4-3「ユニオン」
旅路に向けての話し合いは続く。
「では次に、目的地についてですが」
「え、どこ行くか決めてないの?」
呆れたようにミリーが首を傾げる。だが想定外に時期が早まったのだから多少は許してほしいところだ。何せ我は、まだこの辺の地理にすら明るくないのだ。
「そういうミリーに希望は無いのかの?」
なのでひとまずの目的地を選ぶのは我でなくてもよい。案があるなら参考にしたいとミリーの意見も募る事にする。
「あたしは別にどこでもいーよ」
「私も当てがあるものでもないですし、サクラはどうなんです?」
だが、二人にも当てはないらしい。考えてみれば当然か。レイニーの夢は手掛かりがあるかも分からず、ミリーの夢はどこへ行こうと叶えられるもの。
ならばやはり、我が行き先を決めるしかないらしい。
「うーむ、場所というより物で考えたいの。先ほども言ったが、スーパーロボットの開発には大量の資材だけでなく広大なスペースも必要であるし、その為には潤沢な資金も要る。
場合によっては素材自体の開発も行わねばならぬだろうし、特殊な素材の採取も検討すべきだの」
スーパーロボットの開発に必要な過程を一つ一つ考えてみる。口にしてみると足りない物だらけ、工程が実に多い。
「……その中で急務と言えるのは?」
「難しい所であるが、資金とスペースの確保が優先かの」
優先順位が無ければ判断に迷うままと暗に言われる。どれも重要な事に変わりはないが、敢えて絞るとすれば、優先すべきはそれだろう。金があれば資材は自力で集めるだけでなく、買うという選択肢が得られる。そして資材を買ったとしても置き場に困っては意味が無いし、作るとなればロボット以上の大きさの場所が必要となる。土地を買うにせよ、巨大なマジックハウスを作るにせよ、金はあって困る事は無い。
巨大なマジックハウスを作るなら高品質で巨大な魔石が必要となる。逆に言えば、それさえ満たせば開発の目途は立つ。
あとはどちらの希望を叶える事が容易いかの問題だ。
「そうなると高い報酬を得られる依頼がある場所か、高品質の魔石の回収が見込める場所ですね」
レイニーは逸早く我の希望を理解し、それが叶う目的地を考え始めてくれたようだった。
「魔石が欲しいならダンジョンでしょ。そこらの魔石で満足できないなら未踏破しかなくない?」
「……該当する場所となると、リ・マルタの近くにあるという『地獄への路』でしょうか」
「なかなか物騒な名前のダンジョンだの」
ミリーも大よそ理解したのか手を上げて意見を述べる。それを受けてレイニーが提案した場所は、危険な香り漂う名前だった。
「昔は別の名前があったようですが、あまりに踏破できずにそう呼ばれるようになったとか」
「……ちょっと初めての冒険にしては難易度エグくない?」
ミリーが引くほどの高難易度ダンジョンらしい。
だが、誰も踏破できないという事はそれだけ強力な魔物がいるのだろう。質のいい魔石の確保にも期待が持てる。
「そこらは行ってみなければ分からんだろう。他に当てがあるでもなし。最初の目的地はそこで決定だの」
「うげ。本気? ねぇ、レイニーさん、この人大丈夫なの?」
即決する我に、ミリーは本気でドン引いている様子だった。
実際、我自身無茶を言っている自覚はある。だが、そうであっても客観的に見て我とレイニーの戦力は相当な上澄みだ。攻略の可能性が無いとは思えなかった。
「まともではないですね」
「酷い言い草だの」
しかしレイニーも我の味方をしてはくれなかった。
まあ全く拒否されていないだけ良しとしよう。
「えっと、確認するけどあたしにパパみたいな戦力求めないでね?」
サンディルム卿のような戦力を期待されていると誤解したようで、ミリーが慌てふためく。
「それはそうであろう。というか、ミリーは戦えるのか?」
当然ながら、我はそんな誤解をするほど愚かではない。そこまでの強さがあったならまずリーベンに捕らわれたりしないだろう。
もっとも、旅に出たいと言うぐらいだから最低限自衛できる程度の心得はあると期待はしている。
「魔法は全然だけど、多少は戦えるかな。一応冒険者ランクはC取ってるし。あ、でも出来れば剣は使いたくない」
ミリーは申し訳なさそうに手を合わせていた。
「剣以外の武器が使えるとは初耳ですね」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
レイニーとの話を聞く限り、どうやら元々は剣技を主流にしていたようだ。
