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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第二章『レイニー・キャスロックは夢を見ない』

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2-13「顛末」

 執務室にて、『私』はキミークと対峙していた。

 サクラとキミークの模擬戦が終わり、ちょっとした反省会といったところだ。


「どうでしたか、サクラ・ライゼンという少女は」

「……正直驚いた。あれはラギルとは違うな」


 事の発端はラギルとサクラが懇意であるという誤解からきたもの。サンディルム卿が重用しているキミークは、私が重用しているラギルがどうにも気に食わないらしい。そこで最近になってラギルと近しい存在が現れ、活躍しだしたと聞いて誤解したのだ。


「だからそう言ってるでしょうに」


 サクラもラギルも私が別々に雇い、依頼の為に協力を要請したに過ぎない。そう伝えても納得しなかったのはキミークだ。

 尤も、サクラは勘違いしていそうだが、キミークにはサクラが竜人である事は告げていない。それが誤解を加速させる一端になっていたのも事実だが、当然理由はある。

 仮に竜人が仲間に加わったと喧伝すれば、味方の士気向上と敵の警戒を呼び込めるだろう。それ自体はメリットだが、同時にサクラの所属を強制的に縛る事にもつながる。それは彼女から信頼を奪い、場合によっては怒りを買う可能性さえあるものだ。

 つまり、メリットよりデメリットの方が勝る。故に報告義務のある領主以外には、サクラの正体は伝えていない。知っているのは領主であるサンディルム卿とギルドマスター、《草原の導き手》とサクラの監視を頼んだラギルとロノッテだけだ。


「直接ぶつからねば分からん事もある」


 キミークは実に武人らしい言い分を語る。

 言いたい事は理解できる。言葉だけでは伝わらないものもあるだろう。

 特に戦士ならば、言葉よりも直接ぶつかり合う方が雄弁に語れるというのは分からなくもない。


「話だけで済む事も世の中には圧倒的に多いんですけどね」

「これは違うだろう。今更ゴチャゴチャ言うな」


 私としては、サクラとラギルの関係は聞けば理解できるものだったと思うのだが。

 良くも悪くも一直線のキミークには言葉よりも剣での対話の方が似合っているのも事実ではある。

 最終的に納得が得られたから良しと考えるしかなさそうだ。


「はぁ……サクラについては納得してもらえたんですね?」

「まぁ、仕方ない」


 キミークはやや不満そうに頷く。

 ぶつかりあった結果が惨敗だった事が原因か。不満があるというよりは対抗心を燃やしているのかもしれない。

 そういえば結局サクラについての所感を詳しく聞いていなかった。改めて問いかけてみる事にする。


「それで結局、貴方にとってサクラはどういう評価ですか?」

「難しいな……ラギルのやつは状況に素直だろ。

 負けそうな時は生き延びる事に必死になるし、余裕で勝てそうな時は調子に乗る。

 だがあれは、仕事は仕事と割り切っている。真面目に戦ってはいるが、気持ちはまるで乗っていない。

 そういう意味では、ラギルとは別の意味で不快ではあるな」


 感情が乗っていないというのは当然だろう。サクラにとってはただの依頼で戦っただけで、それ以上も以下もなかった。それでも目的は果たしているのだから十分だと思うのだが、仕事に情熱をかけるキミークには理解しがたいものがあるのだろう。


「彼女には夢があるそうですから。他事に構っている余裕はないのでしょう」

「夢……か。それは幸せな事だな……」


 そういえば、未だサクラの夢については詳しく聞いていなかった。スーパーロボットなるものを作りたいというが、一体それが何なのか。

 ただ、キミークがしみじみと語るように夢を持ち得るというのは幸せな事だ。

 誰でも夢を抱く事はある。幼い時分なら尚更だろう。

 だが、それは大人になるにつれ、そして責任や大義を背負うにつれ失われていくものだ。

 それ自体、悪い事ではない。責任の重さはそれだけ重要な事物に関われているという事だし、多くの人々の為になるという事でもある。対外的に見ても立派だと胸を張れる事だ。

 だが、時たまにそんな雁字搦めの大義よりも、自由な夢を見たくなる時だってある。

 眩しいまでに夢を語り、前に進もうとする者を見た時など特に――


「今回は面倒をかけた。この借りはその内に返す」


 キミークの謝辞に思考が遮られる。


「別に構いません。私にとっても有意義なものとなりましたから」


 キミークと同族に思われるのも遺憾なので敢えて言葉を濁したが、サクラの戦いから彼女の人となりが垣間見れたのは事実だった。

 それこそ今しがたキミークに語った通り、彼女は夢を何より優先している。その事に確信を持てたのは何よりの意義だろう。


「それでは私の気が収まらん。後で何か考えておけ」

「というか、それを言うならサクラに返すのが筋でしょうに」


 貸しを覚えておくのも面倒なので、方向を変える。実際、今回迷惑を被ったのは誰かと言えばサクラだ。一つ無駄にサクラに依頼する羽目になったという意味では私も対象になるかもしれないが、そんな事は些末な事。


