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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-2「作戦会議」

 冒険者ギルドを訪れた後、市街の鍛冶屋を数軒見て回るうちに日が暮れてきた。

 しかし、どの鍛冶屋も店先を眺めるだけで中を覗き見るまでには至らなかった。決してどの鍛冶屋もスキルが低いだとか不満があったわけではない。ただ、こちらのテンションに問題があった。それは冒険者ギルドで得た情報のせいだろうと自覚している。


 結局大した成果もないままに、レイニー達と合流する予定の時間になっていた。


 レイニー達と合流した我は、二人とともに酒場で夕食を取る事にした。

 適当に注文を取り、ひとまず喉を潤す。あいにく我とミリーは酒ではなく果実水かミルクだ。齢だけなら百を超えている我だが、見た目は成人しているようには見られないので仕方がない。尤も、前世から酒を嗜む人間ではなかったのでそこまで不満はなかった。


 落ち着いたところで、本日の成果について話し合う。


「物資の調達は完了したわ」

「冷蔵庫はもうパンパン。保存食もたっぷり仕舞い込んだから、節約しなくても半月は保つと思うよ」

「もちろん、薬や消耗品も買ってあるからいつでもダンジョンに挑めるわ」


 二人の成果は上々のようだ。大量の荷物が見えないのは、既にマジックハウスやマジックバッグの中に仕舞ってあるからだろう。マジックハウスはある程度の広さがなければ展開できない欠点もあるが、かといってマジックバッグに冷蔵庫は仕舞えない。

 すぐに必要となる薬の類や携帯食はバッグにしまい、それ以外はマジックハウスで管理するというのが適当な形と言えた。


「そっちはどうだった? 何かいい情報あった?」

「あー……それがの。困った事になった」


 二人の十全な報告の後となり、切り出しにくくなってしまった。

 残念ながら我の方はあまり芳しくない結果となっている。しかし、話さないわけにもいかない。


「ん? どうしたの?」

「件の『地獄への路』なんだが、Cランク以上の冒険者かつ五人以上でないと挑めないらしい」


 冒険者ギルドの受付で聞いた最大の問題がそれだった。難易度云々ではない。それ以前に挑戦する段階で躓いていたのだ。


「ええっ!? なんで!?」

「未踏破ダンジョンだから……かしらね」


 驚くミリーに対し、レイニーは冷静に分析する。頭の切り替えの早さは見習いたいものだ。


「レイニーの言う通りだ。少人数で挑んだ冒険者の未帰還率の高さが問題になっておるそうでの。

 それ故、未帰還率の高い四名以下でのダンジョンへの侵入を認めない流れになったそうだ」


 理由を聞けば納得するしかない話だ。幾ら自己責任が基本の冒険者とはいえ、不用意にポンポン命を散らせていては人手不足も深刻になる。そうなっては冒険者を頼りにする市民や商人などの依頼にも支障が出てくるだろう。冒険者だけでなく、関係する多くの人々、そして秩序や治安を守る為にも必要と言える措置だ。


 だから納得はするが、困る事実は変わらない。


「それは……参ったわね」

「せっかくここまで来たのに。何か方法はないの?」

「方法ならあるわ。パーティを組めばいいのよ」


 レイニーが逸早く解決案を挙げる。無論、我もその考えには至っていた。

 パーティとは、ユニオンと違いその場限りで組む集団を言う。今回に関して言えばダンジョンの攻略を目的としたパーティを組もうという算段だ。


「即席の共同体というわけだの。我もそれしかないと思っておる。だが、問題は――」

「相手がいるかどうか、よね」


 しかし先に口にせず、躊躇したのには当然理由がある。

 そして、その事はレイニーも承知している。それでも口に出したのは、それ以上の案がないからだ。


「正しく。昨日今日始まった制約ではなさそうだからの、めぼしい冒険者は既にパーティを組んでおろう」


 既にダンジョンに挑んでいる者達と新たにパーティを組むのは難しい。

 ダンジョンに挑む、という事は各々に目的がある。それは細部は違えど『儲けを得る』為なのは共通事項だろう。そうなると、既に挑戦しているパーティと組めば利益の配分で諍いが起こる可能性が高い。そういった時、新参者は大抵冷遇されるものだ。我らの目的である高品質の魔石など、まず権利は得られないだろう。