にも関わらず得意な武器を手放したいとは、どういう意図があるのだろうか。
「何か事情があるのかの?」
「料理人になるなら、切るのは食材だけにしたいなって」
つまり、夢を追うと決めた時点で生まれた拘りか。
「そういう拘りならば、応援せざるを得んな」
「だとしても、戦えないのは問題です」
レイニーの言い分にも一理ある。自衛も出来ないとあっては旅に連れて行くのは難しい。
何かちょうどいい武器はないかと考えを巡らせようとしたところで、我の手に触れるものがあった。
「ならば我の目からビームを使うか!?」
浮かんだ名案を早速、声に出してみる。
これならば遠距離から攻撃できて安全だし、敵を切る武器でもない。しかも使い方もとても簡単、まさに最適解ではないだろうか。
手放すのは少々惜しいが、我にはバトルハルバードもあるので問題は無い。
だがしかし、我の名案にミリーはあからさまに嫌がる素振りを見せた。
「ええ……それは勘弁して」
「な、何故だ」
「だって目の傍から光線が出るって意味わかんないし。眩しそうだし、敵が見えなくなるの怖いし、シンプルにかっこよくないし」
ミリーの語る理由の一つ一つが我の心の臓を穿つ。
「ぐふっ」
心に致命傷を受け、我は椅子ごと真後ろにぶっ倒れた。
「ミリー!」
「うわ……その、ごめんなさい? ちょっと言い過ぎたかも」
慌てた様子でレイニーが声を上げ、ミリーも想定外の状況に困惑した様子で謝罪を述べる。
その状況を起こした張本人たる我は、震える足で何とか立ち上がり椅子を戻すとともに着座した。
大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
大丈夫。我は冷静だ。この程度何ともない。
「い、いや良いのだ……スーパーロボットの美学を我が体現できていないだけの事。
我はあくまで真似をしているに過ぎぬからの」
ミリーが語った内容にも一理ある。機能美という観点から見れば、目元からビームを発射するのは明らかな欠点と言えるだろう。
だが、それは我が使うからであって、ロボットの兵器として見れば斯様な欠点は存在しなくなる。
スーパーロボットにおける目とはあくまで意匠。センサーの役割を果たすものもあれば、ビームを放つ発射口としての機能を優先している場合もある。決して人体と同じ構造・役割は求められていないのだ。
故に、我のような人が形だけ真似しても、ミリーの言うような欠点が噴出する。
そこに不満を見出すのは全くおかしい話ではない。
そうだ。
シンプルにかっこ悪いなどという発言以外は全て真っ当な意見なのだ。それも個人の好みの話。
だから我がダメージを受ける謂れは無い。そう、全く無いのだ。
「まぁ、サクラが良いならひとまず話を戻すとして、結局どうします?」
我が自分自身を納得させている間、レイニーは話を進めるべく我を放ってミリーと話し出した。
ミリーはおずおずと恥ずかしそうに口を開く。
「実は弓矢を買ってみたんだけど」
ミリーなりに考えていたようだ。
しかし、レイニーはすぐに苦言を呈す。
「素人が弓矢はかなり難しいと思いますが」
「ダメな時は体術で何とかするから。護衛してなんて言うつもりないし」
「はぁ……ひとまずはそれで納得しておく事にしましょうか」
剣術に覚えがあるという事は、体術もそれなりには使えるのだろう。
ミリーなりに考えもあるという事が分かったせいか、レイニーはしぶしぶながら頷いていた。
「他に決める事はあったかの?」
ようやく我もダメージから立ち直ってきたので会話に加わる。
とはいえ、話すべき事柄はほぼほぼ終わったように思うので最後の確認のつもりだった。
それに対しレイニーは意味深に口元に手を当て、口を開く。
「一番大事な事が残ってますよ」
「え、何かあったっけ?」
「これから私達はユニオンを結成します。その名前です」
ユニオン。それは冒険者による同盟だ。冒険者ギルドに登録する事で正式に一つの集団として認められる。ユニオンに属する事で、そのメンバーがどこで何をしようとユニオン全体の評価として扱われるのだ。一時的な集まりでしかないパーティと異なり、ユニオンはより強固な繋がりと言えよう。
その利点は、評価や知名度の上げやすさ、ひいては依頼の受けやすさや信頼にも関わってくる。ただし、当然ながらそれはデメリットにもなり得る。誰かの悪評が全体に響く可能性も孕んでいるのだ。
