やはり俺の朝チュンはまちがっている。
町田の直立したまま寝こけている姿に驚いた俺は、とりあえず、身体を起こす。
イタタタタ、身をよじってベッドから足を下ろそうとした動作で腰が悲鳴を上げた。
寝起きで腰が痛い、ってまさか……。
腰が……?痛い……?
俺は再度、昨日の夜に非健全な過ちを犯してしまったのではないかと慌てて記憶をたどる。
そして、心当たりにたどり着いた。
たどり着いてしまったのだ。
そうだ。
認めよう。
俺は遊びたかったのだ。
はっちゃけたかったのだ。
その衝動が俺を突き動かしていたのだ。
俺は思い出していた。
この痛みの原因を。
若気の至りってやつを。
そう俺は……。
時はさかのぼる。
修学旅行二日目。
そう、それは、俺たちが海で光の柱に飲まれた日、つまり昨日のことだ。
俺はクラスの友達や女子(女子に友達はいない)と遊ぶために、一見矛盾しているようにも思える、一旦遊ばないという選択をしていた。
筋トレは2日に一回が良い。
そんな先人の知恵を忠実に守るため、俺は2泊3日の2日目に思う存分筋トレに励んだ。
なぜなら、2日目の後半と3日目の一日中、俺はクラスメイトと遊びたい。
そのために日課の筋トレを早く全力でこなしたかったのだ。
遊んでいるという罪悪感を感じないために、3日目に筋肉痛でトレーニングをせずに済むように。
休息をすることは仕方ないのだと自分に言い聞かせることで、俺は思い残すことなく全力で青春を謳歌したかったのだ。
修学旅行は走ったり、激しく動いたりするものではない。
よって筋肉痛になったとしても楽しむことに何ら支障はない。
そう考えていた。
俺の修学旅行は二日目で消息不明という形で幕を閉じてしまったのだが……。
要するにだ。
「なんだ、筋トレをやりすぎての筋肉痛か……」
そう、おれは夜に何もなかったことを再確認したのだった。
そうこう頭を回していたうちに、隣のベッドで寝ていた女性陣が目を覚ます。
「おはようお兄ちゃん、琴ちゃんも」
「おはよう、神楽。あら、和人はなんでそこにいるのかしら」
身を起こした天王院さんがケダモノを見るかのような軽蔑の視線を俺に向けてきた。
おおっと、俺はここにいてはいけない存在だったようだ。
すでに手遅れだが、俺はこのベッドから、そして世界から存在を消すために立ち上がってここを離れようとする。
しかし……。
「っと、あぶねえ」
「あら、どうしたのかしら、よろめいちゃって、それに……。腰なんか押さえて、って、まさかあなた本当に……」
えっ、まじで?俺やらかしちゃってたの?
ほんとに?
天王院は見ていたのかしら……。
俺の頬が引きつってしまう。
頬がひくひくするってこんな感覚なんだ、と俺はこの時初めて知った
「うそ。冗談よ。あなたがそこで眠っていたのは町田さんが、昨晩遅くにあなたのことを思って、そこのベッドに運んであげたいって言っていたからよ」
私も彼女を手伝ってあなたを運んだのよ、と天王院は町田の方を見て言った。
っぶねー。
異世界生活二日目にして、パーティーから追放、及びこの世界から永久に追放されるところだった。
どうやら俺はまだ健全だった模様。
「彼女は言っていたわ」
それまでの俺をからかっていたテンションと打って変わって、少ししんみりとした声音に変えて天王院琴葉は言葉を続ける。
ことはだけに。
寒いな、おかしいな、異世界も今の季節は夏だっていうのにどうしてだか。
きっと天王院の放つ雰囲気のせいだろう。
彼女は凛として透き通るような声をその身に宿している。
その琴葉の続きを今は聞くことに意識を傾ける。
しかし、少しの逡巡を経て彼女は言葉を言い直した。
「いいえ、彼女だけじゃないわね。私にも当てはまるわ」
そして天王院は思い切ったかのように言葉を吐いた。
「ごめんなさい」
どういうことだ。
俺は考えようとする。
しかしその隙も与えないかのように彼女は続けた。
「私があなたを危険な目にあわせてしまったようなものだから」
話によると、どうやら昨日のサメとの戦いにおいて、俺に詫びたいところがあるらしい。
天王院はサメを引き寄せてしまう失態を演じ、今も眠っている町田は俺たちがここに来るはめになったそもそもの原因を引き起こした。
天王院は念のためにと思っての行動がまさかさらなる危険を呼び寄せることになろうとは思わなかったのだそうだ。
ちなみに天王院は自身の失態を昨日の夜、俺の妹に説明され、妹にはその時すぐに謝罪をしたという。
町田は自分が眠りこけてしまっていたせいでこうなったのに、そんな私を助けに来てくれた和人がベッドに寝れなくて、私がベッドの上でのうのうと眠ることなんて出来ないよと二人に話したらしい。
そのため、壁に寄りかかって床の上で眠りこけていた俺をベッドに寝かしつけたのだそう。
なるほど。
そういうことだったのか。
「まあ、そんなに気にしなくていいよ。過ぎたことは仕方がないからな」
「さすがはお兄様です」
申し訳なさそうに、俺の言葉に頷いた天王院の横から、俺の妹がチャチャを入れてきた。
たまに俺のことを茶化すんだよな、こいつ。
そんな妹がおどけた表情を見せる。
「まあ、のんきに焼きそばを食べていた私と違って、琴ちゃんは真っ先に異変に気付いて、私に助けに行こうと言ってくれなかったら、今頃お兄ちゃんは海の藻屑になっていただろうから。琴ちゃんは恩人でもあるんだよ。元気出して!」
「ありがとう、神楽。そうね、謝罪もできたし、少しすっきりしたわ」
妹は横に座る黒髪の同級生に語り掛けたあと、俺の方にその瞳を向けた。
「姫花ちゃんも、最後には私たちを助けてくれたんだし、みんな負い目に感じる続けることは無しにしようって、昨日の夜3人で話したんだ」
俺が眠っている間にガールズトークがあったようだ。
俺たちが話していると、町田が目を覚ました。
「あ、姫花ちゃんおはよう」
「おはよう~、神楽。琴葉」
「おはよう、姫花」
昨晩仲良くなったのか、町田は天王院と、打ち解けているように見えた。
その証拠に名前の呼び方が変わっている。
町田が俺も起きていることに気づくと近づいてきた。
「和人、昨日はごめんさない。私が間抜けなせいで」
「いいや、気にするな。お前が女神さまに最後のところで助けを祈ったから俺たちはこうして今も元気に身体を動かせてるんだ」
俺がそういうと、町田がありがとう、と呟いた。




