4-16「夢の形」
試射会を終えてトムソンは帰り、残った我らは一度マジックハウスの中で集まっていた。
街の宿屋や酒場でなくマジックハウスを選んだのは、他人に話を聞かれないようにする為だ。
「はー……気持ちよかったぁあ。早く実戦したーい!」
「まずは落ち着いてからな?」
あとは、未だ興奮冷めやらぬミリーを人前に出せなかった意味もある。
ミリーの代わりに熱い紅茶を用意し振舞う。
ふぅふぅと冷ましている内に、ミリーの表情に落ち着きの色が見えてきた。
「ところでさ、魔石は三つ貰ったんでしょ。後の二つはどうするの?」
完全に落ち着いた様子のミリーが問いかけてくる。
ゲイマールから貰った魔石の一つはビームライフルに使ったが、他の二つはまだ残っている。その用途が気になるらしい。
「一つは決まっているぞ。冷蔵庫を作ろうと思っての」
「冷蔵庫?」
「確か前にも言ってたわね」
そういえば旅立つ前にも話題に出した事があったか。
旅路での最大の問題は食糧だ。携帯食もあるにはあるが、味に不満が大きい。それに栄養価も偏ってしまう。旅をする上で、最優先で処理すべき問題だ。
その改善案が冷蔵庫の設置だった。
「アイスクリームを冷やすのに、レイニーに氷魔法を頼んだであろう。簡単に言えば、あれを魔道具化したものよ。温度の調整で中の物を冷やしたり凍らせたりするのだ」
当然ながら、冷蔵庫と言っても冷凍庫も兼ねる構造に設計している。
前世のそれとほとんど変わらないものだ。
「へぇ……え、つまりそれってアイスクリームがいつでも作れるって事!?」
「それは急いで作るべきね」
「いや、それもそうだが……本来の用途は食材の長期保存だの」
ミリーとレイニーが揃って喜んでくれたのは有難いが、少しばかり答えがずれていた。
相当アイスクリームの甘さに心を奪われている様子だ。
我が訂正すると、レイニーは冷静さを取り繕うようにわざとらしく咳払いをした。
「……参考までに聞くけど、どのくらい変わるのかしら?」
「物にもよるが、正しく使えば大体2.3倍は保つようになるかの」
レイニーは実際の効果が気になるようだった。正直、そこまで具体的な数字に詳しくはないのだが大よそ間違っていないであろう答えを口にしておく。
「そんなに!?」
これには流石に調理担当のミリーの方が先に食いついてきた。
「それは……旅食の概念が変わるわね」
「あまり過信されても困るがの」
実用性については保証できるが、完璧ではない。そこは忠告しておくが、二人ならばわかっている事だろう。
ともかく、これが完成すればこれから向かう予定のリ・マルタまでの道のりも少しは楽になるだろう。
そう思っての提案だったが、何故かミリーは首を捻っていた。
「ううーん……」
「む? ミリーよ、何か不満か?」
「便利になり過ぎて、どんどんあたしの夢からかけ離れてくなぁって」
そういえばミリーの夢はどんな状況下でも美味しい調理が出来る料理人になる事だったか。
確かに食材の持ち運びに余裕が出来れば、どんな状況下でも、という場面に遭遇する機会は少なくなる。
「む……これは少々独りよがりだったかの」
「あ、ううん! そんな事は無いよ!」
「選択肢の幅が増えたと思えばいいんじゃないかしら」
我とミリーが互いに謝り合っている所を諭すようにレイニーが口を挟んだ。
「レイニー?」
困惑する我に対し、ミリーは何か得心がいったように頷く。
「……あぁ、うん。そうかも。あたしもまだまだ未熟だし、あたしが変に拘って美味しくないご飯になるのは違うよね」
「ミリーのご飯が美味しくないとは言ってないわ。あり合わせで美味しい調理が出来そうならすればいいし、そうでない時は持ち込みの食材に頼ればいい。そう思えば気楽に挑戦できるでしょう」
ある種の保険というわけか。元より、このユニオンにおける調理担当はミリーに任せている。ならばミリーが状況に応じて調理する物や手段を選ぶのは何らおかしい事ではない。
上手い具合に纏めてくれたレイニーには感謝しなければならないな。
「では、冷蔵庫の作成はこのまま進めてよいかの?」
「むしろお願いするよ!」
「美味しいものが食べられるなら歓迎しないはずがないわ」
話が纏まった所で、改めて紅茶のお代わりと共に茶菓子が用意される。
一先ずの方針が定まったので、後は雑談タイムだ。
佐倉頼善のままであれば、雑談という時間は無意味かつ無価値だと考えていただろう。
独り夢を追いかけ、最後まで孤独で散っていった。
しかし、今世は違う。暫し雑談に興じる時間を楽しくも心地よく感じている。