「運良く私達のように来たばかりの冒険者たちとかち合うか……少し口に出すのが憚られるけど、メンバーを失って挑戦権を失くしたところがあればスムーズにいくかもしれないけど」


 確かにメンバー不足で困っている同士ならば、上下関係が生まれる事はなくなるかもしれない。ただし、そこにも問題は生じる。


「仮にそういったパーティがあったとして、我らと組んでくれるかもまた問題だの」

「え、どうして? お互いに困ってるならすんなりいかない?」

「そう都合よくはいかないわ。まず力量が釣り合うかどうか分からないし、戦い方にも相性があるでしょ。即席のチームワークじゃ足を引っ張り合う事にもなりかねない。

 あと、私達の場合は特殊な魔道具を使ってたりするし、追及される可能性も考慮する必要があるわね」


 戦力に差があれば、優劣が生まれる。揉め事のきっかけとなりかねない。

 そして、既にある程度出来上がってるユニオンやパーティ同士が組むとなると、戦い方をどう合わせるかという問題も起こる。上手く噛み合えばいいが、そうでなければどちらかに寄せるか新しい構成を考えねばならない。結果として、かえって戦力が落ちる可能性もあり得るのだ。


 その上、レイニーが指摘するように我の魔道具は自分で言うのも何だが特殊だ。興味を持たれるのは悪くない気分だが、むやみやたらと開示できるものでもない。そうなると相手を選ぶのにも慎重にならざるを得なくなる。嫌な言い方をすれば、選り好みする必要があるのだ。


「それに報酬の問題もあるの。我らの目的は魔石だが、相手も同じ目的で挑む気やもしれん。

 仮に違う目的であっても、道中で得たアイテムやお宝の分配について互いが気持ちよく頷ける条件をつけようとなると、これまた難しいと言わざるを得ん」


 そこまでダンジョン攻略に向けて互いの同意を得られたとして、最後にして最大の報酬分配という難関が立ち塞がる。これは特に深刻だ。下手をすれば、最後の最後に同士討ちに至る危険性が出てくる。

 互いのすり合わせに妥協が出来ないポイントだ。


「魔石以外いりませーんって言っちゃうのはダメ?」

「それだと、仮に魔石が見つからず、代わりに魔石を買えるだけのお宝を得られた場合が問題だの」

「あー、そっかぁ」


 ミリーに説明しつつ、我も頭の中で話を整理していく。

 理想は報酬は完全な分配性にし、魔石は優先的にこちらに回してもらうようにする事だ。

 だが、その条件を受け入れてくれるかは相手次第だし、完全な均等にするのは難しい。万が一、魔石一つで全体の成果の半分以上の価値が出てしまったらひと悶着起こってもおかしくない。


「だけど、他に手が無いのも事実よね」


 そうなのだ。レイニーの言う通り、あれこれ愚痴を吐いたところで代替案があるわけではない。

 結局、不安を抱えようとも仲間を探すしかないのだ。


「確かにの。案ずるより産むが易しとも言うし、まずは明日、冒険者ギルドでメンバー募集を呼びかけてみるとするか」

「はぁーい」


 方針は定まった。いや、初めから他に道はなかった。それでも話し合いで結論まで導いた意味は大きい。覚悟が決まったと言い換えてもいい。


「まったく、前途多難ね」

「だが完全に行き詰ったわけではない。それなら意外と何とかなるものよ」


 それは自分に言い聞かせる言葉だったかもしれない。

 それでも、明日への期待を込めて口に出さずに居られなかった。


 まずは勧誘。良いパートナーとなれる相手がいる事を信じて挑むしかない。

 その時、ふと日中の冒険者ギルドで起こっていた諍いが頭を過ぎった。

 あの少女もまた、我らと同じような問題に苛立っていたのではないか、と――

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