痛みに耐えるような嗚咽混じりの聞いたことの無い声だった。
雫が落ちてくる先を見上げると鎖がジャラジャラ音を鳴らして、その度に雫がぽたぽた落ちてきた。俺はそれに手を伸ばすけど届かない。
届きさえすればそれをどうにか出来るんだ、そんな確信を持って我武者羅に手を伸ばすけど届かない。足のバネを使ってジャンプするとなんとか鎖に手が届いた。腕の力で登ろうとした時、声が聞こえた。
「痛いよ・・・痛い。帰りたい。助けて・・・」
消え入りそうな声で、か細く泣く声で、握った鎖が千切れて俺は落下した。
「っま!」
「ん・・」
「かい・・」
「にんぁー」
「飼い主様!朝なのですよ?」
「う~ぐにぃ~」
「はぁ・・はぁ・そんなにされたら・・もう///」
「主様起きろ!!やっぱりぐにぃしてた!!」
「ふぇ?」
「レミナ?お兄ちゃんは何してるの?」
「主様はいつもこれしてくる!」
「気持ちが良いんだね、わたしのだと足りないね」
「どこでもぐにぃしてくるから気をつけるといい」
「そうなんだ」
「主様!いい加減に起きるといい!」
「はぅあっ」
いつも通りの顔面に衝撃を受けて目が覚めた。
レミナとノシュネの顔が近くにあって二人揃って俺の手を引き体を起こされた。眠気眼で後ろを振り返るとエルジュが蕩けていた・・・。
「ずっと私めをぐにぃしてたのですぉ~///」
「二人共おはよう!元気に頑張りましょう!」
「おー!」
「はいっ!」
「無視はダメなのですよおお!!」
ドアをノックされる音に返事をしたらテュルが顔を覗かせて「お風呂に入られますか?」ときたもんだ。「勿論!」速攻で了承して後ろを振り返る。
そうあの星人が二人並んでいた。
大きい星人と小さい星人、そしてもう一人増えた。
ノシュネもまた意味も分からずにその星人達を真似ているのだった・・・。
「コイツらを風呂に入れてやってくれない?」
「はい!お風呂は別れているので大丈夫ですよ!任せておいてください!」
「助かるよ・・」
「「え~~」」
「主様それはダメ」
「ダメなのですよ!」
「?」
「ノシュネは風呂に入った事が無いのか?」
そう聞いたら「無いよ?」と答えた。
俺は幸運に恵まれているらしい、レミナに「ノシュネは風呂に入ったことが無いみたいだからレミナが風呂姉ちゃんだな」話を逸らしすり返る方法を取ってみたら見事に喰い付き、二人で手を繋いで楽しみを待つ子供状態にすることが出来た。完璧な策略だと自賛したいがまだ一人退治していない星人がいることを忘れてはいけない。もう一人の星人は未だ俺をキャトろうと天に両手を掲げているのだ。
「エルジュは二人の監視員を申し付ける!心して任務に励め!」
「私めは飼い主様と入りたいのですよ?」
「それは許可出来ない!二人と一緒に入りなさい!これは決定事項であって拒否権は認めないものとする!!」
普段より声のトーンを落として出来るだけ野太い声を出して言ってみたら、ぶーぶー言いながらも諦めてテュルに案内されて行った。
あれ?これ使えるんじゃね?次もこれ試してみようかな~?とかるんるん気分で椅子に腰かけた。三人を案内してから一度戻る、と言い残した彼女は数分も経たない内に部屋へと戻り今度は俺の番となる。
「いつもレミナちゃんとエルジュさんとお風呂に入っているんですか?」
となんだかまるで悪い事をしている自覚あります?みたいな問いに一瞬だけビクッとしてしまうが大義名分はあるんだ。
「レミナはいつも一緒だったな~エルジュは入り方知らないって言ってたから教えたんだよなー」
何も後ろめたくなる事なんて無いのだから普通に答えたらいいんだよ。
確かにエルジュのぐにぃを見れたりはするけどさ・・・。
それでどうのこうのなんて無いんだから良いじゃない!平常心だよ平常心。
「エルジュさん大きいですよねー」
「身長大きいよな~」
「分かってて言ってるじゃないですか。身長は高いって普通いいません?」
「ちんぷんかんぷんぷーん」
「あははは!なんだかシンさんのイメージが少し変わりました」
「そんなにイメージ悪かったのか・・・」
「初めて見た時は少しだけ怖かったですね~」
「やっぱりこの手?」
「いえ!手じゃないです。しいて言えば見た事の無い雰囲気の方だったので」
