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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-7「六層・名付けと偽名」

 『地獄への路』三層で落とし穴に引っ掛かった。

 我の身体は成す術なく、自由落下にて遥か奈落へと墜ちていく。


 どこまで墜ちたのか。

 まさか落とし穴などという古典的な罠にかかるとは思わなかった。

 それ以前に、そんな罠が存在すると想像していなかった。


 だが普通に考えれば、『ダンジョン』というのだから罠の一つや二つあって当然だ。我の想定が甘すぎた。これでは後でどやされても仕方ない。


 感覚として二つ三つ分の階層を経ていると推察された。

 そうした分析が出来る余裕があるのは、受け身を取るだけの時間的余裕があったためだ。落下の衝撃を最小限に抑える事で、すぐさま次の行動に移る事が出来ていた。


 幸か不幸か、落とし穴の先が針の山だったり底なしだったりする事は無かった。

 だが、ただの落とし穴だったと考えるのは早計だろう。


 罠の目的は敵の排除か、もしくは獲物の捕縛というのが基本だ。つまるところ、確殺できる罠でないなら次の手が用意されているとみて然るべきなのだ。


 周囲へと目線を向ける。先ほども感じていた吐き気を催す腐臭がより強烈になって辺りを漂っていた。


 なるほど。ゾンビに落とし穴を避ける知能があるとは思えない。彼らもまた罠の餌食になっていておかしくない。

 つまりここはゾンビの溜まり場かと警戒を厳に周囲を伺う。


 だが、ゾンビの破片と思しきものはほんの僅かしかなかった。代わりに猛烈な殺気がどこかから浴びせられる。

 その気配が急速に近づいているのを感じ、反射的に背後に向けて斧を振るった。


「ガウッ!?」


 獣の鳴き声とともに、気配が一時遠ざかる。

 改めて全身を殺気のくる方へと向けると、そこにいたのは口元から血を滴らせる四つ足の獣がいた。

 いや、違う。獣ではない。獣達だ。

 殺気が四方八方から湧き上がる。どうやら不意打ちに失敗した事で、周囲に潜んでいた獣が敵意をむき出しにしてきたようだ。


「やれやれ、どうやら餌場に迷い込んでしまったようだの」


 恐らくだが、この獣達は落ちてくるゾンビの屍肉を貪って生きてきたのだろう。つまるところ屍肉漁りをする獣というわけだ。

 生者の肉に興味が無いなら良かったのだが、向けられている敵意から見ても生憎と生死の拘りは無さそうだ。

 であれば、迎え撃つ以外に道は無い。


 獣はざっと眺めただけでも三十以上はいると思われた。

 決して負けるとは思わないが、地理的優位は敵方にある。腐肉の残骸で足元は悪く、腐臭は否が応でも気力を萎えさせる。


 獣たちはすぐに襲ってくる事はなかった。数の優位にかまけて、こちらの隙を伺う算段なのだろう。

 気を抜いた時が攻められる時だ。ならば、そのタイミングをこちらで誘導してやろうかと策を練りだしたその時。


 ビシュン――


 一筋の閃光が天から注がれた。それは正確に一匹の獣の脳天を貫き、絶命に至らしめる。

