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全部私のターンよ!  作者: 塩
王都襲来編
6/6

少年少女は夢を見る

 靴を脱ぎ捨てたせいで、岩でできた地面は足にくる。しかし、足が痛いなどということを言っている余裕はなく、私たちは狭い通路を歩いていた。



「もう蛇はいねーようだな」


 ほっと一息つくように壁に背を預けながら、ハルは口を開く。その目はこちらを見つめていた。


「さっきのはなんだったんだ?」



 一度後ろを振り返る動作をしてから、こちらへと再び視線を向けた。その真剣な表情に思わず私は口走ってしまいそうになる。

 だけど、私の生前のことなど、言ってはいけないのだ。



「ヒドラ。ミシャンドラと言う悪魔の力が封印された宮殿に住まう化け物の一つ。昔に本で読んでたから……知ってたの」


 私は休んでいる暇はないよと、彼の少し高い背中を叩く。



「なんで急にこの洞窟に現れたんだ?」


「それは……」


 あなたの運命だから。とは、言えなかった。

 ミシャンドラの宮殿が現れる理由なんて、私には知らない。それは世界に唐突に現れる。

 攻略本にもそう書いてあったはずだ。


「知らない」


 実際に知らないのだから、私は首を振ることしかできなかった。


 ミシャンドラの宮殿は、このゲームの中でとても重要な役割を持つ。あと数年で世界は大きな異変が現れる。そのきっかけとなったのがミシャンドラの宮殿だった。


 ミシャンドラの宮殿は魔王の力を封印している。そして、魔王の器を宮殿へと招くのだ。



 さて、どうせなら、彼を守りたいとか言っていた私だが。力がない私は一体どうすればいいのだろうか。

 むしろ、このままじゃ足手まといになってしまう。



 それもこれも、今日ミシャンドラの宮殿が現れるのがいけない!!!

 もっとタイミングあるでしょ! 私と彼が仲良くなってから現れるとか!!


「それにしてもすげーなここ!」


 いつの間にか隣を歩いていたハルは消え、通路の柱や壁の方に寄って、叩いていた。


「まるで冒険してるみたいだっ!」


 目をキラキラとさせて、周りを見回すハルは私が知っているハルとは違った。

 ゲームで見た彼は、ひどく淀んだ目をしていた気がする。


「なんか、わくわくしてきた!」


 ニコニコと笑みを浮かべて、私の手を取る。それは窮屈な世界とは最も反していて、彼が15才の男の子で世界に夢見る少年なのだと実感させられた。

 何も言えなくなってしまった私は握りられた手を握り返すことしかできなかった。


「俺さ、ずっと冒険に憧れてたんだよ」


「冒険?」


「ああ! 俺は世界を旅して、この世界を見るのが夢だったんだ!」


 思わず、私も。と口走ってしまった。少し気恥ずかしさを感じながらも、過去から今まで抱いていた思いを告げる。


「私も冒険してみたかったの。友情とか冒険にすごい憧れてた」


 ついつい彼の笑顔に毒気を抜かれた私は口を開く。でも、どうせなら今は楽しんだっていいじゃないか。

 張り詰めた緊張の糸がほどけた気がした。


「じゃあ、今日から俺たちは友達だな! 俺の友人第1号だ!」



 満面の笑みで、告げる彼はそれは王子としての顔ではなくて、一人の少年だった。

 私は広げられた手を取り、答えるように首を縦に振る。


「よろしくね、ハル!」








 先へと進む私たちに襲いかかったのは、魔物だけではなかった。

 奥へ進むに連れて、魔力が濃くなっていく一方で空気の穢れを感じる。それはハルも同じだった。



「この先、何があるかわかんねーな」


 大きな扉の前で私たちは足を止める。

 ゲームで少ししか解説されなかった文字が書かれているが、なんて書いてあるのかはわからなかった。

 しかし、どうやらこの扉で最後のようだ。



「この先にミシャンドラが……」


 思わず言葉が漏れてしまい、咄嗟に手で口を覆う。どうやらハルには聞こえてはいなかったようだった。



「よし、開けるぞ」


 扉に手を掛けて、力強く押す。ギシギシと巻きついたツルが切れる音を立てながら、扉は開いた。


「すごい……」


 中に広がる景色はこれまでとは一転して、退廃的だったのにも関わらず、ここは一切崩れてはいなかった。

 天井が高く作られていて、シャンデリアが備え付けられている。縁を描くように建てられた柱の中心には金で縁取られたおおきな机が存在した。


 中には覚悟していたミシャンドラの悪魔は決しているわけではなく、拍子抜けしてしまう。



「まるで王宮みたいだな……」


「人間が作った建物みたいだよね」


 吸い込まれるように部屋へと足を踏み入れる。この後のゲームでハルは一体どんな行動を取ったのだろうか。

 今は何もないにせよ、一体何が起こるのかがわからないので、警戒は怠れない。

 手探りで手繰り寄せるように、私は机へと向かった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。更新が不定期で申し訳ありません

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