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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-6「二層・忍び寄る罠」

 『地獄への路』二層。

 一層と見た目は然して変わらなかった。

 明らかに人工的に造られた整然とした道なりは、果たしてどのような意味があるのか。

 ダンジョンとは魔物の自然発生が特に頻繁に起こる場所を指す。

 つまり、本来この場所にはダンジョンではない別の意味があったはずなのだ。


 地獄への路、という名称も本来のものではないと以前聞いた。

 地下深くまで伸びる人工物。その建造理由はどうにも興味を引き立てる。


「次の分かれ道は右ね」


 そんな謎の建造物の中を、我らは迷わず進んでいく。

 何故迷わないのか。それは情報収集の段階で低階層の地図を得ているからだ。

 浅い階層ほど価値が低い為、情報は安く仕入れられる。詳細な地図も二束三文で出回っていた。


 我らの目的は高品質の魔石探しとダンジョン踏破。その為には低階層で時間を無駄にするべきではない。金で時間を買えるならばその方が良いと言う判断だ。


 頭に記憶しているというレイニーの案内ですたすたと進んでいく。

 しばらくして、不意にその足が誰ともなく止まる。皆一様に敵の気配を察したのだ。


「次は私の番よね。武器の扱いは二人ほど得意でないし……魔法を見せるべきかしら」

「何でもそつなくこなす人が何言ってんだか」


 ミリーの呆れ声を意に介さず、レイニーは剣を振るいつつも魔法の準備に入っていた。

 視界に見えてきたのは一層で出会ったのと同じナイトウィング。一つ階層を跨いだからといって劇的に魔物が変化するわけではないらしい。

 ただ、その数はリィンが仕留めた倍はいるようだった。


 レイニーは動じない。

 左手を正面に突き出し、意識を集中するが如く沈黙する。

 ほどなくして一つ、また一つと掌の前に氷の針が形成されていった。


「――氷針アイスニードル


 号令をもって、無数の氷針が射出される。その全てが吸いつくようにナイトウィングの頭を貫いていった。

 時間にして僅か数秒。一瞬の決着に、誰もが目を奪われていた。


「……素晴らしいですね」


 リィンが拍手をする。その手は自然と動いていたもののようだった。

 その言葉と態度は、我を含む他の者全ての代弁でもあった。


 如何にビーム兵器が優れていようと、如何に武器の扱いに長けていようと、ここまで見事に無数の敵を相手取る事は出来まい。

 それを成したレイニーの魔法の腕前は賞賛に値するものであり、魔法の可能性を感じ入るものであった。


「褒めても何も出ないわよ」


 だが、当の本人は何でもない事のように振舞う。

 レイニーの夢は特色魔法を会得する事。基本色である四色の魔法がどれだけ扱えようとレイニーにとっては些末な事なのだろう。


「いえ、本心ですよ。あれほど鮮やかな魔法の発動は中々出来るものではありません」


 しかし、本人がどれだけ否定したところで事実は変わらない。

 絶賛するリィンに対し、ティルティはどこか面白くなさそうに眉根を寄せていた。


「た、確かに中々のものでしたわね……」

「ん? どしたの、ティルティ。前がレイニーで臆しちゃった?」


 ティルティの表情を、ミリーは緊張と捉えたらしい。

 確かに次の番であるティルティがレイニーの手並みに気後れしたとておかしくはない。


「そういうわけではっ! ……コホン。私が流れを崩すわけにはいきませんし、精一杯やらせて頂きますわ!」


 ミリーの言葉に被せるようにティルティは強く否定の言葉を口にする。その振る舞いに思う所があったのか、すぐにわざとらしい咳払いをして落ち着いた物腰に戻った。

 平静を取り繕おうとしているようにも見える。気丈に振舞おうという様には敬意を覚えるものだ。


 ティルティの意気込みに応えるように、次の魔物はすぐに現れた。

 素早く疾走してくる狼の魔物、ホワイトウルフだ。ル・ロイザからランテに至る道でも遭遇したこの魔物は、美しく白い毛並みを誇り思わず見とれてしまう程だ。だが、集団での狩りを得意とする知性を持ち、鋭い牙による攻撃力と鍛え抜かれた四つ足からなる俊敏性が非常に厄介な魔物でもある。

 数は三匹。決して多いとは言わないが、一人で戦うとなると油断ならない数だ。


 はてさて、我らには取るに足らない魔物だが、ティルティにとっては如何ほどのものか。

 冒険者としてのランクはEだが、ランクC相当の実力はあるとリィンは語った。

 それが事実であれば、苦戦する事は無い相手だ。


 いつでもフォローできる態勢を取りながら、ティルティの動向を伺う。

 我らが見守る中でティルティは冷静に矢を番えた。


 急速に距離を詰めてくるホワイトウルフに対し、ティルティは極めて冷静に矢を放つ。だが、その軌道は見切られており、ホワイトウルフは走りながらも矢の軌道から身を逸らす。


 ザシュッ!!


