4-14「模擬戦・報酬」
反省会もつつがなく終わろうとしていた。
あとは締めの言葉の一つもあれば解散となろう。
「話は一通り終わったかな?」
ゲイマールも同じ空気を感じていたようで、最後の確認と言わんばかりに皆へと視線を向ける。
そこに一人、挙手する者があった。
「はい!」
「ミリー? 何かあった?」
レイニーが首を傾げながら挙手した人物へと声をかける。
反省会の間、ほとんど聞く専門となっていたミリーが元気よく手を上げていた。
「アイスのおかわり欲しいでっす!」
「貴方ね……」
「ふむ。まだ幾つか残っておるな。余らせるのも勿体ないし良かろう」
思わぬ言葉にずっこけそうになる。流石のレイニーも呆れた様子で諫める言葉を口にする。
だが、念のためにと多めに用意したアイスはまだ残っている。
すぐに悪くなるものでもないが、残しておくのも少々面倒くさい。冷蔵庫のような文明の利器はないのだから。
だったらいっそここで食べ尽くしてもらうのも悪くない。色々言い訳は立てたが、結局のところ美味しく食べて貰えるのが一番という事だ。
「では、私も貰おう」
「えっ……な、なら私も……」
意外なところから賛同の声が発せられた。ゲイマールだ。厳格そうな彼が、まさかアイスのお代わりを所望するとは。
我だけでなくサランもミリーも驚く中、レイニーだけは驚きつつもそっと空の器を差し出していた。隙あらば食欲に忠実であろうとする姿勢はある意味見習いたいものだ。
いや、あるいはもしや余ったアイスを持ち帰るつもりだったのではあるまいな。
それがここで食べる流れに変わってしまった為、いっそ自分も食べようとしている――
あり得ない、と言い切れないのがこれまで見てきたレイニーへの評価だ。だが、これを口にすると面倒な事態にしかならなそうなので口を噤む事にする。
「サランさんはー?」
我よりも一歩早く平静を取り戻したミリーが、一人返答がまだのサランに声をかける。
「え……で、では頂きます」
流れに乗せられたようにサランも頷いた。せっかくなので、残ったアイスを全て振舞う事にする。トッピングも味を損ねない程度に増量サービスだ。
全員に行き届いたところで、おもむろにゲイマールが口を開いた。
「では報酬の話をしようか」
「おお、魔石を頂けるという話であったな」
そういえば肝心の報酬をまだ受け取っていなかった。危うくただ働きのまま帰る所だった。
「その通りだ。だが、君たちは私の期待を遥かに超える結果を出してくれた。
これは報酬を上乗せする必要があると考えている」
何やら予想外の方向に話が転がっている。もちろん我にとって美味しい話ではあるのだが、こちらは依頼されたままに戦っただけだ。
仮に如何様な結果になろうとも、定められた報酬を変える必要はないはずだ。
「む? 評価を高くしてくれるのは有難いが、そこまで言われるような事はしていないと思うがの」
「そんな事は無い。それに、このアイスクリームとやらも実に美味ではないか。
受け取れるものは受け取るべきだと私は思うがね」
まさかアイス美味しさに追加報酬を、などというわけではあるまい。
だが、堅物の御仁が敢えて冗談を口にしてまで贈呈してくれようというのだ。断り続けるのは失礼に当たると思い直す。
「はぁ……これ以上は無粋のようだの」
「分かってくれて助かるよ。それで、君たちは質と量どちらを重視しているのかね」
その質問の意味は、報酬の上乗せの形を選べという事だろう。質が良ければより強力な魔道具が作れる。それは確かに魅力だが、今どちらを選ぶべきかと問われれば答えは一つだ。
「……今は量だの」
「なるほど」
迷う余地はなかった。ともかく作りたいものが多い今は最低限の質が保障された魔石が一つでも多く欲しい。
我の返答に、ゲイマールは首肯すると手を叩いた。
すぐさま屋敷の方からメイドがやってくる。どうやら事前にすり合わせされていたようだ。