それは竜人となって時間に余裕が出来た事もあるだろうが、何より同じでなくとも共に夢を追いかける仲間のありがたみに気付けたお陰だろう。
今更ながらに恥じ入るばかりだが、何とも愚かしい考えだったものだ。
古今東西、アニメ・ゲーム・特撮など媒介問わず、スーパーロボットの活躍を描いた物語に友情は不可欠であったというのに。それに憧れる我が、根本を忘れていたなどと。
「そういえばさ、気になってたんだけど」
暫し物思いに耽っていた我の耳に、ミリーの声が届く。
楽しい雑談と言いつつ思考が逸れていた事をまた反省しつつ、会話に耳を傾けた。
「何かの?」
「サクラって絵、描けるんだよね」
唐突に振られたが、心当たりがないので首を横に振るしかない。
自慢ではないが今世で絵を描いた経験など一度もないし、前世でもアニメスタッフや漫画家などといった形でスーパーロボットに触れたかったわけではなく、本物のスーパーロボットに乗る事が目的だったため絵の練習など欠片もした事は無かった。
「絵心は無いぞ」
「でも設計図描いてるじゃん」
「あれは絵とは少々趣が異なるであろう」
なるほど。ミリーは誤解しているようだ。設計図はあくまで製作する物の形状や構造を記すものであって、絵とはいえない。広義の意味では同じかもしれないが、我自身が納得できていないクオリティのものを絵とは呼びたくないのだ。
「そーいう細かい話はいいの! そうじゃなくてさ、絵描けるならスーパーロボットってやつの絵も描けるでしょ?」
「あぁ……そういう事ね」
お菓子を頬張りながらレイニーがミリーの話に同意を示す。
どうやら我一人だけが理解から取り残されているようだ。
「む、レイニーはミリーの言いたい事が分かったのか?」
「私もミリーもサクラが語るスーパーロボットっていうのがよく分かってないでしょ。
でも絵で説明したらもう少し理解できるかもって事」
「そうそう! それが言いたかったの!」
ようやく合点がいく。二人とも我の夢について理解を深めようとしてくれているのか。
百聞は一見に如かずともいう。確かに我が思い描くスーパーロボットを形で表す事で二人にもロマンが伝わるかもしれない。
「だが、まだどこまで出来るかも分からぬしの」
しかし、冷静に考えると今の段階で描いたところでその何割が実現できるか。夢を詰め込むのは簡単だが、実際に形にするのは困難を極める。ある程度の妥協は仕方ないと思っているが、どこまで妥協する事になるかも分からない。
「そういうのはいいの! てか、そういうの気にして描くものじゃないでしょ!」
「サクラらしくないわね。来世に夢を持ち越す気概のある人の言葉とは思えないわ」
レイニーにいつぞやの冗談をそのまま返されてしまった。夢を語るのに妥協は必要ない、か。
「ふ、ふふ……二人の言う通りだの。では少々長くなるが……聞くがよい。そして見るがよい」
二人に促され、紙とペンを用意する。魂の籠った絵を描く事は出来ずとも、図面を記すのは得意だ。スーパーロボットを知らない二人にも分かりやすいよう描いてみよう。
そういえば、サクラ・ライゼンとして旅を始めた時にもどんなスーパーロボットを実現したいか考えた事はあった。しかし、あの時は納得できる条件付けばかりでデザイン等にまで頭が回っていなかった。
ここらで我の理想とするスーパーロボットの形を示す事は、我にとっても意味のある事となろう。
「まずは頭だな。顔の意匠については幾つかパターンがあるが、ここはマスクを採用したい。あ、目は勿論ツインアイだの。人の顔を模したパターンもスーパーロボットらしさがあるが、あれは実現するのが難しいし、マスクはかっこいいからの」
ロボットにも表情は重要だ。特に口と目の形が大きく影響する。目はバイザー型やモノアイ型などあるが、やはりスーパーロボットなら人のように二つの眼光を持つツインアイ型が望ましい。それでいて口はマスクで覆う方が強い印象が出る。この辺は好みの話でもあるが、理想なのだから好きに語らせて貰おう。
「そして忘れてはいけないのが角だ! アンテナの役割をしている事も多いの。基本の二本角にするか数を増やすか形も悩むところだが、今の所はこんな感じの派手目なのを考えておる」
角。ロボットの頭部のかっこよさを決めるチャームポイントと言っても過言ではない。
今回は太めの二本角に縦に伸びる細い角を掛け合わせた形を考えてみた。
「おっと、意匠ばかりで機能を語っておらんかった。まずツインアイからのビームは必須だの!