故に、ユニオンへの加入は慎重になる必要があるとされている。
ちなみに、冒険者ギルドに登録しない固定パーティはチームと称される。まだお互いを知らない内はチームとして活動し、慣れてきたらユニオンへと移行するのが一般的らしい。
今回の我らの場合も、本来であればチームから始めるのが筋と言える。だが、ユニオンの登録を決めたのはレイニーだった。
敢えてチームを飛び越えユニオンとする事で結束を強めようという事なのだろう。
我に反論する理由も意思もなく、レイニーの発案に委ねる事にしていた。
「そっか。そういう事になるんだ」
ミリーも不満はなさそうだ。護衛対象とも言えるミリーにユニオン参加を求めていいものかとも思ったが、本人が否定しないならば歓迎しよう。
「ふむ。ユニオン名には何か規則があったりするのかの?」
我の知るユニオンと言えば《草原の導き手》ぐらいだ。
「絶対のルールはないですが、暗黙の決まりはありますね」
「知ってる。探索がメインなら《空》、戦闘メインなら《大地》、商売メインなら《海》に関する言葉を取り入れるってやつでしょ」
知らぬは我だけだったようだ。その規則に当て嵌めると、《草原の導き手》は戦闘を主体としたユニオンだったらしい。確かに魔竜討伐を請け負うくらいだからそれも当然か。
「えぇ。私達は探索がメインとなるでしょうし、空に関する単語を入れておく方が無難ですね」
「ふむ。《サクラと愉快な仲間達》とはいかぬか」
「は? ……別に名前決めたいとか言わないけど、流石にそれは却下するよ」
「ツッコまれるところまで含めての様式美だの。本気でないから気にせんでくれ」
「もー、どこの様式美なんだか」
分からないなりに完璧な流れを作ってくれたミリーに大満足する。
様式美を理解されなかったのは惜しいが、そこはもう前世由来の話ゆえ仕方あるまい。
「このユニオンのリーダーはサクラでしょうし、私もお任せします」
レイニーも命名権は放棄するつもりらしい。
それにさらっと我がリーダーに仕立て上げられた。まあ、客観的に見ても我が先頭に立っているのは事実。甘んじて引き受けよう。
さて、ユニオン名。
如何な名前が良いだろうかと頭の中で幾つか単語を羅列していく。
「……《蒼穹の夢狩人》というのはどうかの」
思い至ったのがそれだった。
三人ともに夢を追う夢追い人というのも考えたが、追うだけではなく食らいつくほどでなければ叶わない。であれば、夢を狩りとる者であるべきだという発想だ。
「そのまんまだね」
「分かりやすいですし、悪くはないかと」
「主ら……割と辛口だの」
割と真面目に渾身の出来だと思っていたのだが、二人には及第点ぐらいの扱いを受けてしまった。
まぁ、拒絶されたわけではないので良しとしよう。
「では、冒険者ギルドに向かいましょうか」
早速登録に向かおうとレイニーが立ち上がろうとする。
その動作を我は手で制した。
話はまだ終わっていない。
「その前に一つ良いかの」
「なんでしょう?」
「レイニー、我らはこれから一蓮托生の身だな?」
「まぁ……そうなりますね」
ユニオンの結成は、つまりそういう事だ。
いずれ抜ける可能性もあるとはいえ、ひとまず互いに運命を預け合う事に違いは無い。
言い換えるならば、我らの関係性が大きく変わるわけだ。
「では、他人行儀な喋り方もやめにせぬか。我らは対等であるべきだ。
主の本来の喋り方は、そうではあるまい?」
本来のレイニーがもっとフランクな人物だという事は、端々から見受けられた。
今の堅苦しいそれは、サンディルム卿以上に職務に忠実であろうとした現れであろう。
今までが間違っていたというわけではない。だが、これからもそうあり続ける必要もない。
我の発言に、レイニーは少し間を置いて頷いた。咀嚼する時間が必要だったのかもしれない。
「……確かに、冒険者なら敬語はおかしいか。分かった、気を付ける事にし……するわ」
「わ、ちょっと不思議な感じ」
恐らくミリーも初めて見る姿なのだろう。
ぎこちなく笑顔を作るレイニーの姿は、今までよりもずっとあどけなく見えた。
「ミリー、貴方も呼び捨てでいいからね。これからは同じユニオンの冒険者なのだから」
「そ、そっか。分かった。あたしも頑張る!」
これで良し。
ユニオン《蒼穹の夢狩人》の始動として、まずまずの打ち解け具合と言えよう。
快活な出だしに、この旅路がきっと良い物となる確信を抱きながら、我らは冒険者ギルドを目指したのだった――




