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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第四章『ミリー・サンディルムには切らせない』

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4-12「模擬戦・本番」

 ゲイマールとの挨拶も終わり、いよいよランテの兵士たちとの模擬戦が始まろうとしていた。


 正面に構える百人の兵士の内、一人が前に出てきた。

 無骨な鎧に身を包む青年だ。体つきはしっかりしているが、まだ顔に幼さが残っている。

 青年は我の正面に立つと、一礼して口を開いた。


「サランと申します。この度は僕たちの訓練に協力してくださりありがとうございます。

 精一杯戦わせて頂きますので、よろしくお願いいたします」


 朗らかな笑みで、とても気持ちのいい挨拶をしてくる青年だ。

 とてもリリディア神聖国の襲撃で恐慌状態に陥った者とは思えない。


「彼はランテの兵の中でも有望株でね。今回の指揮を任せてみる事にしたのだよ」


 ゲイマールから補足が入る。どうやら優秀な新人の訓練も並列しているようだ。

 それはそうか。百人が百人消極的な兵ばかりでは、戦う前から負けが決まっているようなものだ。

 むしろ、サランという青年に指揮の実戦経験を持たせる事こそゲイマールの目的なのではないかとさえ思ってしまう。


「理解した。では、主の作戦に期待させてもらうかの。先手は譲る故、好きに攻めて来るがいい」


 あくまで主体は彼らランテの兵士にある。ならば、こちらから攻めるより向こうから攻め入る方が良いだろう。それで最低でも一度は強者に立ち向かう形を作れるはずだ。


「では、お言葉に甘えさせて頂きます」


 サランは一歩身を引き、礼をして他の兵士たちの元へと走り出した。

 我は安穏とサランと他の兵達を見守る。

 先手は譲ったが、だからといって無防備に遊ぶ気はない。その動きを見定め、対応くらいはさせてもらう。

 我が、そしてゲイマールらが見守る中でサランは一つ大きく深呼吸すると、威勢良く声を発した。


「散開! サクラ殿を囲め!」


 我の眼前に集っていた兵士たちが、左右に回り込むように走り出す。どうやらこちらを取り囲む算段のようだ。

 まだ攻撃は始まっていない。約束した手前、我は態勢を整えつつ沈黙を保つ。


 兵士の動きはまばらだった。手早く動く者がいる一方、位置取りに迷う者もいる。

 これが実戦であれば、我はとうに逃走しているか先手を奪っているところだ。

 もたついている事はサランも理解しているのか、すぐに叱咤が飛ぶ。


「グズグズしない! 実戦じゃ敵は待ってくれないぞ!」


 サランの叱咤からややあって、隙間なく百人の兵士が我の周囲に円を描いた。

 準備が完了したことを確認すると、サランは剣を真っ直ぐ我へと向ける。


「魔法攻撃開始! 頭を狙え!」


 全方位からの魔法による集中攻撃が開始された。

 属性は様々だが、水や氷の魔法攻撃が多い。これは我が赤色に適正を持つ故の判断だろう。竜の鱗は強靭ゆえ、一撃一撃に大したダメージではないが、百人分の猛攻を一度に受けるとなると流石に狼狽える。

