席が一つ足りないが俺は席を譲ろうと立つことはなかった
それから俺たちはしばらくして、朝食を頂くと、今日はどうしようか、ということになった。
すると、突然ノックもなしに、部屋の扉が開かれる。
「ようやく見つけだぞ!ここにいたのか、お前たち。」
それは、我らが教徒の崇め奉る女神ネメシスだった。
「どうしてここに、あなたが……」
天王院が疑問を口にする。
「どうしてもこうしても、あるか!私はお前たちのもとにわざわざ来てやったのだぞ。まあ、それはいい。それより急ぐぞ。これから、この街ブレイキの魔法学校の転入試験だ」
「え、それは一体……」
「私が昨日手続きを済ませておいたのだぞ。それともなんだ?行けないとでもいうのか?」
「い、いえ、行くわ。みんなも準備をしましょう」
何が何やらわからないまま、俺たちは準備を済ませると部屋を出た。
何やら馬車をつけていたらしく、俺たちは宿を出るとすぐその馬車に乗り込んだ。
「ふ~、やっと乗ったか」
先に馬車の前で俺たちを待っていた、女神ネメシスは俺たちが全員乗り込んだのを確認した後、馬車に乗り込んできてそう言った。
馬車の中は4人乗り用の広さで、ネメシスはどこに座ろうかと思案する。
席は向かい合わせである。
乗り込み口から見て右奥が天王院、その向かいの奥が俺の妹。
妹の横には町田が座り、その向かいには俺。
俺は馬車へと向かう道中、少し歩くのにもたついてしまったのでこの位置となった。
そして、ネメシスはまさかの俺の膝の上に腰かけた。
ハッ?
俺は抵抗を試みた。
しかし、ろくすっぽ足が動いてくれない。
くそ、こんなところにも筋肉痛の弊害が……。
それになんだかこの女神、思ってたより重くね?
やむなく抵抗を止めてから、女神に提案する。
「町田の方に乗ったほうが良くないですか?」
「あいつは私に抱き着いてくるから、うっとおしくて敵わない。嫌だ」
まあ、町田はネメシスのことが大好きで昨日のネメシスとの初対面の時には、いきなり抱きついてたしな。
じゃあ、と今度は俺の右側を見た。
天王院が自身の長い脚を伸ばして、それを妹の膝の上に置いていた。
おい、妹の膝の上は俺の場所だr……、じゃなかった。
俺の妹の上に脚を乗っけるな!脚を!
重いし窮屈だし、まだ、天王院の長い脚が膝に乗っている方が、俺もいろいろと気が楽なのになと思いました。
そうして、他に行かせる場のなくなった女神は自然と俺の上に収まることと相成ったのである。
ねえ、やっぱりこういうのって、同性の方が良いと思うんだ。
しかし、ネメシスは、私は気にしないぞ、と言って構わずにくつろいだように俺の上に座っている。
俺は年下派ナンダヨー。
年齢的には俺のおばあちゃんよりも、間違いなく上の膝の上の女神。
しかし、その年齢の割にその見た目は大人よりも子供に近いくらいだ。
女神だからって、高校生みたいな姿の見た目をしやがって、くそー。
俺は抵抗をあきらめて女神のなすがままに身を預けることにしました。
まあ、席が空いてないなら仕方がナイネ。
俺の横から浴びせられる天王院の視線がなんだか痛く感じられた。
俺をハメたくせに、そういう視線を人に向けるって、酷いと思います。
「ところでどうしたんですか、いったい……」
魔法学校が何なのだか、というのもそうだし、そもそもネメシスがこの世界に降り立っていることも不思議に思ったので俺は聞いてみた。
女神って気軽に下の世界に降りてこられるんだろうか。
町田が小さい頃、対面した時も下界に降りてきていたみたいだし。
「ああ、そうだな、お前たちは知らないだろう。説明をする」
ネメシスが、んんっ、と小さく声を出してから、改まったようにした後、説明が始まった。
今のは別にエロイ声じゃないからなお前ら。
そう言い聞かせていないと危ない、主に俺が。
真面目な口調で女神が言ったことによると、なんでも、この始まりの街で冒険者となるには魔法学校に通う必要があるのだそう。
期間は一年。
魔法学校は春からのスタートとなるようだが、ネメシスがそこは無理を押し通して転入出来るようにしたようである。
さすがは女神と言ったところか。
しかし、魔法学校というのは評価が厳しいらしく、しかも無事に卒業できないと正式な冒険者にはなれないらしい。
曰く、学校に通っている間は「冒険者見習い」と呼ばれる扱いになるみたいだ。
とはいっても、冒険者としてのランク付けや冒険者登録といったものは、既に正式な冒険者となった者たちと比べて過不足はないとのこと。
しかし、魔法学校を無事に卒業することが出来なければ、その時点で冒険者の資格は剥奪されるのだという。
落第や退学などがそれにあたるのだそうだ。
早い奴は1か月で退学し、冒険者(見習い)の資格は剥奪、学費も一年分戻ってこないらしい。
一応、一年で卒業できずとも、その次の年やそれ以降も含めて、再度挑戦することは出来るのだそうだが、年々、評価は厳しくなっていくし、魔法学校を卒業できない程度の冒険者が今後も冒険者としてやっていけるかは、まあ、お察しということだそうだ。
