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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第四章『ミリー・サンディルムには切らせない』

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4-6「ランテ」

 冒険二日目。

 然したるイベントがあるわけでもなく、昼過ぎにはランテに辿り着いていた。

 順調すぎて特筆すべきものが何もなさすぎる道程となっていた。道中に


 ビームライフルが完成するまで、ミリーは自衛に専念してもらう手筈となった。

 道中ではホワイトウルフなどの魔物に遭遇したが、我の斧捌きとレイニーの魔法で対応して事なきを得た。その間、ミリーは暇を持て余していたのか少々不満げだったのはご愛敬だろう。


 ランテはル・ロイザに比べれば当然小さくはあったが、それでも城壁のある立派な都市だった。

 リステと並んでル・ロイザの両端を守る役目があるのだからそれなりの防衛機能があるのも当然か。


 城壁内への入り口では検閲が敷かれていたが、街に入るのに時間はかからなかった。

 こちらはサンディルム卿の娘と元右腕がいるのだ。付近の街の門番が二人の顔を知らないはずもなく、その同行者という事で我も全く警戒される事はなかった。


 ランテですべき事は幾つかある。最優先はミリーのビームライフル製作だが、余裕があれば他にも魔道具を幾つか揃えたい。

 それから旅程の確認と、物資の補充。魔道具製作の間は冒険者として資金稼ぎをするのもいいだろう。


 我らは集合場所を決め、一度解散する事にした。

 レイニーは冒険者ギルドに顔出しついでに依頼の確認、ミリーは宿の確保、そして我は鍛冶屋を探すためにだ。


 職人街に赴く前に、魔道具屋を目指す。理由は単純。魔道具の製作を担っている鍛冶屋について訊ねる為だ。一口に鍛冶屋と言っても得意とする物は異なる。小さな町なら一つの鍛冶場が全てを担うのだろうが、ランテくらいの規模になれば一軒ではとても手が回らない。幾つかの鍛冶場が存在しているはずであり、それならば適切な鍛冶屋を探すのは当然と言えよう。


 ちなみに、ル・ロイザに居た頃はそもそもそんな事情を知らなかったし、本格的な製作に至った頃はレイニーに任せっきりになっていた。

 魔道具として詠唱文を刻み込みやすく、且つ構造としても不備の無い物の製作を我が直接依頼するのは今回が初だった。


 というわけで魔道具屋に入り開口一番鍛冶屋について訊ねてみるも、店主から思いっきり嫌味な目線を投げつけられた。

 冷静に考えれば当然か。客でもない見ず知らずの相手に得意先を教えるわけも無し。ましてや自分の店に影響が出るかもしれない相手を紹介してくれるはずもなかった。



 ――ここまでが我のランテにおける失敗譚である。

 それから気を取り直し、自らの足で鍛冶屋を巡る事にした。

 道行く街人に場所を訊きながら数軒訪ね歩き、一つの鍛冶屋に狙いを絞る。


 そこを選んだ理由。一つは通行人の評判だ。オーダーメイドを頼むならどこかと訪ねて何度か名前が挙がった。

 二つ目は実際に赴いて、店先に並ぶ商品の数々の精度に惚れ惚れしたからだ。

 やはり技術力の高さは何に置いても優先される。


 そういうわけで、早速鍛冶屋『トムソン』の門扉を叩き中へと入った。


「……らっしゃい」


 こじんまりとした店内ながら、飾られている武具の数々に目が惹かれる。作りの丁寧さが一目で分かり、ここは当たりだと全身の感覚が告げていた。


 中にいたのは極端に背の低い恰幅のいい髭もじゃの男。理人の一種、ドワーフの者だろう。他に人気がない事から彼がトムソンだと推測された。


「店主殿かの。突然ですまぬが、オーダーメイドの発注をしたいのだが引き受けてくれるかの」

「トムソンだ。引き受けるかどうかはお前さんの要望と予算を聞いてからだな」


 ぶっきらぼうではあるが相手を侮っている様子は無い。

 初対面の客を無下にせず、キチンと確認を取る。これだけでも期待値は高まると言うものだ。


「安心するがよい。どちらも満足させてみせよう。まずはこいつを見て貰いたい」

「仕様書か……どれ」


 トムソンは我から書類の束を受け取ると、その内容を吟味し始めた。その表情が少しずつ険しい物へと変わっていく。


「お前さん、こいつは何だ? 魔道具の器のようだが……どう使うのかサッパリ分からねぇ」


 バサリと紙を机に散らばらせて眉間に力を込めて問いかけてくる。

 トムソンに渡した仕様書に魔道具としての根幹は記載していない。この世界には無い技術故、万が一の流出を恐れてのものだ。それでも魔石を組み込む部分もあって魔道具に用いる事は理解されたらしい。


