2-14「魔道具試験」
「失礼するぞ」
我がレイニーの執務室に入るのもこれで何度目だろうか。
既に勝手知ったるなんとやら。
いつもの如く呼び出しを受け、いつも通りにやってきたわけだ。
キミークとの模擬戦からは半月ほどが経っていた。
変わらず、魔物退治の依頼などを定期的に引き受けながら、空いた時間は書庫の残りを読み耽ったり、沸いてくるアイディアを設計図に纏めたりなど有意義に過ごしてきた。
目の前にはいつも通りの、机越しに座って我を待ち受けるレイニーの姿。
だが、一つ違ったのはその表情だ。どことなく顔色が悪いようでいて、瞳だけはギラギラとしてこちらを睨んでいるような眼力がある。
その表情にはどこか見覚えがあった。記憶を辿る。今世ではない。前世まで遡ってようやく心当たりに辿り着いた。
これは徹夜明けの、仕事をやり遂げた達成感と疲労感がない交ぜになった時の表情だ。
「だ、大丈夫かお主?」
「平気です……少しでも早くサクラさんと話したかったので」
口調と顔色が合っていない。無理をしているのは一目瞭然だが、この状態では何を言っても無駄だろう事は想像に難くなかった。
であれば、とっとと話を終わらせるに限る。
「それで、今回の用件は?」
話を進めようと訊ねると、レイニーは机の上に小さな箱を二つ取り出した。
「頼まれていたものが完成しましたので、急ぎ連絡をと思いまして」
頼んだものと言えば答えは一つしかない。キミークとの模擬戦前に渡した魔道具の設計図。
二つ箱がある事もそれを証明している。
しかし、たった半月で何とかなる物とは思えなかったが。
「あれが完成したのか!? それは流石に無茶し過ぎであろう」
「仕事に穴は空けていません。ご心配なく」
仕事以外の余暇時間を全て使ったのではないか?
そう疑念を抱くほどのスピードだ。
急いでほしいとは頼んだが、そこまでの無茶をしろと言ったつもりはなかった。
だからこそ、嬉しさよりも先に我が身省みぬ姿勢に苛立ちを覚えてしまう。
「心配なのはお主の身体の方だ。バカものめ」
「ば、バカ?」
思わず吐いてしまった悪態も、レイニーの事を思えばこそと許容してもらいたい。
反論でもしてくるかと思ったが、何故かレイニーは一瞬呆けた後、唇を歪ませて不敵に笑った。
「ふ、ふふ……バカですか。そう言われたのは随分と久し振りです。存外悪くない物ですね」
「……本当に大丈夫か?」
「そんな事より、機能の確認をしましょう。離れにちょうどいい広間があります。さぁさぁ!」
レイニーはガタリと音を立てて椅子を弾くように立ち上がった。所作に普段の優雅さが無い。疲れと興奮とで周りが見えていなさそうだ。
だが、これは無理に止められるものでもない。それが我にはよくわかった。何故なら、同じような事は前世で何度も体験している。作り出したものがどう実を結ぶのか、その瞬間を不安に思う気持ちも焦がれる気持ちも、誰よりも我が分かっている。
最後まで付き合うしか、レイニーを止める手段はないだろう。
我はさっさと二つの箱を手に取り、レイニーを先導するように執務室から出た。
外で控えていたロノッテにレイニーの付き添いを頼む。
玄関から一度外に出て、屋敷を迂回するように後ろに回ると小さな……とはいえ一般家庭に比べたら十分に豪勢な屋敷があった。
中に入ってみるが、人気は無い。ロノッテによると以前は使われていたらしいが、レイニーが住むようになってからは放置されていたようだ。とはいえ、掃除は行われていたようで埃などは目立たなかった。
そのまま広間まで案内され、ロノッテは外に出る。
広間はこの為か、一切の家具が存在しない純然たる空間となっていた。
ただ一点、幾つか的が用意してある。藁で作られた人形を模した的から、無数の円が描かれた弓道などで使われるような的、金属の鎧を被せられた的まである。
どうやらこれを使って試してみろということらしい。
レイニーは広間に入るとすぐさま盗聴防止の魔道具を起動させた。
これもまた、相当な機密になるものだと認識されているらしい。我としてもその方がありがたい。
万が一、失敗したとしても二人だけの秘密になる。