俺達はこれからそこへと通うことになるみたいである。
俺はそろそろ気になっていたこと、ネメシスがここにいる理由を聞きたくなった。
元の世界でネメシスが下界と天界の行き来を可能にしていたのは信者である町田が、必死に祈りとおしたからだと、昨日ネメシス本人から天界の間で聞いたのだが、この世界にネメシスがいるのは誰かが呼び込んだからなのだろうか。
でもそれにしては様子がおかしいような。
しかし、俺が疑問を口にする前に、神はのたまった。
「それで転入試験のことだったな。これはとても重要だ。その後の冒険者としての道を強く左右するんだからな」
何やらここはひとまず、聞くことに徹していたほうがよさそうな予感。
「転入試験で行った結果により、配属される学校のクラスが決定される。そしてそれはそのまま、冒険者としての等級にもつながるのだ」
おおっと、それは大変じゃないか。
最初のクラスが決まったら、冒険者としての評価とイコールということは転入試験とは実質、冒険者としての適性試験と言えるのではないだろうか。
「冒険者としての等級は4段階だ。評価の高い順からA、B、C、Dとなる。まあ、例外としてS級っていう、A級よりもさらに優れた階級もあるにはあるが、魔法学校にはそれに相応するクラスは存在しない。よって、お前たちが受ける転入試験ではA、B、C、Dのいずれかに配属されるかが決まるというわけだ」
なるほど。
「もちろん、評価の高い等級ほど、冒険者の数は少ない。よって必然、それに比例する形となって、魔法学校のクラス分けもなされる。魔法学校のクラスはaからvまでの22クラスがある。魔法学校のクラス表記は生徒が冒険者見習いということに準じてこの国ではアルファベットの小文字で示される。よって、こういうことになる」
ネメシスは文字が書かれている表を俺たちに見せてくれた。
それによると、冒険者A階級相当のクラスは、aのみ。
次に冒険者B階級相当のクラスはb、c、dの3クラス。
冒険者C階級相当のクラスはe、f、g、h、i、jの6クラス。
冒険者D階級相当のクラスは残りのkから順にvまでの12クラスということになっているそうだ。
そしてなんでも、冒険者階級の中では同じB階級相当でも魔法学校のクラス分けではアルファベットの若い順に評価が高いそうで、一番評価が高いのはb、続いてc、そして一番評価が悪いのはdクラスとなるようだ。
つまりは22クラスの中で一番評価が悪いのはvクラスになる。
しかし、冒険者でいうところのD階級に相当する学校のクラスは12クラスもあるという。
その数は他の冒険者階級のクラスの数と比べると圧倒的な数であり、その後半はもはや、貴族の子供が、冒険者のまねごとをするための一種の道楽施設のようなものになっているとのことだった。
魔法学校に通うための教育費はかなり高額なようだが、冒険者であることは一種のステータスになるのに加え、何かと便利となることも多いだとかで、金にものを言わせた貴族が上手く利用しているようである。
学校側もお金をもらえるからとそれを甘んじている。
win-winなのだそう。
ちなみに、俺たちの教育費は女神ネメシスが学校関係者に顔を利かせてくれたとのこと。
おおやるじゃないか。
女神という身分はこういう時に融通が利くのだろうか。
しかし、女神の力もそれ以上は及ばないようで、一年で卒業できなかったら、来年も顔パスは通じないとのこと。
もし一年で卒業できないのなら、冒険者になるのを諦めるか、自分たちで金を工面してくれとのことだった。
また、魔法学校の冒険者見習いでいることは正式な冒険者と違って優れている面もあるのだという。
安全面がその一つだそうだ。
冒険者になると魔法学校に所属している時にはあった、安全面等のサポートが受けられなくり、さらには過酷なクエストを受けることを強いられることも珍しくないとのことで、金にものを言わせた力で安全を買っている生徒たちもそれなりにいるらしい。
まあ、確かに金があるなら、権限的には大差がない冒険者見習いの方が安全面は優遇されるのだろうが……。
それは果たして良いことなのだろうか。
過酷なクエストを街や国が受ける際に、安全を求めて強い冒険者たちが金にものを言わせて出動を拒否したら、より弱い冒険者が過酷なクエストに派遣されるはめになり、そういった派遣される側の冒険者からしたらかなり危険かつ迷惑なことではないだろうか。
しかし、ここで考えているだけでは実態は分からない。
やはり、過酷なクエストを受けられるくらいの冒険者なら、魔法学校の援護などむしろ足手まといになるだろうとも想像がつく。
まあ、おいおいわかるだろう。
そんなわけで俺たちは転入試験の会場である、魔法学校に到着した。
少し話し足りなかったが、まあ、けっこういろいろなことを聞けたし良しとしよう。
よ〇実のシーンに似せるために最初は6人乗りにした馬車が4人乗りに縮みました。