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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-15「本当の理由」

 あたし(ミリー)達は一度地上に戻っていた。

 サクラが語った作戦に、皆が同意したからだ。

 その準備の為に地上に戻る必要があったのだ。


 地上に戻って早々、サクラとレイニーはどこかへ駆け出し、リィンはその案内に連れ去られた。期限があるから急いでいるというよりも、新しい発明にサクラが興奮して暴走しているという方が正しい見解だ。

 残されたあたしとティルティは、特に出来る事もないのでぶらぶらと街を散策する事にした。


「あはは、さすがサクラだよねー。あんな方法普通考えないよ」


 先立って、サクラが提示した攻略案を思い出し笑いが零れる。

 ビームライフルやパパに用意した空飛ぶ腕といい、サクラの発想には毎度驚かされてばかりだ。


 独り言を言ったつもりはなかった。しかし、反応がない。気になって隣を歩くティルティへと視線を向ければ、ティルティは俯きがちに黙り込んでいる。


「……どうかした?」

「本当に、出来るのでしょうか……」


 どうやら決断に迷っているようだ。

 己の一生を左右するかもしれない決断だ。迷わない方がおかしい。しかも今回はサクラの突拍子もない作戦に任せようと言うのだから。

 それでも敢えて、あたしは笑顔を向けた。


「まぁ、不安になるのは分かるよ。サクラって世間知らずだし、非常識な事言い出すし、しっかりしてるようでどっか抜けてるし」

「さ、散々な言いようですわね」

「事実だし。でもさ、サクラの作った魔道具の凄さも見てるでしょ。あれを見たらさ、なんかしてくれそうな気にならない?」


 下から窺うように、ティルティの顔を覗き込む。

 あたしが伝えられるのは、あたしが見たサクラの生きざまだけだ。でも、ティルティもその一部には触れている。思う所はあるはずだ。

 面食らった様子ながら、ティルティは苦笑を浮かべた。


「……そうですわね。だから私も、賭けてみようと思ったのかもしれません」

「大丈夫。サクラもレイニーも、きっとティルティの力になってくれるから」


 ティルティの表情に柔らかさが戻ったように見える。

 少しは安心してくれたようだ。

 しかし、まだ気休め。気を抜けばすぐにまた不安が去来するのは目に見えていた。


「……と、いい感じに纏めた所で」


 あたしはわざとらしく手を叩く。

 もう一押し、ティルティの不安を拭う為に一肌脱ごう。


「ちょうどいい機会だからさぁ、聞いてもいーい?」

「な、なんですの……その妙なテンションは」


 ずずいと詰め寄ると、ティルティは恐れるように一歩引いた。

 あたしは一層笑顔を強めて、問いかける。


「ティルティはさぁ、リィンのどこが好きなの?」

「は?」


 ティルティの目が点になった。

 僅かな間を置いて、急速にその頬に赤みが差す。


「はああああ!? な、何を急に!?」


 その反応だけで答えを言っているようなものだ。私は笑いを堪えきれなかった。


「あっはは。動揺しちゃってぇ。だからバレるんだよー」

「そん……待ってくださいまし。もしかして、皆さん気付いているのです?」


 顔が沸騰したと思ったら、今度は氷で冷やされたように青ざめる。

 少しからかい過ぎたかもしれない。あたしは安心させるべく言葉を紡ぐ。


「ん? あぁ、サクラやレイニー? あの二人はスーパーロボットバカと朴念仁だから気付いてないと思うよ」

「そ、そうですか」


 ティルティからほっと安堵のため息が漏れる。


「あーでも、あの二人を基準にしちゃダメだよ? 常識的な感覚があれば誰でも気付くと思うから」

「ううっ……そんな」


 安心させ過ぎてもいけないと、補足を付け足しておく。

 自分で言うのもなんだが、《蒼穹の夢狩人》の中ではあたしが一番一般人の感覚に近い。曲がりなりにも元貴族がそれでいいのかとも思うけど、他の二人が規格外なのだから勝負にならないのだ。


「まぁまぁ。あの二人は気付いてないんだしさ。だから今聞いてるんじゃん」

「うぅっ……言わないとダメです?」

「別にいいけど、聞いたらあたしもっと頑張れると思うよ」


 元よりティルティに協力する事は決まっている。だけど、やはりヒトは感情の生き物だから、より協力したくなる事情が分かれば更に力が入るというものだ。あたしは嘘は言っていない。


