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私の周りにぎゅうぎゅうに集まって来るもふもふしい生き物達。
ドラゴンさんは尻尾の毛が極上のサラツヤだ。
「サラツヤにもふもふだ……!」
その時ドラゴンさんの尻尾に包まれて――ああ…………思い出した。
この場所の事を思い出した。あの生活を。あの使命を。
「……私……覚えてるよ……ナナ、ロイヤル、ボス……」
涙が、出てきた。
そして――
真っ白な光に包まれ、先程のソファーにいつの間にか座っていた。
目の前には2人の男性。あの時、私がお願いした姿形そのままの。
「……なんで……っ……ここっに……いる……んですか……<地球>さん」
涙が次から次へと溢れて止まらない。
でも無理やり笑顔を作る。
「チカチカ……っさん……<地球>さんは、重病人……なんだから大人しく……っしとかないと……」
そう言いながら2人に飛びつく。
が、
「わっ!?」
……すり抜けて向こう側のベッドにダイブする形になったんですけど。
涙が一気に引っ込んだんですけど。
「わ! ごめんはるちゃんうっかりしてた~! ほらもう大丈夫! いつでもカモン、カモンナウ!」
「……もういいです」
「めっ! そんな顔しちゃダメ!」
「いたたたた」
なんでチカチカさんが眉間の皺を伸ばしてくるんだ……!
「普通はこういう場面では力強い抱擁の出番だと思いますー。私の乙女心が可哀想ですー」
「ごめんてば! ほら!」
「……じゃあ2人同時に均等に抱き着きますからね? 力の限りのジャンプをお見せしますからね? ――お2人共もう少し寄ってください」
「お前さ、ここは先輩に気を遣って1歩下がるべきじゃない?」
「はるが均等にって言ってますから」
「あのさあ、言いたくないけど――」
「ただいま!!」
喧嘩をし始めたのでごちゃごちゃ言ってる間に抱き着いた。
「ここに戻って来られて嬉しい! <地球>さん元気そうで嬉しい!」
また溢れてくる涙。
「お帰り」
見上げると笑顔のチカチカさん。涙がさらに溢れてきた。
「<地球>さんも元気そうで――あれ? えーと……? ここにいるって事は……休眠期を回避して……え? あれ? ただいまで合ってます? んん?」
自然とエスクベルに戻ってきたという事は理解できるが、ここに至るまでの経緯が――
「えへへっ、ごっめーん! はるちゃんのお帰りサプライズを演出するための力の制御を失敗しちゃって――あのさあ、お前の子供達さあ、ちゃんとシナリオ通りに動いてもらわないと困るんだよね~。あんなに一気に登場しちゃって。物事には順序ってものがあるんだからさあ」
「待ちきれないって言ってたのはあんたですけど」
「ちょ、ちょっと! 力の制御の失敗って何ですか!?」
こっちをほったらかしで揉めないで欲しい。
そしてあれは演出だったのか……。
「あのね、まあ簡単に言うとまた記憶がポーン!」
「ええ……?」
またか! おい!
「年を重ねたはるちゃんが徐々に記憶と若さを取り戻すって感動演出をしようと思ってね」
自分で感動言うな。
「僕も少しは回復したけどまだ元気いっぱいとは言えないからさ、はるちゃんが僕の所に戻ってからここに戻ってくるまでの記憶が上手く引継ぎ出来なかったんだ」
「あ、そうですよね……」
そうだ。今にも休眠期という名の静養に入るかどうかってところだったんだ。責めちゃいけない。今ここにいてくれるだけでありがたい。
「まあ光の柱演出は外せなかったから余計にこう、ポーンとね! ――わっ反抗期はるちゃん! こっちこっち~」
つい拳でぐいっと攻撃をしてしまった私は許されると思う。
攻撃は惑星2人プラス島のみんなとの追いかけっこに発展して遊び疲れた。
その後ベッドでごろつきながら詳しい話を聞くと、どうやら<地球>さんがこれまでエネルギー集めの仕事をお願いした優秀な人達の子孫が休眠期回避に役立ってくれたらしい。
もちろん私もほんのり貢献はしているらしい。偉い、私。
でも<地球>さんは「ほんのり」を連呼し過ぎだと思う。
優秀であるがゆえに異世界を混乱させてしまい、更には地球に戻って来てから異世界とのギャップに苦しむ人達を見て私のような普通の人間を選ぶ方向に変わったと教えてもらっていたが、その子孫達が<地球>さんを救った。
なんだか<地球>さんの人への愛情が巡り巡って本人に還ってきたみたいで感慨深い。
そして、なんと、私に、孫がいたらしい!
