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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第三章『リックドラック・サンディルムは屈さない』

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3-8「コンラッド」

「それで? 計画の進捗はどうなっているのだ?」


 その男、コンラッド・デイブスは恰幅のいい体を持て余し気味に椅子に背中を預けながら、目の前の部下を問い質していた。


「はっ。全て予定通りに進行しています。あちらも疑いを向けてはいるようですが、確証は得られていない様子です」

「疑心暗鬼に駆られているか。いいぞ、それでいい」


 部下の報告に満足げに頷く。

 ここはリリディア神聖国内、対アルディス竜帝国の最前線。トラシェッドという名の都市から北上した場所に設営された前線基地である。

 コンラッドは対アルディス竜帝国の指揮を十年以上任されている傑物である。五年前の大戦で当時のル・ロイザの大将の首を取り、最強の傭兵と謳われたリックドラックに手傷を負わせた功績は皆が認めるところだった。

 とはいえ、コンラッド自身の実力はリックドラックに及ぶべくもない。代わりにコンラッドは知略と入念な下準備で不利を有利に覆す戦いに長けていた。

 五年前、アルディス竜帝国に大きな痛手を負わせながら五年間小競り合いに留めていたのもその為だ。確実に攻め落とす為、次の策を用意する事に邁進していたのだ。

 それは決して、彼が臆病だからではない。

 リリディア神聖国は《ヒュマド》という国教の名の下に、全国民が一致団結している。

 だが、その《ヒュマド》という人間至上主義の国教のせいで他種族の強みに押し負けている側面もある。

 端的に言えば、個人の強さで比較するとリリディア神聖国は弱小国と言って差し支えないものがあった。

 コンラッドもまた、口には出さないまでもその弱みを理解している。

 それでも勝つためには知略を巡らせるしかなかったのだ。


「それにしても、いよいよですね。遂にリリディアの正義が示される時が迫っているのかと思うと、胸が震えてきます」


 部下の発言に、コンラッドは苦笑するしかなかった。

 コンラッド自身、《ヒュマド》の信者ではある。だが、目の前の部下ほどにその正当性を信じているわけではなかった。

 そしてまた、コンラッドがル・ロイザの攻略に執着するのには別の理由があった。

 それは五年前までには無かったもの。


 かつて、コンラッドは敬虔な《ヒュマド》信者の一人として、ル・ロイザの攻略に勤しんでいた。人類の頂点は人間であるという思想の下、その版図を広げるべく日々奔走していたのだ。


 だが、その考えはたった一人との出会いによって粉砕される。

 その男は、コンラッドが放った渾身の策を力だけで強引に乗り切った。

 片腕を失いながらも、生き延びて人間の……否、人の強さを見せつけてきた男の名はリックドラック・サンディルム。

 彼もまた所属は違えど同じ人間であり、ある意味で《ヒュマド》の正しさを体現していると言えなくもなかったが、そんなものは些事であると思わせるほど、豪快で、強烈で、全てを薙ぎ払うだけのパワーがあった。