「我のオリジナル……というと少々語弊があるが、作ってみたいのだ」


 なんと説明したものか。ビームライフルは決して我が考えた武器ではない。それでもこの世界で疑似的に再現しようと書き上げた設計図は我のものだ。これをどう表すのが正しいのか、何とも難しい問題だ。


「かなり要求が細けぇな」


 机上の設計図に目を落としながら、トムソンは呟く。それはどこか興味をひかれているように見えた。


「出来るか?」

「技術的に可能かで言えば出来る。だが、正直気は乗らん」


 しかし、我の期待に反してトムソンの答えは芳しいものではなかった。

 我の要望を受けるか否かを決めるのはトムソンだ。このままでは拒否されるのは目に見えていた。

 だが、まだ完全に拒否されたわけではない。挽回の目はあるはずだ。


「ふむ。理由を聞いても良いかの」

「最初に言った通りだ。どう使うのか分からんものを作るってのはぞっとしねぇ」


 トムソンが語るのは物造りを担う者の責任感から来る恐れ。万が一にも悪用されるような品物を作るわけにはいかないという義侠心があるのだ。

 しかし、それ程高潔な魂を持つ鍛冶師であるなら尚の事頼みたくなるのが依頼者としての我の心情というものだ。


「ふむ、その言い分は我にも分かる。

 では、魔道具が完成したら主にも結果を披露するというのはどうだ?

 その時に我に譲渡するかを決めればよい。無論、どちらにしても製作費は払おう」


 最早トムソン以外の者に依頼をしようという気は失せた。全力をもって彼を説得しようと言葉を尽くす。随分と不利な条件を提示したが、それでも惜しくは無かった。


 トムソンは暫しの間、設計図を眺めながら思考を巡らせているようだった。やがて、その目が我の方へと向いたかと思うとその口が開かれる。


「これほど精密な設計図を書くなら、相応の自信があるんだろう。

 お前さんがどんな物を作ろうとしてるのかそれなりに興味も出てきたな」


 我の設計図がただの願望や妄想から描かれたものであれば、トムソンはそれを察知し依頼を拒否していただろう。

 だが、我には確信がある。どうすれば魔道具として完成させられるか答えが明確に見えている。



「よし、分かった。ただし、料金は高くなるぞ? 大金貨二枚。交渉も無しだ」

「なんだ、脅すようなことを言うから如何ほどのものかと思えば随分と良心的な価格だの」


 大金貨二枚つまり200万マリー。

 一般の武器……剣や槍を買うとなると品質にもよるが数万から数十万程度で事足りる。

 それに比べれば確かに破格に思えるが、こちらが要求しているのはより精密で細かい部品の数々。しかも普段作っているものとは大幅に異なるものだ。《バトルハルバード》の時より更に高い精度を要求している以上、値段が高くなるのは当然と言える。


「この金額で動じねぇのか。面白ぇ」

「ぼったくるでもなく不当に価値を下げるでもなく、適正な金額を提示されて驚く謂れがあるものか。

 我を驚かしたかったなら0を一つ足すか引くかぐらいはしてもらいたいの」


 まぁ、そうなったら文句の一つも返してやるところだったが。

 何となく勝ち誇る我に、トムソンは両手を上げた。


「降参だ。契約書を用意するから待っとれ」


 そう言いながら店の奥へと消える。

 ひとまずこれで今日の我の目的は成った。

 残る問題はビームライフルに用いる魔石の確保だけだ。上手い事魔石を得られそうな依頼をレイニーが見つけてくれていると良いのだが。

 もしくは店で売っているのを期待するか。

 どちらにせよ、数日はランテに滞在する事になる。

 その間に何をするべきか、何が出来るのか。そんな事を考えながらトムソンが戻ってくるのを待つのだった――

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