「これで準備も万端です……ではまず魔法封じの腕輪を解除しますね」
「うむ」
今身に着けている魔法封じの腕輪は、着けた本人は外せない仕様だ。
使い道を考えれば道理なのだが、このまま使い続けるには些か不自由する。
その為、そして魔道具を使えるようにするべく設計したのが新しい魔法封じの腕輪だ。
「それで、これが魔法封じの腕輪改になります」
レイニーが箱から取り出し、手渡されたのは、今まで着けていた腕輪よりも少しばかり細工が増えた腕輪だった。
見た目は注文通りに出来ている。
我ながら素晴らしいネーミングだ。やはり既存の物を改造したならば、シンプルに『改』。これが最強よな。
おっと自画自賛している場合ではなかった。
一先ず、装着してみる。
相変わらず着けた前後で魔力の動きがどうなっているか、自身では判別つかない。
魔法の才能は変わらないようだ。
「ふむ……どうかの?」
「魔法封じの腕輪としての機能は問題なく作動していますね。後は、もう一つの魔道具が使えるかどうかで判断できるかと」
魔法封じの腕輪改には、魔道具の使用に際してのみ魔力を外部に排出できるよう改良が加えられている……はずだ。
レイニーの言う通り、もう一つの魔道具を発動出来れば、どちらも成功したと判断できる。
「もし万が一作動しなかったときは……」
「私が代わりに。それでどちらの不具合かは把握できますよね」
「話が早くて助かる。しからば、早速使ってみるとしよう」
二つ目の箱を開ける。中から出てきたのは、一見何の変哲もないメガネだった。
装着する前に、一度全体を確認する。詠唱文は魔力を使って記されるらしく、我の目では何一つ分からない。だが、魔法封じの腕輪改を見る限り、レイニーは間違いなく設計図に忠実に作ってくれているという確信がある。
であれば、あとは我の設計図が正しいかどうか。
「ううむ、ドキドキするの……」
本来であれば、安全の為にも直接装着しての試用は控えるべきだろう。
だが、レイニーへの信頼、己の知識への自信、そして何よりも好奇心が我を突き動かしていた。
メガネ型の魔道具を身に着ける。違和感はない。度が入ってるわけでもないので、見え方も変わらないし、ちょっとしたお洒落なアイテムにも見えるだろう。
だが、本領発揮はこれからだ。
「……コホン」
軽く咳払いして緊張と不安を吐き出す。そうして、眼前に金属の鎧を被った的を見据える。
「ではいざ参る! これぞお約束! 目からビーム!!」
我の叫びに呼応するように、メガネのレンズ部分に光が集約する。瞬間、その光は綺麗な流線となって金属の鎧を貫いた。
瞬き一つの間を置いて、金属の鎧に拳より小さな穴が二つポッカリと空く。
「お、おお、おおおおおお!!」
それが成功を物語っていた。
そう、我が最初に生み出した魔道具はスーパーロボットに欠かせないビーム兵器を模したものだ。ビームの射出口といえば無数に思い浮かぶ。携帯する武器を除いても額、口、腹、指先などなど。その中で、最もロボットらしいビーム射出口はどこか。意見は分かれるだろうが、我にとってはやはり『目』だ。
物を見る為に存在するはずの器官から、逆に物を穿つビームを発射する。何ともスーパーロボットらしいではないか。
……いや、よくよく思い返せば腹ビームはいかにも強力な兵器という雰囲気があるし、指ビームは無数の敵を同時に狙い撃てる魅力がある。口ビームは人型である意味を一番表している感じがするし、額ビームは最後の必殺技感がある。
結論。どれもそれぞれの良さがあって素晴らしい。
が、今回は魔道具として形作りやすかった点と、最初にイメージが浮かんだ点でメガネ型となった……という事にしておこう。
ちなみに、我の目が逆光で眩んだりしないよう対策はちゃんとしている。安全確保にも抜かりはない。
この魔道具には必殺技名そのままに《グラスラインレーザー》と名付けた。
あくまで主体は必殺技の方なのだから、当然といえよう。
「やった! やったぞ! 見たかレイニー!」
世紀の大成功を前に興奮冷めやらぬ我がレイニーの方を見ると、レイニーはそれまでの感情はどこへやら、ただただ無表情に呆然と立ち尽くしていた。




