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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-13「二十三層・敗走」

 マリシャス・ドールを撃破しつつ階段を見つけた我は、皆を引き連れて二十三層に至る階段へと赴いた。

 その間に皆の体力も回復した様子で、お陰で万全と言って差し支えない状態で二十三層へと足を踏み入れる事が出来た。

 階段の付近はまだ何の気配も無く、ひとまず安堵しつつ周囲の様子を探る。


「何か聞こえる……これ、足音かな」


 獣人の血が成す耳の良さか、ミリーが耳を澄ませて何かを突き止めているようだった。


「魔物か?」


 少し前まで、この二十三層が冒険者たちが到達できた限界だったという。もし魔物であれば、早々にその洗礼を受ける事になるやもしれない。

 武器を構えてミリーの反応を伺う。


「ううん……多分、これはヒトの足音だと思う。逃げてるって感じでもないかな。でもこっちに向かってきてる」


 慌ててる様子なら、魔物に襲われていると判断できる。それならば救援に急ぐべきかと思ったがそうではないらしい。

 ならば、どうするか。

 見る限り、道は一つのみ。どうしたって顔は合わせる事になりそうだった。


「待ちましょう。まずは向こうの様子を確認するのが懸命だと思うわ」


 同じダンジョンを攻略するライバルではあるが、同業でもある。

 有益な情報を得られるかもしれない。

 レイニーの判断に、一同頷いて様子を伺う事にした。


 少し待つと、通路の先に複数の人影が見えた。

 先方もこちらを見つけたようで、早足でこちらに駆け寄ってくる。


「見かけない顔だな。有望な新参は歓迎するぞ」


 屈強な体躯の戦士といった風貌をした理人《ドワーフ》の男がにこやかに話しかけてきた。

 奥に連れ立っているのは獣人に魔人、人間と様々だ。


「もしかして、《絶崖の登頂者》の方々ですか」

「よく知ってるな。その通りだ」


 どうやらレイニーの推察通りの相手のようだ。その名前は我も聞いた覚えがある。二十四層に到達したAランクのユニオンの名前だったはずだ。つまり、現時点で最も深い地点に至った者達だ。


 だが、今は深部へ挑んでいるという様子ではない。上から来た我らと遭遇しているのがその証拠だ。

 しかし、それにしては誰も疲弊しているように見えないのが気になった。


「一時撤退、という所かの?」

「あぁ。これは忠告だが、今はタイミングが悪い。お前たちも一度引き返した方がいいぞ」


 どうやら魔物から逃げ果せたわけではないらしい。タイミング、という言葉が引っ掛かる。

 それでも彼らに悪意は無さそうだった。こちらを陥れようというのではない。詳しく知りたいなら自分で確かめろと暗に言われているようだ。


「ありがとうございます。忠告痛み入ります。ですが、少しでも情報が欲しいので」

「うむ。手ぶらでは帰れんからの。すまんな、せっかくの忠告を」

「いや。冒険者はそうでなくてはな。命を無駄にしない程度に頑張るといい」


 どうやら、我の推測は当たっていたようだ。レイニーも同じ事を考えていたのだろう。我らの答えに、理人《ドワーフ》の男は満足したように頷いた。

 そうして我らの横をすり抜け、退却していく。


 彼の後に続く者達も、にこやかに応援の言葉を口にしながら撤退していく。

 ユニオン全体の雰囲気がどんなものか、如実に感じさせられた。


「……良い冒険者たちであったの」

「うんうん。冒険者ってああいう人たちだよねー」


 しみじみと実感を込めて呟くと、ミリーが共感の声を挙げてくれた。


「さ、気を引き締めて行きましょ」


 ほっこりと緩んだ空気を戻すように、レイニーが手を叩いた。

 確かに撤退する彼らとは違い、我らはこれから挑みに行くのだ。気を緩めている場合ではない。


 改めて進行方向へと向き直る。敵の姿は未だ見えなかったが、確実に存在するであろう困難を前に、我らは慎重に歩を進めた。


 二つほど角を曲がった所で、正面の光景に違和感を覚えた。

 通路が塞がれている。最初はそれが壁だと思った。

 だが、すぐに気付く。金属の壁のように見えたそれは、各所に凹凸があり、隙間から更に奥へと続く道が覗いていた。

 違和感を元に改めて全景を見てみれば、それは人の形をした金属の塊が複数密集しているようだった。


「……あれ、ゴーレム?」

「だと思う……けれど、あんな金属で構成されたゴーレムなんて知らないわ」


 それが何であるかミリーとレイニーは覚えがあるようだった。我でも聞いた事はある。ゴーレムと言えば、動く土塊の魔物だ。

 しかし、目の前に居座る巨塊はどう見ても金属質の光沢を放っている。土塊などではない。

 レイニーたちもそこに違和感を覚えているようだった。


「あれが長年二十三層を突破不能にしていた魔物なんですの?」

「このダンジョンの性質を考えるとそうなのでしょうが……」


 ティルティとリィンも困惑している様子だ。確かに見た目は人よりも大きく威圧感があるし、金属で出来ているなら相応の防御力もありそうだ。しかし、だからといって攻略を困難にする程の強さを誇るようには到底思えなかった。


