冴えない彼女(ヒロイン)の眠りかた
次に視界が開けた時、その光景は中世ヨーロッパ風とでもいえばおおよそ想像がつくだろう。
まあ、レンガ造りの街並みが並ぶ場所に俺たち4人は転送されていた。
空の色は茜色に染まり、もうじき日が暮れる頃合いだ。
道行く通りにはこれから飲みに行こうぜと語らいあう仕事終わりの人々の姿が多数見受けられる。
「ねえ、今、夕方よね」
天王院が俺の耳元で呟いた。
「そうみたい。まず私たちはどうしたらいいのかな」
妹は周囲の景色を見て興奮しながら俺に聞いてくる。
「そろそろ眠たくなってきた」
女神にもらった唯一の施しものである衣服を水着の上に着て、町田が眠そうな表情で目元をこすっている。
さっきも寝ていたのにもう眠いのか。
そうつっこみたくなったが、町田の意見も無視できるものではない。
「そうだな、日も暮れそうだし、まずは宿の確保をしようか」
こういう時は年長者の俺が頼りがいを見せるべきであろう。
今は一つ年の離れた妹と、秋ごろに誕生日を迎えるはずの町田、それに妹と誕生月が同じらしい天王院よりも俺は一つだけ歳を多く重ねている。
「そうね、初日にして野宿は先が思いやられるものね」
天王院も頷いたので、俺は近くを歩いていた通行人の一人に宿への道を尋ねることにした。
「おう、ムキムキのあんちゃん、どうしたんだ?」
女神から服をもらえなかった俺は、下は海パン、上は上裸の恰好のままだ。
ネメシスは男物の服は持っていなかったらしく、仕方がないので俺は海で泳いだ時のままである。
ちなみに妹と天王院はもともと海で泳いでいたわけではなかったので妹は薄着の夏服のまま、天王院の私服は血で染まってしまっていたため、町田同様に天界で女神から白い服を頂いていた。
「この街は初めてかい?宿は大体あっちの方に行けば多く見つかるよ。5分くらい歩いたところかな」
俺たちは道案内をしてくれた男性に礼を言った後、宿へと向かった
「はい、いらっしゃいお客さん方。4名様で?」
俺たちは目についた、素朴そうな宿の入口をくぐった所で受付のスキンヘッドなおじさんに声をかけられた。
「何部屋用意する?一部屋一泊で、最低価格は銅貨50枚だぜ」
女神から貨幣の価値を教えてもらっていたからわかるぜ、日本円でいうところの5000円程だ。
ネメシスから金をもらっていなかった俺は同伴者に尋ねる。
「誰か、金って持ってる?」
「「「ない」」」
まあ、知ってた。
ネメシスは貨幣の価値を教えといたくせに無一文で俺たちを送り出しやがったのだ。
冷やかしは帰りな、とおっちゃんに追い払われ、俺達4人は慌てて店内を後にした。
くそ、こうなったら奥の手を使うか。
俺は覇者の証を質屋に持っていくことを3人に提案した。
ちなみに俺の知っているソシャゲでは覇者の証はショップに持っていっても売れない。
「私の武器を売り飛ばそうというのね」
天王院が冗談めいた声音で上目遣いのまま、サメを屠る時に役立った相棒をかばう抵抗のそぶりをする。
「うそ、冗談よ。でも、こんなものを売って一泊分のお金になるかは甚だ怪しいものね。たとえ、一部屋分だけだとしても」
それある!(親指を突き立てての同意)
彼女の言っていることはごもっともで、そもそも買い取りが可能なのかさえ怪しい。
いちおう、武器として使えるくらいの金属の塊ではあるのだが。
とはいうものの、ダメもとでも聞きに行ってみた方が良いだろう。
彼女らを初日から野宿させるわけにはいかない。
最悪、俺は野宿でもいいのだが。
ということで、質屋にその鈍器を持って行った。
「んー、ちょっとそういうのはうちでは受け付けてないかな。それ加工とか大変そうだし。見たことない金属の、それも合金だから手の施しようがないよ。ほかの店でも断られると思うよ」
一縷の望みを託した作戦は一瞬で崩れ去った。
辺りはいよいよ、暗くなってきている。
俺もそろそろ疲れてきた。
さてどうしようか。
困ったぞ。
俺は仲間に相談してみた。
「そうね、もう、私も野宿でもいいわ。それか、夜の街を見て回って、明日までとりあえずやり過ごすのもいいかもしれないわね」