「その言い方はズルいです!」


 不満を口にしながらも、ティルティはキョロキョロと周囲を窺う。周りに人がいないか確かめているようだ。

 実はそれとなく、あたしは人通りの少ない方へとティルティを誘導していた。有能なあたしは話を切り出すタイミングはきちんと抑えている。


 ティルティの反応を待っていると、少ししてからティルティの口がおずおずと開いた。


「……ミリーから見たリィンってどのような印象です?」


 問われて、顎に手を当て考える。約一日冒険を共にしただけの間柄だが、それだけでも感じ入る所は幾つもある。


「うーん……飄々としてるっていうかちょっと掴みどころない感じ?」


 真面目にお付きをしているかと思えば、からかうような素振りも見せる。


 呼び方をたびたび注意されているのは、からかいというより生真面目さが出過ぎているのだとは思うけれど。本来主人の名前は気軽に呼べないもの。


「ですわよね! 本当に、昔からずっと一緒にいるのに何考えてるのか全然わからないんです!」


 不満を共有するようにティルティの声が上ずる。わりと溜まっているものもあるのかもしれない。

 それでもティルティの表情はどこか楽しそうだった。


「なのに好きになっちゃったんだ?」


 だからあたしは、その楽しさを引き出そうとする。

 すると、ティルティは少しだけ顔つきを険しくした。


「……この国は武を尊ぶ国。貴族も例外ではありません。ですが、だからといって他事を疎かにしていいわけでもありません。私も貴族として、武術のみならず様々な事柄を学ばされました。休む間もなく」


 話を聞いているだけで窮屈そうだ。あたしには無理な生活だと思わされる。


「へー、大変そう」

「……ミリーも貴族ですわよね?」


 のん気な感想だと思われたかもしれない。ティルティは怪訝そうに首を傾げてあたしを見ていた。


「あー、うちはほら、パパが成り上がっただけだし、適当だったんだ。今は元が付くしね」


 貴族と言えば、上に立つ者。他の国はどうだか知らないが、アルディス竜帝国ではまず誰をも先導できる強さを求められる。その上で、為政者としての能力が必要とされ、最後に芸術やら何やらの教養がついてくる。

 あたしのパパはタイミングもあるけど何より武力を認められて貴族になった。お陰で為政者としての能力は皆無だった。それはパパ自身も自覚していた事だ。

 だからレイニーや他の補佐をする人たちを重用して何とかル・ロイザを守ってきたのだ。

 そんな感じで何とかなっていたからか、パパはあたしに貴族らしさを求めなかった。流石に情勢が怪しくなってきてからは不自由を強いられたものの、あたしの生き方そのものを縛る事は一度もなかった。


「そ、そうなのね」


 ティルティはショックを受けていたようだった。あたしのような元貴族もいるのがそんなに衝撃だったのか。他の国ならいざ知らず、アルディス竜帝国では割とありふれた存在だと思うのだけど。


「ゴホン……ともかく。休む暇もなかった私はある時、不意に糸が切れたように人目も気にせずわんわん泣き出してしまったんですわ」

「限界がきちゃったんだね」


 今でさえ十五歳。まだまだ子どもと言って差し支えない年齢だ。

 それがもっと前から生き方を雁字搦めに強要されていたのでは、どこかで限界が来る方が普通だ。


「ええ。その時、傍にいたリィンが『嫌なら逃げちゃいましょうか』って言ってくれて。強引に私の手を取って屋敷から逃げ出したんです」

「うわ! リィンもやるねー!」


 普段のリィンからは想像がつかない、まるで物語の王子様みたいな展開に思わず聞いているあたしのテンションも上がっていく。


「私が『いいの?』と聞いたら『お嬢様の望みを叶えるのが僕の役目ですから』って」

「おおお! それでそれで?」

「とはいえ子どもの頃の話ですから、すぐに衛兵の方に見つかって連れ戻されたんです」

「あちゃー。まぁ、しょうがないよね」


 今とは違い、リィンも子供の頃の話。場当たり的な行動がうまくいくはずもない。


「連れ戻された先で、お父様も周りもカンカンに怒っていました。当然ですよね。

 でも、リィンはそこでも矢面に立って責任は自分にあると言い切ってくれたんです。私が言い出した事なのに」

「リィンかっこいい!」


 思わず拍手喝采。

 同時にようやくリィンの事が何となくわかってきた。

 ティルティを第一に考える従者として、自らを律しているのだろう。それが昔から変わっていないのだ。

 からかう事を楽しんでいる側面があるのも本当なのだろうけど。


「それから……気付いたら自然とリィンの事を追ってましたの」


 昔を思い出すように遠くを眺めながら、ティルティは呟いた。


「それは仕方ないねぇ。いやいや、そういう事なら全力で協力しないとだ!」


 いい思い出話を聞かせて貰った。

 そこまで聞いては、張り切らない訳にはいかない。

 あたしは両手に力を込めて、ティルティへ一層協力する事を誓う。


「ありがとう。ミリーだけじゃなく、サクラたちにも感謝していますわ」

「そうだね。大丈夫だよ。さっきも言ったけど、サクラたちならやってくれるよ!」


 気力は充実していた。

 あとはサクラたちの準備が整うのを待つだけだ。

 なら、今あたしにできることは何だろう。考えるまでもない、頑張るサクラたちを応援する事だ。

 サクラたちに力をつけてもらえるような夕飯の献立はなんだろうと頭を悩ませるのだった――

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