「ひとまず突いてみれば分かるでしょ。いくよ!」


 皆の感想も同じだったようで、ミリーが一足先に前に躍り出た。両手に構えたビームライフルでゴーレムの中心を狙い撃つ。


 ビシュン――


 ミリーの狙いは正確だった。ゴーレムの中心、腹部のど真ん中へと吸い寄せられるように向かったビームは、しかし命中すると同時にあえなく霧散した。

 まるでそれが当然とでも言わんばかりに、霧散したビームの後から無傷の胴体が姿を現す。


「え……き、効いてない!?」

「なら魔法で……っ!」


 驚愕するミリーを庇うようにレイニーが手を伸ばした。その掌から炎の塊が生み出され、高速で撃ち出される。

 ゴーレムは防御する素振りも見せず、黙って立ち塞がるのみ。

 炎の塊がゴーレムに触れ、全身へと炎が巡りゆくも、数秒と経たずに鎮火した。

 ゴーレムは悠然と立ち塞がったままに。


「今のも無効化しますか……他の属性ならどうでしょう」


 リィンが掌を掲げ、水の礫《つぶて》を複数生み出す。

 即座に放たれたそれらも、ゴーレムの身体は容易く受け止め、水は形を失い床を濡らすだけだった。


 その後もレイニーとリィンが交互に複数の属性魔法で畳み掛けるも、一つとして有効打には至らなかった。

 魔法そのものが効かない特殊な装甲なのかもしれないという推測が立つ。


「ええい! ならば直接斬り伏せる!」


 残る手段は物理。この中で最も破壊力を出せるのは我の斧を置いて他に無い。

 地面を蹴り上げ、ゴーレムの正面へと突っ込みながら斧を振りかぶる。

 勢いを削ぐ事無く振るった一撃がゴーレムの無防備な頭に直撃し――跳ね返った。


 同時に、空中に無数の金属片が舞い散る。それはゴーレムに与えた傷ではなく、我の斧の刃だったもののなれ果てだった。


「ああああ! 我の斧がぁぁぁあ!!」

「それぶっちゃけ変な機能のついたただの斧だし……残念だけど当然じゃない?」


 後方から言葉での追い打ちを叩きつけられる。


 ミリーよ、例え事実だとしてもそこは口に出さないのが優しさではないのか。


「バカ言ってないで、体勢立て直して!」


 我が愛斧の破損に心痛めていた所にレイニーから叱咤が飛んでくる。

 気付けば、それまで沈黙を保っていたゴーレムが緩やかに動き出していた。


 大きく腕を上げたかと思うと、力強く降り下ろしてくる。

 しかし動き自体は目で追える程度であり、レイニーの警告もあって難なく避けられた。


 装甲こそ脅威だが、見た目通り動きは鈍重のようだ。

 だとすれば、すり抜ける事も可能かと空いた隙間に目を向ける。しかし、隙間の先には別のゴーレムが陣取っている。いくら動きが遅いと言っても、数が多ければすり抜けるのは困難だ。


「なるほど……だからタイミングが悪い、か」


 ここにきて《絶崖の登頂者》が言っていた言葉が思い返される。

 彼らが撤退を決めた理由が、まさにこの状況に表されているのだろう。


 ゴーレムの攻撃は尚も続く。我は壊れた斧を盾に守りに入った。


「サクラも気付いたみたいね。なら、選択肢は一つよ」

「うむ。撤退だの」


 有効打を与える手段がなく、すり抜ける隙間もない現状、対策を考えるにしてもゴーレムが離れるのを待つにせよ、このまま待機する選択肢は無い。

 進むための一時撤退。それは誰もが理解できる話だと思ったのだが。


「い、イヤです!」


 拒否の悲鳴を上げたのはティルティだった。

 貴族のお嬢様とはいえ、ここまで理性的だった彼女からそんな言葉が出るとは露にも思わなかった。

 レイニーやミリーも我と気持ちを同じくしていたようで、困惑の表情を浮かべている。


「お嬢様、ここは皆様に従いましょう」


 リィンは優しく肩に手を置き、ティルティを諭す。従者たるリィンは冷静に状況を推察出来ているようだ。


「でも、時間が……」


 対するティルティは、リィンの呼び方にも反応せず。それだけで取り乱している事がよく分かる。


「時間? なんだ、期限でもあったのか?」

「そ、それは……」


 我が疑問を挟むと、ティルティはあからさまに言い淀んでいた。

 パーティを組もうとなった時、そんな話は無かったはずだ。パーティ探しに躍起になっていたのは、単に組んでくれる相手がいなかっただけではなかったのか。


「言いたい事と聞きたい事はあるけど、まずはニ十層まで退避。これは絶対。いいわね!」


 レイニーが発破をかける。正直、防御に専念しているとはいえゴーレムの攻撃を耐え続けるのにも限度があった。我が愛斧もそろそろ限界だ。

 これ以上、悠長に会話を楽しむ余裕もなくなってきている。

 ミリーはティルティの傍に駆け寄り、リィンとは反対側の肩にそっと手を添えた。


「進むためには一度退く事も大事だよ。ティルティなら分かるでしょ?」

「お嬢様……」

「……ティルティ」

「失礼しました。ティルティ様、戻りましょう」

「分かってるわ。その……ごめんなさい」


 少しは冷静さが戻ったようだ。ティルティはリィンにいつも通りのツッコミを入れながらも、恥ずかしそうに謝罪を述べた。


「話は纏まったかの。では、全力疾走だ!」


 勢いをつけるようにゴーレムを大きく蹴り上げ、反転する。

 二十三層の洗礼を受けた我らは、こうして撤退を余儀なくされたのだった――

いつも読んで頂きありがとうございます。


本編及びこの五章もまだ続きますが、来週から更新頻度を以前の週二回に戻させて頂く所存です。

単純に私の遅筆もあるのですが、今年に入って体調を崩す機会が数度あったのもあって想定より早くストックが切れました。

楽しみにしてくださっている皆様には大変申し訳なく思いますが、ご理解いただけますと幸いです。

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