 それにただ黙って攻撃を受け続けるだけでは面白くない。反撃に出るのもいいが、ひとまず一時退避しようと翼を広げる。


「飛ばすな! 緑色適正者は雷を落とせ!」


 すかさずサランの命令が怒声となって周囲に広がる。

 命令の伝播に伴い一部兵士からの攻撃が落雷魔法へと変わった。上空から降り注ぐ雷の雨に動きが牽制される。

 無視して飛び上がろうと思えば飛び上がれたが、敢えて向こうの思惑に乗っかる事にした。

 というか、空に逃げた所で反撃が出来ないので逃れるうまみが少ないのだ。こういう時、ブレスが使えない不便が前に出てくる。

 どうせなら攻撃に耐えられている内に反撃に回った方がいい。


 こちらが飛び立つのをやめるや否や、サランは力強く一歩前に出て剣を振り上げた。


「抜刀! 僕に続けぇっ!!」

「うおおおおおおお!!」


 サランの咆哮に周りの兵士たちが呼応する。サランを筆頭に突撃を敢行してきた。

 勢いは良し。

 だが、相手が見えていないのは頂けない。この場合の相手とはもちろん我の事だ。

 飛ぶことが出来ない程の猛攻で動きが抑えられている、と都合よく認識してしまったのがサランの最大の落ち度だ。


 ランテの兵士たちが我の周囲、尾っぽの攻撃範囲に収まった所を見計らい、地面を叩いて勢いをつけて振りかぶる。


「三時方向! 回避!」


 サランの指示が飛ぶも、一歩遅い。

 尾っぽで地面ごと削り取るように兵士の一塊を薙ぎ払う。十数人の体躯が宙を舞った。大半は受け身も取れず地面に叩きつけられるように墜ちる。

 その様子を見たサランは舌打ちしていた。


「ちぃっ! 負傷者を退避させろ! 援護急げ!」


 そういえば、サランの口調が徐々に荒々しくなっている。良くも悪くも状況に感化されているようだ。

 真剣になっているという点は良い。時には強い言葉も必要になろう。

 だが、評価できるのはそれを制御して使えているのなら、だ。もし感情に支配されているのであればマイナスだ。


 一方で、他の兵士の動きは急激に鈍くなっていた。サランの命令もあまり効果を成していない。

 一撃でやられる味方に恐怖を覚えたか。元々精神面が弱いとされる者達だ。そうなってもおかしくはない。


 だが、だからといって次の手を緩める事は無い。サランのいる正面を見据え、飛び掛かる為にぐっと足に力を籠める。敢えて分かりやすく大きな動作を伴って。

 その意味に気付いたサランが防御の姿勢を取りながら大声を張り上げる。


「突撃くるぞ! 散れぇぇっ!」


 どうやら狙われている事を悟ったサラン自身は、避けきれないと踏んだのか耐えようとしているようだ。

 味方を巻き込まないようにしようという意気は良し。しかし、その判断自体は悪手と言わざるを得ない。


 サランの周囲の者たちが退避するのを待つ理由もないので、全力で突撃する。

 ただし、サランと衝突する直前、我は大きく回転し尾っぽで横から殴りにかかった。


「――なぁっ!?」


 退避が完了していなかった者も纏めてぶっ飛ばす。サランも防御こそ間に合っていたが、我の一撃には耐えられず他の者達と共に弾かれていた。

 吹き飛んだ九割の兵士はそのまま地に伏す。

 ただ一人残ったのはサランだ。完全に倒れるまではいかず、剣を突き立て立ち尽くす。眼光は未だ鋭く、戦意は欠片も落ちていなかった。


「ま、まだだ。態勢を整えろ!」


 鋭く貫くように命令が辺りに響く。

 しかし、それはあまりに空虚だった。


「威勢の良さは認めよう。だが、その判断は正解かの?」


 周囲を見やるよう勧める。サランを除く兵達は、倒れ伏すか怯えて動けなくなっていた。

 辛うじて逃げ出さずにいるだけマシと取るか、逃げ出す事さえ出来なくなっているのか。

 いずれにせよ、既に戦う気概が無くなっている事は明白だった。


「……え、あ」


 周囲へと目を向けたサランの表情に絶望の色が灯る。ようやく彼も状況が理解できたようだ。


「相手が死力を尽くして倒さねばならぬ存在であれば、それもよい。だが、今はどうかの?」


 果たしてこのまま戦い続けるのが正解か否か。いや、それ以前に戦える状態にあるのか問いかける。

 我の言葉に、サランは握りしめていた剣を下ろし、まるでそのまま前に倒れ込むかと錯覚するほど力なく頭を下げた。


「僕らの……負けです」


 決着はついた。我が受けた攻撃は数百回。それに比べ、我の攻撃は尾っぽによるたった二回の薙ぎ払いだけだ。それで勝敗がついてしまうほど、強力な肉体を持つのが竜だ。

 だが、もしこれが数千回の攻撃であったなら。あるいは的確に弱点を突けていたならば、結果は違っていただろう。竜とは基本的に孤高であり、数は力だからだ。


 尤も、そんな自然の摂理に反する者も世の中には少なからず存在するのだが。

 我の脳裏に浮かぶのは、つい先日旅立ったル・ロイザの元領主。仮に全力を出して戦ったとしても、よくて互角か相打ちか。少なくとも勝てるビジョンが浮かばない程には恐ろしい人物だった。それは我が贈った魔道具のお陰もあるのだが、仮にそうでなくても両の腕が揃っていたなら結果は同じだろう。


「では、この後は反省会かの」


 いつまでも強者の風格を漂わせるのは趣味ではない。相手を見下ろすのを好むでもない。

 少し頭の中で念じると、すぐに我の身体は人間の姿へと戻った。

 竜化に比べ随分と簡単に戻れることに、やはり我の主体は人間なのだと確信しつつ。

 正面で項垂れるサランとの反省会へと洒落込むのだった――

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