我の魔道具のような基本的なビームでもいいが、せっかくだから冷凍光線なり特徴をつけたいところでもある。これはまぁ、作成の目途が立つならの話だの。後、忘れてはならないのが額からの必殺ビーム! これは絶対に外せないの! 最強の必殺技にするかどうか少し迷う余地はあるが、そもそも頭部にそこまで機能を詰め込めるか分からぬからの、まずは願望として候補に上げておく事にする」
目が武器になるのはロボットならでは。これは譲れないポイントだ。
そして最強の必殺技を放つのは額か腹部がベーシックだ。少なくとも額に武器を内蔵しない選択肢はない。
「次に胴体だが、ここはコクピットも兼任するので装甲重視は確定だの。合体機構を組み込むなら、胸部にライオンか何かの顔を取り入れたいところだが、今回はそこまでは求めん。武装は腹ビームを盛り込むかどうかだが、安全面を考えればバリア機構こそ組み込みたいところだの。
あと背部は箱でよい。ここは追加ユニットが合体する可能性を考慮しておく。当然、飛行機能は追加ユニット任せだ。万能性はそこまで求めておらんからの、それくらいでよい」
合体は男のロマン。いつか造り上げたいものだが、まずは単体で稼働するスーパーロボットを造るのが先だ。その上で実用性を伴う構造にしようとすれば胴体は安全性を優先せざるを得ない。
ただし、合体は諦めるにしても合体できる可能性を用意するのは別だ。単体で空は飛べずとも、翼となる支援メカと合体して飛べるようになるというのは燃える展開だ。その為に念のため背部には余裕を持ったスペースを用意したい。
「続いては肩だの。ここはやはりかっこよさを重視してトッキトキに尖った感じがいいの。
中に武器を仕込んでもいいが、それは出来たらでよい。腕に関しては、絶対に必須なのがロケット……サンディルム卿にもつけたあれを内蔵する。指先からビームなりミサイルなり撃てれば完璧だが、構造的に耐久性と両立が難しそうだからの。まあ無理なら無理でよい。他の武装も欲しいが、まずはパンチさえ打てれば及第点だ。手持ち武器はオーソドックスに剣を考えておる。これは実体剣がいいの。その方がロマンがある」
腕はサンディルム卿につけたブースターストームナックルのようなものにするのが絶対条件。他の何を妥協してもここだけは譲れない。ただ、これだけでは些か武器の種類に心許なさが残りそうなのも事実なので手持ち武器の用意は想定しておく。
「そうだ、遠距離武装を忘れておったの。肩に背負うタイプか腰に構えるタイプか、迷う所だがやはり一撃必殺のキャノン砲はつけたいところだ。この辺は後付けする追加ユニットの一部にするのも良いと思っておる」
スーパーロボット単体での最強武器は額か腹部からの必殺ビームなのだが、追加武装となると話は別だ。大砲になる支援メカというのが理想だが、そこまでいかずとも最強の武器を後から背負ったり携えたりするのは燃える。
優先順位的には最悪妥協しても仕方ない点ではあるが一先ずは開発する前提で考えたい。
一番の理想は背部に合体する飛行ユニットと纏めて一機のグレート強化メカを造り上げる事だが、そこまで考えていては話が進まなくなるので今はこの辺で留めておく。
「最後に脚だが、ここは特別な機構は求めておらん。というか、自立と二足歩行の機能を持たせる事で精一杯となろう。万が一開発が上手くいき、構造に余裕が出来たら膝にドリルか武器の格納機能を盛り込めればいいといった所かの」
脚部は少々現実的な考えでいく。ここは理想を詰めるポイントが少ないのもあるが、ある意味で最難関の課題でもあるからだ。上半身を支えながら安定した歩行を可能にするのは難しいどころの話ではない。ここをクリアできるかどうかがスーパーロボット実現の成否を分けると言ってもいい。
「だいたいはこんなところかの。少しはスーパーロボットのかっこよさとロマンが伝わったかの?」
早足ながら全体像を描き切り、一通り語り尽くした。
満足しつつ二人の様子を眺めると、何故だか疲れ切ったように項垂れた姿が映った。
「いや、うん……えっと、ごめん。全然分かんない」
「本当にごめんなさい。理解しようとはしたんだけど……何を言ってるのか何一つ分からなかった」
しまった!
我とした事が、初心なオタクムーブをかましてしまった!
初心者に向かって早口で解説を捲し立てるなど、新規層を遠ざける最も忌むべき行為だと分かっていたはずなのに!
久し振り……前世の、それも若い頃ぶりの事ゆえに配慮を忘れてしまっていた。
これでは理解を得られないどころかただただ疲弊させてしまったのも頷ける。
こうなってしまっては、今一度改めて解説するなどもっての外。時を置く以外の正解は無い。
「う、うむ。我の方こそすまなかった。今日はこの辺にしておくとしよう」
今、互いに必要なのは時間だ。我が頭を落ち着け、二人が回復する為の時間が要る。
やらかしてしまった事を後悔しながら、次はどのように伝えたらいいかを考えつつ、その日の夜は慟哭するのだった――
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