「結婚したんだ私! へえ~!」
「融通が利かない真面目惑星のとこにお世話になってた子だよ」
「とても気になるワード!」
「はるちゃんと戦友みたいな、はるちゃんと同じくらい普通の子だよ」
いや、言い方。
「はるの孫の名前は『チカ』」
「あのさあ、それはただ『アース』とか『ピュー』って名前が日本ではおかしいから消去法で選ばれただけだからそこのところ勘違いしないでもらえる?」
「近状報告はできるからいつでも聞くといい」
チカチカさんのスルースキルよ……。
チカチカさんは必死で<地球>さんに話を振って意識を逸らした私を褒めても良いと思う。
「――さ、はるちゃん! そろそろ降臨行くよ!」
「へい?」
マッチャに頭皮マッサージ――早く記憶が戻りますようにの気持ちを込めて――をしてもらいながら話を聞いていると、地球さんが何やら張り切り始めた。
「はるちゃんってば僕の所での生活の事ばっかり聞いてきてこいつの世界の事はあんまり興味ないかもしれないけど~後輩には悪いけど!」
「いやいやいや、人生の大半の記憶をなくしてるんですから<地球>さんがこっちにいる間はそりゃあ地球を優先しますよね?」
元凶が何を言ってるんだ。
しかもエスクベル生活はこれからたっぷりと時間があるからね。ふふふ。
私の能力もパワーアップしてるみたいだしね。ふふふ。
「えーと、チカチカさん、クダヤの街はまだありますか?」
とうとう気になっていた質問をする。
「ある」
「良かった~」
実はクダヤの現状を知る事に若干の不安がある。
知っている人が全員いなくなってたらさすがに悲しいし。
「だからねはるちゃん、今日は祝祭初日だから降臨に行くよ! なんせ僕の為の祝祭だからね!」
「あ、祝祭の伝統は残ってるんですね」
「降臨は毎年の恒例行事にしても良いと思ってるんだ~。去年の巨大光人間とは趣向を変えて――」
ん?
んんん……?
「……去年?」
「もう! はるちゃん忘れちゃった~? あの海の水を纏う演出!」
違う、そういう事じゃない。
話が早そうなチカチカさんに視線を向ける。
「はるの感覚で言うと、今はあの時から1年くらい経ってる」
おやあ……?
「人間達は神の戦いに出陣した御使い様のご武運を祈るって張り切ってる」
「…………ひいっ!」
とうとう悲鳴が出た。
「ほらはるちゃん準備して!」
「嫌だ嫌だ嫌だ! あんな大げさな感じでお別れして翌年ひょっこり戻って来るとか恥ずかしすぎる!」
これは確実に人生の中で1位にランキングされる恥ずかしさだと思う。間違いなく。
クダヤの人も反応に困ると思う。ぎこちない笑顔とか向けられたら恥ずかしさで泣ける。
「10年くらい島に籠ってから降臨じゃだめですか……?」
「1年も10年も大して変わらないから大丈夫!」
「変わりますよ……!」
もうやだ惑星の時間感覚。
「同じような境遇でまた生活できるって説明したのにはるちゃんてばうっかりさん!」
「昔話パターンで時間の進み方が違う可能性もあると思ったんですよ!」
助けを求めるようにチカチカさんを見る。
「こんな服もあるけど」
やばい、チカチカさんも乗り気だ……。