 リックドラックが次代の領主となった報を受けたコンラッドは最早、如何にしてかのパワーを打ち破るかしか考えられなくなっていた。

 そう、今のコンラッドはリックドラックを倒す事にのみ執着していると言って過言ではなくなっていたのだ。

 もちろん、それを表に出す愚は犯さない。あくまで国の為に身を捧げていると周囲に振舞う事で、彼は多くの兵士からの信頼を勝ち取っていた。


 あと少しで、待ち焦がれた邂逅が叶う。

 コンラッドもまた部下と同じように胸を振るわせてはいたものの、その理由が別物である事は言うまでもなかった。

 だが、近づけば近づくほど、期待とは裏腹に不安も過ぎる。


「……他に報告事項は無いか?」

「そういえば、リックドラック・サンディルムが自室に籠っていると」

「なんだと?」


 コンラッドは事の重要性を理解していない部下を咎めるべきかと考えながら、それよりもその事実の詳細を知ることが優先と再度問い直す。


「半月ほどで収まったそうですが、その後も人前に出る機会が減ったという話です」

「理由は?」

「何でも秘密の特訓だと公言しているそうです。胡散臭いですよね」


 笑って済ませようとする部下に頭を抱えながら、コンラッドは冷静に状況を認識する。

 五年間、コンラッドがリックドラックと直接相見えた回数は一度もない。五年前の大戦において、遠目から姿を見ただけに過ぎない。

 故に、相手への理解は各所から集まってくる情報で得ただけのものしかない。

 その僅かな情報から、突然の奇行の意味を考える。


 秘密の特訓。字面にすると何ともバカバカしいものがある。しかし、元傭兵で未だに当時の感覚を持っているのならば、多少幼い考え方をするのもおかしくないかもしれない。

 だが、もし別の理由があるとすれば。

 それは何か。

 コンラッドの頭にふと、リックドラック以外の人物が浮かび上がる。

 レイニー・キャスロック。五年前の大戦にはいなかった人物ながら、今はリックドラックの片腕と称されるまでに頭角を現している女性。


「レイニー・キャスロックの動きはどうだ?」

「以前報告致しました、竜人サクラなる人物と何度も会っているそうです。

 それ以外では依然として内通者の捜索に躍起になっているようですよ」


 大きな動きは変わらないという。後手に回るしかない防衛側の最優先事項は相手の行動を把握する事にある。今はその為に全力を注いでいるという所と、コンラッドは理解した。

 それと同時に、話に出たもう一人の人物が気にかかってくる。


「竜人サクラ……か。竜人とはまた厄介だな」

「ですが、本当に竜人なんでしょうかね? 竜の姿を見た者はリックドラックとレイニー、後は一部の冒険者だけだという話ですし。正直眉唾物だと思いますがね」


 警戒を促すコンラッドに対し、部下は竜人の存在そのものを信じていない様子だった。

 これに関してはコンラッド自身、同じ気持ちを抱いている部分はあった。

 そもそも竜人が一般の人目に出る事が少ない。それこそアルディス竜帝国の竜帝以外に、他種族と協調する話は一つとして聞いたことがなかった。

 故に、あと少し時が経てば戦になるタイミングで、竜人が現れたという報告が舞い込んできて疑いを抱くのは自然であった。


「油断はするな。そいつが実在して、リックドラックの周りをうろついているのは事実なのだろう」

「お言葉ですが、魔竜討伐の功労者で即領主のお抱えになるなんて都合がよすぎますよ。

 第一、あの魔竜だって我らがどれだけ苦労してあそこに向かわせたと思ってるんです」

「都合のいい展開なのは認めるがな……可能な限り情報を集めておけ」


 アルディス竜帝国に魔竜を呼び寄せたのはコンラッドの策だった。

 元々、トラシェッドの近くに魔竜が出現したという報告を受け、退治を要請されたのが始まりだった。

 ただ退治するのではなく、餌となる獣を誘導し、アルディス竜帝国の領内に魔竜を差し向ける作戦を立案し、実行したのもコンラッドだ。多少の被害は出たものの、結果としてル・ロイザの近郊でより大きな損害を与えられた。

 最終的に魔竜は討伐されるものだと分かってはいたが、それでも十分に成功と呼べる結果となっていた。ただ一点、竜人の存在を除いては。


 故に、都合よく現れた竜人を訝る気持ちはコンラッドには痛いほど理解できた。だが、ブラフだとするにはあまりに雑。その事が逆に信憑性を高めていた。


「わ、分かりました」


 部下の了承を聞きながら、コンラッドは思考に耽る。

 得体のしれない不安が肌に纏っているような、不快感があったのだ。

 竜人の存在が真実であれば、戦況をひっくり返される可能性がある。その為には情報収集が不可欠だ。

 だがしかし。

 それでは間に合わないと何かが警鐘を鳴らしていた。竜人の存在を疑っているのではない。それが力を発揮する可能性を含めても、時を稼がせる方が危険だという予感が拭いきれないでいた。


「……それと、計画を半月早める。各部署に連絡を取れ」


 その決断が正しいのかどうか。答えに惑いながらも、口に出した時点で撤回は利かなくなる。

 それでもコンラッドは決断した。己が感覚を信じて。


「はっ? 早める? な、何故ですか」

「復唱はどうした。計画進度が予定通りなら十分可能なはずだ」


 五年もの月日を使って準備を進めてきた。今更半月ほど早めた所で揺らぐ計画ではなかった。


「それはそうかもしれませんが……」

「どうにも嫌な予感が拭えん。悠長にしている場合ではない」

「そ、それでしたらもう少し様子を見るという手もあるのでは」

「馬鹿め。ここで向こうに猶予を与えるのは愚策でしかないわ」


 コンラッドは部下を窘めながらも、そう結論付けたのはあくまで自身の勘だと自嘲する。


「……分かりました。急ぎ、伝達して参ります」

「それでいい。警戒は怠るなよ」


 部下が走り去ったのを確認し、コンラッドは椅子に深く腰を沈めた。

 賽は投げられた。最早後には引けない。五年待ち焦がれた仇敵との邂逅に、自然と全身が奮い立つのを感じながら、コンラッドはその時を想い微笑んだ――

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