 同時にこの場に相応しくない呑気な声が聞こえてきた。


「サクラー! 大丈夫ー?」

「ミリーか! 何故ここに!?」


 声に導かれ頭上へと目を向けると、壁を蹴って勢いを殺しながら降下してくるミリーの姿があった。

 その流れでビームライフルで先制をとってくれたようだ。


「心配だから追ってきたんだよ。レイニー達は普通に階段探すってさ」


 どうやら我の後を追ってわざと落とし穴に突入したらしい。獣人の血を引くミリーならではの機敏な動きなら着地まで問題ないと踏まえての案か。


 まだ浅い階層とは言え、戦力を二分する事になったのは申し訳ない限りだ。しかし、だからといって他の者達まで一緒に降下するような愚は侵さなかったか。


 どうやら我は信頼されているようだ。

 もし完全に諦められていたなら、ミリーの救援を許しはしまい。

 ミリーの援護だけで当座は凌げると判断されたのだろう。

 ただし、幾らその場しのぎが出来たとしても脱出が出来ねば意味は無い。だからこそレイニー達は通常の道程を進み合流を試みる判断をしたのだ。

 まだ地図という情報が生きている階層故に落とし穴の行き着く先にも心当たりがあるのだろう。


「そうか。むぅ、我の活躍を見せるのが遅くなってしまうの」

「今心配するのそこぉ?」


 我の冗談にミリーは苦笑しつつ、互いに背中合わせに構えを取る。全方位を囲まれている為、少しでも死角を無くすためだ。


「うげぇ、グレイブハウンドじゃん」

「知っておるのか。どんな魔物だ?」

「見ての通り、《屍肉漁り》って名前がつけられるようなヤツだよ。

 群れなきゃ何も出来ない臆病者だけど群れると途端に強気になる情けないヤツ」


 ミリーからはかなり辛辣な評価をされているようだ。屍肉漁りとは中々に酷い渾名だが、この環境を見れば納得もいく。


「臆病なら、我らは見逃してくれたりはせんかの」

「ほんとにそう思う?」


 周囲を見やる。あからさまな害意を向けてくるグレイブハウンドしか見当たらない。

 ミリーの奇襲で一匹やられたと言っても数の差が圧倒的な故か、それとも引くに引けないからか、向こうに身を引く選択肢は無さそうだ。


「……流石に無理か」

「戦うのが怖くて屍肉を貪るようなやつも、数で勝るなら気も強くなるって事。

 どう考えても生肉の方が美味しいに決まってるでしょ」

「なるほど。道理だの。仕方ない、覚悟を決めるか」


 ミリーは身も蓋もない言い方をするが、正論だろう。グレイブハウンドは臆病故に屍肉に群がるだけであって、好んでいるわけではない。

 より美味しい餌にありつけるとあっては目の色も変わるのだろう。


「最初から負けるつもりなんてなかったでしょー」

「当然。我と主がいればこの程度問題なかろう?」


 ここまで悠長に会話をしているにも関わらず襲ってこないグレイブハウンドを見れば、負ける気は一切起こらなかった。

 臆病と評したミリーの言葉は真実なのだろう。数の優位で包囲し、敵意を露わにしておきながら尚、攻めあぐねているのだ。かといって恐慌状態に陥るほど命を捨てる気もないらしい。