「ん……む……そっちはそっちで考える! それでいいだろう!?」


 私の指摘に、キミークは何とも言えない表情で迷いに迷った様子の後、半ば投げやりな態度で勢いに任せるように押し通してきた。そんなにサクラに借りを作ったと思いたくないのか。

 結局私も貸しを作られた形になってしまった。いざという時が来るとも限らないので頭の片隅には置いておくことにする。そのまま置きっぱなしになるならそれでいい。


「では、失礼する!」


 身の置き所を失くしたように、キミークは逃げるように部屋から出て行ってしまった。

 あれでいて可愛いところもあるのだ。


 独りになり、急に訪れた静けさを肌で味わう。

 手元に寄せられた紙の束を持ち、ペラペラとめくりあげる。

 びっしりと記された文字の羅列と図面に目を走らせていく中、次第に私はその文面に食いついていた。


 読んでいたのは、キミークとの模擬戦前にサクラから渡された魔道具の設計図。

 魔道具の作り方を理解し、アイディアを認《したた》めたと言っていた。


 私が魔道具に関する本の閲覧を許可したのは、それによって彼女が魔道具の製作を諦めるだろうと踏んでいた面もあった。直接口で説明するよりも、その方が納得しやすいと思ったのだ。


 何故なら、新しい魔道具を作るという事は誰もが理解できるような普遍的な詠唱文を見つけ出す必要がある。それを魔法が使えないサクラが行おうというのは、未解読の古代言語を流暢に話してみせろと言っているようなものだ。


 だからこそ、本当に魔道具の設計図を書いてくるとは思わなかった。

 そして受け取った時に考えていた事は、どんな支離滅裂なものを書いてきたのだろうという恐怖だった。


 それでも何故、私自身が作成する事を約束したのか。

 サクラ・ライゼンが何者かを探るという一環の一つだから。私が断る事で市井の魔道具技師に持ち込まれでもして被害が出るような事は避けるべきだったから。

 どちらも間違っていない理由だ。

 だが、もしかしたら。

 万が一にだが。

 本当に、新しい魔道具を作ってしまうのではないかと、期待していたからかもしれない。


 そして、その万が一の期待に応えるかのように。

 目の前に広がる魔道具の設計図は極めて詳しく事細かに描かれており、完璧な設計図である事を誇示するかのような説得力を伴うものとなっていた。


 一つ目は、魔法封じの腕輪の改良品だ。

 魔法封じの腕輪は、体外への魔力の流出を妨害する効果がある。

 言い換えるなら、これがつけられていては魔道具も起動できない。

 故に、改良型では魔力の体外流出を特定のルートのみ解放できるようになっている。

 ついでに外部の人間の手を借りねば外せなかった機構も取り外されている。

 まさに、サクラ・ライゼンという個人の為の道具と言えた。

 記された詠唱文にも違和感はない。勘でしかないが、作れば成功する確信があった。


 そして、もう一つの設計図。

 こちらに関しては全くの謎だった。

 詠唱文として読もうとすると、文章は読めるのだ。しかし、単語が読めない。全く理解できない謎の言葉で溢れている。

 文字は読める。文章も読める。意味だけが読み解けない。


 この詠唱文を私が直接読めば、効果を発揮できるだろうか。

 答えは恐らく、ノーだ。

 そもそも、詠唱文だけで事足りるなら魔道具など不要なのだ。

 なのに何故魔道具が必要なのかと言えば、それは個人の魔力の性質に原因がある。


 魔力には個人差がある。それは亜人種が人間の姿を取るのに、必ず決まった姿になるという特徴の他に、使える魔法の傾向を示すという特徴があるのだ。

 魔法には大別して五色十系統の属性がある。

 赤色の《火》と《光》、青色の《水》と《氷》、黄色の《土》と《闇》、緑色の《風》と《雷》。

 これに人魔問わず全ての生命体に普遍的に存在する無色の《心》と《身》属性、これで五色十系統というわけだ。

 魔道具を用いずに使える魔法は、己の性質に見合った色の魔法だけだ。


 私の場合は全色に適性がある。

 だが、世の中には必ず例外が存在するもの。

 五色十系統を外れた色の魔力の持ち主が稀にいるのだ。そういったものは特色《ユニーク》と呼ばれ、独自の魔法を行使する才能を持つ。

 マジックバッグの原理を生み出したのも特色《ユニーク》の一人、《空間》属性持ちだったという。


 私は確信していた。

 この二つ目の設計図に描かれている魔道具は、特色《ユニーク》に属する何かだと。

 これを作ったところで、本当に機能するのか。

 特色《ユニーク》の才能を持たない私にはまるで判断できない。作って試すしか確認のしようがないのだ。

 だが、そんな未知への挑戦にどこかワクワクしている自分がいた。それを自覚した時、私は自分自身の心に驚きを禁じ得なかった。


 だから、決めた。

 この魔道具を一刻も早く完成させる事を。

 そして、その成功如何によって、サクラ・ライゼンへの処遇を決めると。

 何故なら、彼女の行いはもしかしたら大いなる変革をもたらすかもしれないのだから。

 それはル・ロイザを巡る情勢だけではない。世界を、私をも巻き込むものなのかもしれないのだから――

【お知らせ】

今回から更新頻度が変更になっています。

混乱させてしまい申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いします!

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