4-5「反省会」
反省会という言葉で空気が冷え上がった中、針の筵状態のミリーが恐る恐ると言った様子で口を開く。
「お、お手柔らかにお願いします」
先ほどまでの朗らかな笑顔から一転して血の気が引いていた。
だが、我もレイニーもそこまで震えあがらせるような話をするつもりはない。
ひとまず落ち着かせるべく声をかける。
「不安は分かるが、そう構えずともよい」
「ええ。問題が分かっているなら十分よ」
反省会という言葉に臆してしまったようだが、決してミリーを問い詰めたいわけではない。
ただ、現状の理解と問題点の改善は必要だというだけだ。一つの油断が命の危機につながるのだから。
「う……やっぱり、あたしも剣を使った方がいいかな?」
ミリーも自分なりに考えていた様子だった。だからこそ、必要以上に怯えていたのかもしれない。自分で願ったルールを曲げなければいけなくなったと思い込んでしまったのだ。
「弓は当分使わない方がいいとは思うけど」
「うむ。だからといって剣を使えとは言わぬよ。主の希望を否定するのはユニオンの理念に反しよう」
レイニーの言葉を継いでミリーを宥める。
我らがユニオンを結成したのは、互いの夢を叶える為だ。最優先がそこにある以上、夢に至る為の拘りを無下にする事は絶対に無い。
「自衛は徒手空拳でも何とかなっているのが幸いね。しばらくはそれで様子見かしら」
レイニーは現状の分析を行っていた。ミリーの身体能力ならブラッドラビット程度なら蹴り飛ばせる。ミリーには自衛に専念してもらい、我とレイニーが率先して戦闘を引き受ける。
確かにこの案が現状から見る最も妥当な落としどころと言えるだろう。
ただし、それでミリーが納得するかは別だ。武器を自前で用意していた事から見ても、守られるだけの身に甘んじたいわけではあるまい。目指す地点が母親という事から、戦いも出来る流浪の料理人がミリーにとっての最終的な目標だろう。
ならば、自衛ではない戦いの手段を模索すべきだ。でなければユニオンの仲間とは言えまい。
「そういえば、ミリーは魔法は使えないのであったか」
出立前に聞いた話を思い出す。得意不得意はあれど、魔法が使えないとは珍しい。
他ならぬ我自身がその珍しい代表みたいなものだが、我の場合は転生が原因だろうから事情が異なる。
一般的に人間族は一つか二つの色に適性がある事が多く、特色魔法の適性が出る確率が全種族の中で最も高いと言われている。
一つも適性が無いのは相当に珍しいと思うのだが、何か理由があるのか。万が一、魔力が足りないという話であれば我の考えていた解決案は披露できなくなってしまう。
些か答え難い事を聞いてしまったかとも思ったが、ミリーはあっけらかんと口を開いた。
「うん。無色魔法はさすがに問題ないけど、色付きの才能はからっきし。パパよりママの才能を受け継いだみたいだから」
「……うん?」
物言いからして、ミリーは魔法が使えない理由を自覚している様子だった。
しかし、母親からの遺伝故に使えないとはどういう理屈か。
首を傾げている我に、ミリーは何か合点がいったように頷いた。
「あ、サクラは知らなかったっけ? あたしのママ、獣人なの」
「なんと」
つまり人間族と獣人族のハーフか。
獣人族は無色魔法……つまり《心》と《身》の強化に長ける反面、各色の適性はあって一つという者がほとんどだという。ミリーもその特性を引き継いだというわけだ。
「あたしは人間ベースで産まれたから、知らない人は全然気付かないんだよね。ほら、獣人化もちょっとだけ出来るよ」
話を続けるミリーの耳が特徴的な獣人の物へと変わっていく。合わせて尻尾も生えてきていた。雰囲気的には狐のそれに似ている。
亜人種が人化すると、元となった種族の特徴が残る。獣人の場合は、耳や尻尾がそのままになる事が多いが、逆の場合は特徴部分のみが変化するらしい。
「ほうほう。つまり魔力量に問題があるわけではないのだな」
ふさふさの尻尾を見て、少しばかりモフりたい欲が湧いたのは内緒にしておく。
あくまで主題はミリーの魔力量に関してだ。
「人並みの冒険者以上にはあるはずだよ」