メイドが持ってきた箱をゲイマールが受け取ると、すぐにテーブルの上へと置かれる。
「ではこちらを受け取ってもらおう」
ゲイマールが開けた箱の中には三つの魔石が入っていた。注文した通り、三倍の量だ。
だが、おかしい。その内二つは直径約2cm弱。一般的な戦闘用魔道具の作成に支障がない大きさだった。しかし残りの一つは直径3cmを越えている。これは強力な魔道具の作成が可能なレアサイズだった。
「……我は量を選んだつもりだったが?」
「その通り。何も間違っていないな」
ゲイマールはとぼけてみせる。どうやら確信犯のようだ。こちらに選ばせたように見せて、初めから答えは一つだったわけだ。どれだけ恰好つけたいのか。
「散々無粋だの何だの言いおって。主が一番無粋ではないか」
有難い話ではあるが、謀られた事については文句の一つも言いたくなる。
それに対し、ゲイマールは大よそらしくない大笑いをしてみせた。
「ハハハ! 自覚が無いようだがサクラ殿……君はル・ロイザだけでなく我がランテも救ったのだ。であれば、その感謝を示して何がおかしい?」
ここでようやく合点がいった。なるほど、ゲイマールの真意はそこにあったのだ。
リリディア神聖国から一万の兵が攻めてきたランテを救ったのはル・ロイザでの大勝のお陰と言えなくもない。
つまり、初めから模擬戦の報酬だけでなくそちらの謝礼も払うつもりでいたのだ。
それを勿体ぶって理由をこねくり回した結果がここまでの会話だったというわけだ。
だとすれば、素直にそう言っていれば初めから分かりやすかったものを。
そう思いつつも、実際にそうなっていたならば我らは断っていただろう。我らはあくまで我らの利害の為に行動したに過ぎない、と。
それを理解しているからこそ、ゲイマールも先に我が報酬を手にする流れを用意してから白状したのだ。
一度受け取った物を突っ返すような無礼はすまいと分かったうえで。
「……全く、食えぬ御仁だの」
「誉め言葉と受け取っておこう」
結局、我はゲイマールの掌の上で踊らされていたらしい。あるいはレイニーもグルか、そうでなくとも察するぐらいはしていそうだ。
我に謀は向いていない事がよく分かる。今回は我の一人負けと認めるしかない。
これ以上居座っても敗北の味を噛み締めるだけだと察し、撤退すべく席を立とうとする。
その我より早く立ち上がる者があった。
「あの……ありがとうございました!」
サランだ。勢いよく立ち上がり、そのまま綺麗に腰を曲げてお辞儀する。
「そう畏まらずとも良いというのに……全く、本当に真面目よの」
散々礼は受けたし、過分な報酬も受け取った。これ以上は不要だと苦笑する我に、サランもまた困ったような笑みを返してくる。
「真面目かどうかは分かりませんが、それだけサクラさん達に感謝しているだけです。
今日の経験は、いつか絶対に活かしてみせます! 決して無駄にはしません!」
眩い意気込みを語るサランの真っ直ぐさが心地よい。
「嬉しい気概だの。だが、主には悪いが我は此度の経験を活かすべき事態が起こらぬ事を願うよ」
そんな真っ直ぐなサランに悪いと思いつつ、我も少々言葉遊びをさせてもらう事にした。
だが、もちろんこれは本心だ。スーパーロボットを作ろうとする我が願うのも烏滸がましいとは思うが、戦争など起こらない方がいいのだ。
「……っ! はい、是非そうしてください。僕は万が一の備えとなりますから」
サランは一層目を輝かせ、きりっとした敬礼とともに改めて誓いを立てた。
この眩しいまでの素直さは是非このまま残し続けて貰いたいところだ。
隣に佇むゲイマールも、恐らく我と同じ思いなのだろう。
子を見るような微笑ましい顔でサランを眺めていた。
魔石を求めての模擬戦だったが、それだけに留まらない良い出会いとなった。
爽やかな終わりで締まったかと思う我の目に、一人静かにアイスに舌鼓を打つレイニーの姿が映っていた――