「私もそれでもいいよ。一日くらい寝なくたって、それにこの街を見て回るのも楽しそうだしさ」
天王院はなんてことないと身振りをつけて、妹はワクワクした面持ちで答えてくれた。
町田は?と思い、彼女の方に顔を向けてみると、まさかまさかの立ったまま、可愛い顔して、いびきをかいていた。
うん、コイツはこのまま野宿でも大丈夫そうだな。
寝ていた町田を残りの3人で、よくもまあ器用に寝ているなと感心して最初はそんな彼女を見守っていたが、30分経った頃、流石にこのまま道の端っこにとどまっている訳にもいかないと俺は肩を叩いて彼女を起こした。
「あれ?ごめん、私寝てたみたい」
「いいえ、謝らなくても結構よ。それよりも感心してしまったわ。よくもまあ、器用に寝るものね」
「私、こう見えて寝るのだけは得意なんだ」
どこからどう見ても得意にしか見えねえよ。
俺は心の中でそう突っ込み、辺りを見渡す。
周囲には人だかりができていた。
なんでも立ったまま倒れずに寝ている真っ白な服を着たお嬢ちゃんがいると、注目を呼び、見物人が次第に集まってきていたのだった。
これ以上人だかりが出来ては道をふさいでしまうと判断した俺は彼女を起こした。
半刻ほど前にさかのぼる。
数人の男性の見物人が町田の立ち寝姿に感心して俺達3人に話しかけてきた。
そして事情を知った彼らは俺たちに宿代を恵んでくれたのである。
おいおい、どんなストリートパフォーマンスだよ。
どこの世界でそんな稼ぎ方をする奴がほかにいるだろうか。
しまいには俺たちから彼女の名前を聞いた金を恵んでくれた男性が、彼女は眠り姫だ、とあとから言ったのがきっかけで。
「眠り姫だって?」
「おいおい、カワイ子ちゃんのあの娘には、ピッタリのネーミングだぜっ!」
「「「おおおーっっっ!我らが眠り姫がこの街に降臨なさったぞーーー!!!」」」
何やら一段と人ごみの喧騒は大きくなってしまった模様。
俺が受け取ったお金を預かり、一人で宿の予約をして彼女たちのもとへと戻ってきた頃にはすでに、辺りはお祭り騒ぎになっていた。
見物人に惜しまれる町田を連れて、俺たちは確保していた宿へとしけこんだ。
もらったお金はすべて宿代に消えてしまったが、夕と朝の2食付きの宿に泊まることが出来た俺たちは美味しく夕食を食べ終わった後、同じ部屋で泊った。
二部屋とる余裕がなかったため、俺は野宿でも良いと言ったが、妹はそれをダメだと言い張り、天王院も別に気にしないわ、と言ってくれたため、俺も町田の恩恵に預からせてもらった。
ベッドは二つあり、天王院は町田と。
妹は俺に同じベッドで寝ようと言ってきたが、俺は壁に寄りかかって座って眠ることにした。
や、別にいいんだけどさ、血のつながっていない妹ってわけでもないし。
けれど、もう何年も別々の部屋で寝ていた事実を振り返ると、どうにも気恥ずかしさは否めない。
そうだろ?
それに天王院が口元を抑え微笑を浮かべてなにかを期待したような眼差しを、こちらに向けていたような気がしたのでとりあえず妹の申し出は断っておいた。
だって、何か怖かったんだもん、あいつの生暖かい眼……。
そして次の日、俺はベッドの上で目が覚めた。
最初は見知らぬ天井に戸惑うだけで、次の瞬間はそうだ、修学旅行だからいつもと違う天井なのか、とも思ったが、数瞬後にはここが異世界だと思い出す。
そして気づく。
俺は寝相の良さには自信がある。
未成年だし、昨日は酒を飲んだわけでもないから酔って夜這いを仕掛けたはずもない。
となると誰かが、あるいは彼女らが協力して俺をベッドの上に寝かしつけてくれたのだろうか。
もしかするとこれは、朝チュンなのか?そうなのか?
しかし、俺のベッドの上には他に誰もいない。
もう一つのベッドを、首を横に向けて見ると、妹と天王院がまだかわいい顔をして、一緒のベッドに眠っていた。
なら、俺は町田と同じベッドで寝ていたのか?
町田は先に起きて、部屋の外にでもいるのだろうか。
そう思った。
しかし、現実は健全であった……。
町田は昨日、道端でやっていたように部屋の隅で器用に立ちながら寝こけていた。
えっ、それ、狙って出来るの?
朝チュン疑惑は次話まで続きます。




