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二十四話:最強勇者は平和に暮らしたい③

 俺はかつて世界を救った勇者である。

 俺の歩む場所には光が溢れ、反比例するように、俺の歩む先には濃厚な闇が漂っているばかり。――救っては照らし、救っては照らし。延々とそれを繰り返し続けた。

 心は磨り減っていき、俺はいよいよ持って勇者であり続ける理由を失いつつあった。……そうだ、そもそも俺は、戦闘や争いとなんら関係ない一般人。まず、こんな戦いを続ける意味も理由もない。

 そう思っている中で、度々あった魔王の襲撃は、俺にとっては一種心の癒しとなっていたのも自由だ。

 アイツが俺の周囲で騒ぐと、不思議と元気が湧いてくる。……敵と味方であった当時は、そういう感情を抱いてはいけない、と思いながらアイツを切り飛ばしていた。

 ……ひどいことをしたと思っている。辛い思いもきっとさせただろう。だから、俺はその分ヒョウゲツにお返ししたいし、ヒョウゲツが過去の俺のようになっている時には、手を差し伸べてやりたい。

 以前仲良くできなかったから、今度こそは。――俺のそんな決意を踏み躙ったあいつらは許さない。ここで、アイツらの手足は潰すべきである。


「……ヒョウゲツ」


 背中に背負うヒョウゲツの暖かさと柔らかさを感じて、人を殺したことによってささくれ立つ心が凪いでいく。

 最初にクラスメイトへと洗脳系の魔法をかけようとしたのもそうだが、何よりもアイツらはヒョウゲツに手を出した。

 それがどういう行為なのか、そしてその結果はどうなるのか。――刻み付ける。痛々しいまでに。

 それから、街へ到達するのには三十分とかからなかった。未だ背中で意識を失っているヒョウゲツのことに気をはらいながら、俺は教会へと進んでいく。

 ……静かな夜だった。街に活気はあるものの、今俺たちが進んでいる場所が静かだからだろうか。あるいは心が凪いでいるから、といった可能性があるかもしれない。――ともかく、俺は教会へと目指して一歩一歩を進めていく。

 

「……物々しいな」


 そうしてたどり着いた教会の印象を一言で称すると、この言葉に集約した。白亜の大建築物である教会だったが、今は周囲に展開される兵たちの殺伐とした雰囲気も相まって、確かな威圧感を有していた。

 俺はそんな建物をぐるりと回って、裏から入る――でもなく、何らかの小細工をする――でもなく、堂々と、ヒョウゲツを背負って正門に立った。


「……おい、アイツは」

「討伐隊が出向いたはずだ。ここにいないということは――総員、戦闘準備」


 一斉に槍やら弓やらを俺へと向ける彼ら。そんな彼らを無感情に見つめながら、つぶやいた。


「まぁ、こうなることはわかってた。――だから、押し通る」


 その一言をトリガーに、兵士たちから弓矢が飛んだ。

歯のお医者様に掛かっています。日がな一日中、歯を細い針で穿たれるような痛みが続いています。皆様も、歯のケアには十分にご注意くださいませ。

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