「では、我の方から解決案を提示したい。これだ」
先ほどまで仕上げていた設計図を提示する。
出した瞬間、レイニーの額に青筋が浮かぶのが見えた。
「また増えるの……今いくつ並行してるか分かってる?」
「ま、待て。確かに数は多いだろうが、急ぎで頼んでいるものはなかったであろう」
今のところ、手渡している設計図は確か五作か六作ほどだったはず。
作る側からしたら仕事が増え続けて溜まったものではないのは理解できなくもない。
だが、今渡しているのはほとんどが家事用の魔道具。残る一部は実際に起動するか不明確な武器の試作だ。開発はレイニーの都合優先でいいと伝えてある。
とはいえ、今のペースで増え続けていくのではと危惧されているのかもしれない。
「ていうか、難しくて何書いてあるのか全っ然わかんない」
我がレイニーからの苦情を聞いている横で、ミリーは設計図を眺めていたが、脳みそに限界が来たのか後ろに倒れかかるように脱力していた。お手上げのポーズらしい。
代わりにレイニーが設計図を手に取り、紙面に目を滑らせていく。
「……詠唱文を見る限り、目からビームの改良型?」
流石はレイニー。軽く読んだだけで大よその全体像を把握したようだ。
構造的に目からビームとほぼ同じだからこそ、内容から察せたのだろう。
今回、提示したのはいわゆる標準的なビームライフルだ。
銃の形態をどうするかは迷ったが、まずは一般的なシングルショットライフルをモチーフにしたものを設計してみた。一発撃つごとに充填……この場合は魔力の供給が必要となる銃だ。
理由としては、照準器がついているとはいえミリーの射撃にまだ不安がある事が一つ。下手に連射性の高いサブマシンガンやショットガンだと誤射が危ぶまれると踏んだのだ。少なくとも銃に慣れる為のワンクッションは必要だろうと考えた。
もう一つ、燃費の問題もあった。連射性の付加や散弾を用いると必要な魔力も増加する。
ミリーが魔法を使えないと言う話を聞いていた時点で、魔力量が低めな事も想定して設計したのも理由だ。
「というか、武器としての形態はこちらが基本だの。弓矢のように手持ちで撃つ武器だ。
簡素だが照準器付き故、適切に使えば命中率は格段に上がる」
想定している照準器はアイアンサイト。レンズを用いない簡素なものだ。
高精度な照準器は動力源が必要となる。後付けは可能だが、こちらも電力の代わりに魔力を使用する想定となる為、必要性が出てきたら検討する方向で考えている。
照準器の有無を差し引いても、弓矢から銃に変えるメリットは大きい。
弓矢が武器として劣っているとは思っていない。銃には出来ない曲射や、火矢など特殊な攻撃が撃てる利点もある。
だが、明確なデメリットも存在する。まず何より弓を引くには技術が要る。その点、銃ならトリガーを引くだけでいい。つまり照準に集中できる。今のミリーには何より大切な事のはずだ。
「まぁ、そんな目から光線が出る変なものじゃなければ……いいかな」
変な物呼ばわりされるのは心外だが、ここはぐっと飲み込んでおく。ひとまずミリーに拒否されなければよい。
対してレイニーは設計図を詳細に読み込んでいるところだった。
「詠唱文の刻印はするけど、本体は鍛冶屋に頼まないと無理よ」
当然の事だ。そもそも他の魔道具を製造するにしても、鍛冶屋の存在は絶対だ。
今、旅路の間にしてもらっているのはそういうガワの作成ではなく、根幹となる部分の刻印だ。その為に詠唱文の刻印が必要なところだけ事前に幾つか用意してから旅立った。あとは旅先でガワと魔石を用意すればすぐに使えるようにする、というのが旅路でのレイニーに期待する仕事なのだ。
「ランテに良い鍛冶師がいるといいのだがの」
ル・ロイザにいたガゼットは実にいい腕の鍛冶師だった。
多少の文句はあれど、見慣れぬであろう発注書にも完璧に対応してくれていた。
ガゼットと同じとまでは言わずとも、こちらの要望を聞いてくれる鍛冶師がいなくては魔道具の開発は進まない。
期待と不安を抱きながら、我らの反省会は一先ずの終わりを告げるのだった――