 ――身を逸らしてはずだった。だが、矢は空中で明らかに方向を転換し、ホワイトウルフの眉間へと突き刺さる。

 先頭の一匹がやられた事で、後続のホワイトウルフの気勢が削がれる。

 その隙を逃すティルティではなかった。

 続けざまに矢を番い、二手、三手と矢を放つ。片方は再びホワイトウルフの眉間を貫いたが、もう片方は片目を潰すに留まった。

 まだ息がある。失速しながらも、敵意は衰えることなく残った瞳でこちらを睨みつけている。

 だが、ティルティが次の矢を番う事はなかった。何故なら、既に四手目は放たれていたからだ。


 ドシュッ!!


 こちらを睨む瞳が矢で潰れる。二本の矢を受けたホワイトウルフは完全に沈黙した。

 戦闘の終了を自覚したのか、ティルティの両肩から力が抜ける。

 ため息が一つ零れ、それが終わりの合図となった。


「ほほう。百発百中か。全然余裕ではないか」


 リィンの言葉が正しかった事をティルティは証明してみせた。

 ここまでの実力を示されれば、少なくとも浅い階層で護衛を必要とする事はないと判断できる。


「ていうか、矢の軌道おかしくなかった!?」

「風魔法の応用ね。矢に風を纏わせて然るべきタイミングで発動する事で最小限の魔力で誘導しているのね……合理的だわ」

「あれだけでそこまで分かるものなのですね」


 驚くミリーに、レイニーが冷静な分析を語る。それが真実である事を裏付けるようにリィンは感心してみせていた。

 何にせよ、ここまで我以外の皆が実力を示してきたわけだ。あとは誰が実力を示すべきかなど言うまでもない。


 ホワイトウルフの処理を済ませ、進軍を再開する。二層でそれ以上魔物に遭遇する事は無かった。

 一層と同じく、ダンジョンという割には魔物との遭遇が少ない気がするのは気のせいではあるまい。

 恐らく無数の冒険者たちが攻略に挑んでいる為、狩り尽くされているのだろう。それに表層階はとっくの昔に攻略された場所だ。最適解のルートが確立されている以上、遭遇率も低くなっているのだ。



 敢えて横道に逸れる理由もない。我らは意気揚々と三層目に突入した。

 見た目の変わらない三層に入り、早々に敵の気配を知覚する。


「さて、最後は我だったな」

「バッチリ締めてよね!」

「私達のリーダーだもの、当然よね」

「サクラさんの実力、拝見させて頂きます」

「ふふふ。任せるがよい!」


 それぞれがプレッシャーをかけてくる中、背中に携えた二振りの斧を取り出し、構えを取る。

 ここまでの過程で感じ取っていた事だが、このパーティはやや偏りが目立っていた。

 前衛がいないのだ。ティルティやミリーは射撃武器を扱うし、レイニーも魔法を主体とする。リィンの鞭は中距離向きの装備だ。

 レイニーもミリーも接近されれば剣を振るい体術で退ける事は出来ようが、緊急時に対応できるという程度の話だ。

 つまるところ、我が前線に出ていく必要がある。体術の心得はそれなりにあるし、竜人の強靭な肉体も備わっている。適切な采配といえよう。

 なればこそ、接近戦で勇猛果敢な姿を指し示す必要があると感じていた。


 魔物の気配は通路の角の先。何が出てくるのかと気を張っていると、気配より強く臭いが漂ってきた。


「……ん?」


 腐臭と読んで差し障りない酷い悪臭に思わず目をしかめる。鼻も抓むべきかと戦闘に相応しくない考えが頭を過ぎる中、それが記憶にある臭いだと思い至る。


 それが何だったかと記憶を辿っている内に、相手が姿を現す。


「ぐっ……そうか、貴様らだったか」


 腐敗した肉体で這うように歩いてくるその姿、正しくゾンビだった。

 フレーレ遺跡で何度か遭遇したが、あの時は《草原の導き手》がほとんど対処してくれていた。何故なら、ゾンビのコアは胴全体。確実に倒すには胴を焼き払うか再生できない程細かく切り刻む必要がある。

 目からビーム《グラスラインレーザー》は局所的に高熱で穴を開けるだけ、斧は切り刻むのに適さない。率直に言って相性が悪すぎる。


 だが、だからといってバトンタッチは出来まい。

 あれだけ啖呵を切ったのだ。どうして今から退く事が出来ようか。


 こうなったら先手必勝。

 相手は鈍重なゾンビだ。態勢が整っていない内にこちらから打って出た方がいい。


 そう思い我は駆けだした。


「あ、サクラそこ――」

「――ふぁ?」


 背後から聞こえてきたミリーの声に、耳を傾けようとしたその時。

 足元に心許なさを感じた。

 嫌な予感を覚えて真下に視線を向ける。


 そこにあるはずの地面は姿を見せず、代わりに虚無が広がっていた。


「あああああああああああああ!!」

「サクラぁぁぁぁ!?」


 虚無……いいや、恥を忍んで正しく言おう。

 我は落とし穴の底へと真っ逆さまに落ちていったのだった――

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