 だからこその臆病。そのような相手に後れを取るつもりはない。


「まーねー。じゃ、サクっとやっつけて皆と合流しよっか!」


 ミリーの軽口が合図となった。

 我の方から目からビーム《グラスラインレーザー》で先制を放つ。背中合わせにミリーもまたビームライフルのトリガーを引いていた。

 前後から短い断末魔が響き渡る。三匹の絶命によって、ようやくグレイブハウンドの尻にも火が付いたようだった。


「アオオオオオン!!」


 どこからともなく聞こえる遠吠えと共に、周囲のグレイブハウンドが一斉に迫ってくる。

 数的優位を活かす分かりやすい戦法だ。だが悲しいかな、所詮は獣の浅知恵でしかない。


 距離が離れている間にビームの連射で数を減らし、攻撃圏内にまで迫った敵へは斧を振りかぶる。ミリーも同様に近づいた敵から体術で蹴り飛ばしていた。

 それだけで迎え撃てる程度の襲撃だったのだ。

 何故なら、グレイブハウンドを攻め立てる意思は『恐怖』でしかないのだから。


 怯えがあるから踏み込み切れない。尻込みする故に隙が生じる。

 そして、それを見逃す我やミリーではない。


 我らに唯一勝る数の差をグレイブハウンドが有効活用できなかった時点で勝敗は決まっていた。

 ものの数分でグレイブハウンドはその数を片手で数えられるまでになる。

 残った数匹は甲高い悲鳴を上げながら逃走していった。


「いぇーい! あたしたちの勝ちだね!」

「ま、当然の結果だの」


 全滅させる事も当然できたが、無益な殺生を好むわけではない。逃げる者は追わず、ミリーと拳を合わせて勝利を祝った。


 ひとまずの安全を確保した我らは、レイニー達と合流すべく上層へと向かうように歩き出す。

 すれ違わぬよう待機するという選択肢もあったが、地図があるならば合流を急いだ方がいいという判断だ。


「……そういえば気になった事があるんだがの」


 然したる脅威も無い道中、暇を持て余した我は話題を一つ口にしてみる事にした。


「ん、なーに?」

「ティルティ達を勧誘した時、リィンの呼び方でレイニーが躊躇しておったであろう」


 リィンマルスを愛称で呼ぶ事をレイニーが躊躇っていた。その場では直接聞けなかったが、どういう意味があったのかずっと気になっていたのだ。

 ミリーがこの疑問の答えを持っているかどうかは不明だったが、本人が居ない今だからこそ聞ける質問だった。


「あー……あれは多分だけど、リィンが純粋な魔人族だからだよ」

「んんん?」


 しかして、我の不安を払拭するように即座に返答があった。ただ、相変わらずその意味は理解しえない。補足を求めて混乱を音にして出すと、ミリーは苦笑していた。


「サクラは知らないかぁ。魔人族ってね、名字を持たないんだよ。代わりに親しい人にだけ愛称での呼び方を許すって習わしがあるの」

「なるほどの。だから初対面の我らにそれを認めた事に驚いていたのだな」


 種族の違いによる文化の違いか。であれば、他種族との交流をしてこなかった我が知らぬも無理はないというものだ。逆にアルディス竜帝国は多種族国家故に、その住民であるミリー達は詳しいのだろう。

 ひとしきり納得していると、ミリーが更に注釈を加えてきた。


「あーっと、上手く伝えられてないかもだけどここでいう親しいってさ、もっと厳格っていうか、自分より偉い人とか家族とかほんとに一部の人だけって話なの。だから普通に考えたらあたし達はダメなはずなんだよね」


 どうやら我が想像する以上に厳しいしきたりのようだ。


「それは……もしやリィンにはかなり無理を強いているのかの」

「うーん、どうだろ。ダメなら絶対に拒否してると思うし。最近の人はそこまで昔の風習に拘らないとも聞くし、リィンもそうなのかもね。ハーフとかは名字持ちになってもっと緩くなったりもするし」


 つまり長い年月と他種族との交流で軟化した風習という事か。こういうところは前世と変わらないようだ。時流が過去の因習を緩やかに流し、混ざり合っていく。そうして新しい価値観へと移ろいゆく。

 決して悪い事ではないが、若干の侘しさを覚える話に、我はしみじみと頷いた。


「名前一つとっても色々あるんだのー」

「……それをサクラが言う?」

「ん?」

「前から思ってたけど、サクラ・ライゼンって偽名だよね?」


 ドクンと心臓が跳ねる。

 ミリーから飛び出した爆弾発言に我は思わず足を止めた。


「……何故そう思う?」

「竜人族って、自分の属性にちなんだ色の名前をつけるって聞いた事あるよ。あと、魔人族と同じように名字も無いって。だからハーフじゃないなら偽名なんだろうなーって」


 つい今しがた話していた内容がまんま我にも当てはまっていたらしい。

 確かに竜人としての我の名はチェリー。紅い実の名だ。それは火属性に適性のある我だからつけられた名だったようだ。

 それを指すならば、サクラもある意味では近しいと思うのだが、そもそもこの世界に桜は存在しなかったか。どのみち名字の有無で違和感は持たれていたらしいから詮無い事か。


「あー……その言い方だとレイニーも察しておるのかの」

「多分?」


 ミリーは曖昧に濁したが、聡明なレイニーが勘付いていない訳がない。

 だというのに初対面からずっと何も指摘してこないのは、我の事情を鑑みての事だろうか。


「ううむ。騙すつもりはなかったのだが、礼を失していたの。すまぬ」

「別に謝る必要はないよー。なんか事情があるんだなーくらいにしか思ってないし。レイニーもそうでしょ」

「そうか……ふむ、我は仲間に恵まれておるの」

「へっへー。それ、ちゃんとレイニーにも言ってあげなよ」

「む……善処しよう」


 ミリーの言う通り、どこかで折を見てレイニーにも伝えるべきだろう。

 だが、それはもう少し先の事だ。今は何より合流する事が先決。

 一つため息を吐いて気を落ち着けた後、我は改めてミリーと共に上層を目指し歩き始めた――

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