「手で化物とか言われたことは何度もあるけどそんな事言われたの初めてだな」
「でも今は違いますよ?オトシゴ様って聞いた時は驚きましたけどね」
「オトシゴって言っても殺せば死ぬんだけど」
「竜と対峙して怪我一つ無いシンさんを負かすなんて誰にも出来ないですよ」
「ソルナとルビネラにボコボコにされるんだけど」
「でもそれは龍の戦いの話ですから人間のそれとは比べ物にならないですよ?あっと、ここがお風呂になります!」
「まさか・・・露天風呂!!」
「そっそうですけど・・・どうかしましたか?」
「いや!大丈夫!」
「用意は全部出来てますからごゆっくりどうぞ!」
「あんがと」
扉を開けたると脱衣所でマッハでマッパになって風呂への扉を開いた。朝の冷たい空気に湯気がモクモクと昇る光景に懐かしさを感じる。
日本人、きっと俺があの国の生まれだからそう感じるのだろう。柔らかい生地を肩に日本男児スタイルでドシドシ中へ入る、シャワーや蛇口こそなかったが樽に湯が貯められていて、樽に手を突っ込んで温度を確かめるも少し温くいつも通り豆蒼煉を入浴剤のように投入して適温に。体にバシャっと数回かけてから広い石造りの湯船へ浸かった。
「ふぃ~~やっぱ風呂は良いなあぁあ~まさか露天風呂に入れるとは・・・元日本人の俺にとっては心の癒しだわ。それに貸切だし誰もいない風呂ってのもまた良いもんだ。んっ~転生した世界に風呂が無かったら心が荒んでただろうなぁ」
この世界、ディルカーレに生まれ落ちてから前の世界にここまで思いを馳せるって事は無かったかもしれない。体はあの頃よりよく動く、傲慢かもしれないが出来ることだって増えた、こんな人生を送るなんて予想もしなかった。
自由、その言葉が頭に出てきた。でも、その言葉に込められた意味ってのは意外と広く簡単なものでもないってそう思ったのだ。
「あの世界も楽しい事は沢山あったんだよな・・・自分で視野を狭めてばかりで凝り固まってたんだろうな。俺がいなくなったあの世界で俺の事を考えてくれている人間はもういないんだけど、それでも家族はせめて幸せであって欲しいな」
一人だとこんなにも自分を語れるのは俺自身の心がまだこの世界に馴染んでいないからなのか?それとも未だこの世界は自分がいる世界では無いって思っているからなのか?よく分からない、それでも今は大切が沢山増えたんだ。
一人でペラペラしゃべりったり思い出したり考えたりしていた。
水がぱしゃっと音を発てて俺は湯煙の奥を睨むように見た。
「誰だ!」言葉を投げるが返答は無いけど誰かいる、気まで抜けていたらしい気づかなかったとは。
「いるってのは分かってんだよ・・出て来い・・」
水音がまた聞こえるが今度は連続で聞こえて、相手が逃げようとしていることを理解した。そっちがその気なら別に構いはしないけど容赦はしない。敵地では無いとは思っている、それでもヴィスのようなヤツがいてもおかしくは無い。
手を伸ばし腕を掴むと同時に相手の足を払い地面に押し倒し、龍の手を心臓に突き立てた。
「ひゃ・・」
「・・・・」
「はっ・・は・・」
「え~と・・・・」
「ごっごめんなさい・・あのっ・・そのっ・・」
「なんでお前がここにいるんだ・・・?」
「ゆっ湯浴みで・・・」
「レミナ達は違う風呂に連れて行かれたから男はこっちじゃないのか?」
「ふぇっ!?」
マジマジと体を見てしまったがここで体を起こしたのは間違いだった。
ちょろ~。音を付けるならそれが正しいと思うんだ、檸檬の飲料と変わらないであろう色をしたアレだ。
「その・・すまん・・」
「うっ・・ぐすっ・・うっぅ・・」
「なっ・泣くなって!俺が悪かったよクレフィア」
「しんしゃまは悪ぐっありまぜんわっふっぐ」
「とっ取り合えず一端風呂に入れ・・・風邪引くかもしれんからな?」
「ひっぐ・・うぅ・・・」
どうして良いか分からなかった俺は何故か彼女をそのまま風呂に入れてしまう。色々洗い流してから湯に浸かっていた彼女がなんとも可哀想で居たたまれない気持ちになる。
「その・・・俺上がるから・・」
「おっ・・お待ちくださいましぇ!!」
「いや・・流石に・・・まっぱだし・・」
互いに隠すべき部分はしっかりと隠し距離を保っていた。
それでも・・恥じらいを隠し切れないクレフィアを見ていると俺も反応してしまうのだ。男だもん。
「シン様・・お願いですからもう少しだけ・・・」
今にも涙を流さんばかりで目を潤ませた女子にそう言われると断りきれないのが現実だった。彼女に背を向けるように湯に浸かりどうしたらいいのかをフル回転で考えていた。水音だけが聞こえる空間に彼女の声が響いた。
「こんな女なんてお嫌いですわよね・・ぐすっ」
「割りと本気で対応したから怖かっただろ?」
「シン様がお謝りになることなんて一切ありませんわ。それにあんなはしたない・・うっ~」
「あーその事はもう忘れろ。俺は何も見てないし誰にも言わないからさ」
「シン様・・・みっ見られたのですわよね・・」
「おっおう・・すまん・・」
「ひっぐっ・・うっぅ」
「でっでも何でこんな事になったんだよ」
「アタクシが悪いのですわ・・この場所は来賓専用なんですのよ・・朝だから誰も来られないかと思いましたの」
「今日のことは全て忘れる事を誓うからお互い忘れよう!うん!それがいい!」
「忘れるなんて出来るはずもありませんのよ」
「本当にすまん・・・」
俺に出来ることは最早無く、唯一出来ることを模索したら謝り続ける事だけだった。これ以上、彼女と接近するべきでは無い。そうしていると後ろから水音が近づいて来て真後ろで止まり背中に手を当てられる。
「盗み聞きをするつもりは無かったのですがその聞こえてしまって・・」
「ん?」
「転生したオトシゴ様には前世の記憶は無いとお聞きしておりますわ・・でも」
「あーベラベラ喋ってた俺が悪いから気にしないでくれ。でも他言はしないで欲しいんだ」
「誰にも言いませんわ・・でも前世のお話を聞いてみたい・・ニホンジンとはなんですの?」
「これを知ってるのはヴォルマでも数人にソルナやルビネラしか知らないことなんだけど・・・」
俺は転生する前の話をした。
ただ全てという訳では無くヴェルさんの事とかルーチェリアの事は伏せて話しをした。別に嘘を付いた訳じゃない、話すべきか悩んだ末に言わなかったんだ。
その言えない部分があるって事はちゃんと話しをしたけど。
「シン様は本当に凄いお方ですのね・・・」
「そうか?」
「元の世界ではもっと年齢を重ねられていて、記憶も持っているなんて凄いですわ!それに力にしてもそうですわよ」
「力に関して言えば全部貰いモノなんだよ。俺の強さは全部俺のモノじゃない」
「そんな事ありませんの!根源は頂いたものかもしれませんわ!でもそれはこの世界で生きる全ての者に言える事なんですのよ?強くあろうと努力をして、己を磨き、力を得たのはシン様ですの!それにその意思もシン様のものですわ!」
クレフィアの言葉はすんなりと俺の心を満たした。
そう、俺はこの力の事をずっと貰いものだと思ってきたんだ。
俺自身の力じゃないからどこかで後ろめたさにも似た感情をずっと持っていた。
でも彼女はそれは根源だけだと言い切ってくれて、そこからの全部は全部俺のモノで俺は俺だと。
オトシゴとして流れ落ちてから、どこかで一歩引いた所からいつもモノを考えいたんだろうか。不満こそ無かったけど、疑問とか不安とかそんな色々な気持ち全部が綺麗に流れた感じがしたんだ。
「はは・・・クレフィアは凄いな」
「アタクシは別に凄くなんてありませんわ」
「話をして良かったよ!龍の力を得てからずっと蓋をしてた気持ちが全部綺麗になったよ」
「アタクシはシン様のお役に立てたのですか?」
「全部クレフィアのお陰だ!すっきりしたぜ!!」
俺は全開笑顔で立ち上がった。
おかしい・・・視線を感じる・・・・グギギギと頭を右に動かして行くと・・・テュルが覗いていた。最後だけ聞かれたらしい・・・彼女の顔が真っ赤になってる・・・やってしもたで・・・。
クレフィアもそれに気が付いたらしく、ここに来てとうとう悲鳴を上げたのだ。
本話もお読み頂きまして有難う御座います。
ブックマークをして下さっている方にも感謝です。
テンプレのような感謝で申し訳なのですが、本当に有難う御座います。
一応、双子竜編は十数話程で終わります。
書き溜めた分もありますので順次掲載して行くので次話以降も宜しくお願いします。




