大仕事
ゴーレムさんが現れるまでの1週間、いつも通りの日々を過ごした。
お店をゆるゆる営業したり、アレクシスさん達に護身術の稽古をつけてもらったり、ライハさんとスヴィちゃんと午後のお茶会をしたり、ガイアちゃんに穴の開く程見つめられたりした。
ちなみにアルバート兄のレオンさんの契約プロポーズは断った。
少女漫画の主人公みたいな気持ちで調子に乗っていたらチカチカさんに真顔で頬を突かれた。痛い。
もちろんサンリエルさんは毎日拠点近くをウロついていたし、新しい家具や調理道具を運んできてくれたヴァーちゃん達に叱られたりしていた。
族長さん達にも「気がつくといない」と注意されていると聞いた。
そして甥っ子アルバートさんには、クルトさんの妹リタちゃんの事を質問してカセルさんと一緒にニヤニヤしたりした。
でもアルバートさんは守役様全員に近距離監視されながら拠点の畑でキウイメロンの収穫をしていたのでそれどころじゃなかったようだ。
収穫する順番まで指示されていてちょっと笑った。ごめん。
そしてゴーレムさんがとうとう――
「はあ~…………これは確かにでかい……」
眼下の海に、ぽつんと小さな島が見える。
実際は島ではなくゴーレムさんの体なのだが。
でもまだ木とか生えたまんまだし……。
チカチカさんから姿を現したと教えてもらい、雲に隠れてボスの背中の上で観察を続けているが、大陸が出来上がる早送り映像を見ているみたいでなかなか面白い。明るい時間帯で良かった。
振袖衣装がかさばるのでごろごろしながら観察できないのが残念ではあるけど。
「リンサレンスの人達は見えてます?」
「避難してる」
「よし、じゃあそろそろ魔法の絨毯で街の上空を飛びますか」
御使いが来たよ安心してねアピール。
私は浮いているから分からないが、陸では現在地響きがしているらしい。天然のBGMだ。
ゴーレムさんを追いかけてきた魔物関連の被害がどのくらい出ているのかは聞いていない。
聞いたところで私に出来る事は限られている。
チカチカさんのおかげなのか今目に見える範囲に魔物は見当たらないが……。
私の仕事は雷充電と自分に言い聞かせながらリンサレンスの港街上空にスタンバイした。
「おお~見てる見てる」
チカチカさんとマッチャコラボの透明結界に護られながら、ややゆっくりのペースでゴーレムさんに向かう。
もふもふに挟まれてバランスをとりながら絨毯の上に立っているが、神の杖は本当に便利。
山道とかもこれでいける。
港町の人達で屋根に登ったり、窓から身を乗り出すようにしてこちらを見上げる人が増えてきた。外に出たままの警察官のような人達もいる。
「証人がこれだけいれば大丈夫ですね。信じて街から逃げ出さずにいてくれて助かりました。ミナリームとクダヤにも早く情報が伝われば良いな」
「3人分は間者を送り込んでる」
「わ、情報戦だ。領主っぽい事してる~! 一族……は目立つから無理か」
「前捕まえた間者」
「おお?」
2重スパイ……?
「マケドの人ですよね? それ心配じゃないですか? すぐ裏切りそうですけど」
「大国の理不尽な要求から逃れたい小国」
「……大国……ミナリーム……はいはい、なるほど」
ミナリームへの批判が高まっている今、マケドの間者はクダヤについた方が得策だと考えているんだろう。
「それに定められた期間内に解毒薬を飲まないと死に至る薬を飲ませてる」
「おおう……」
こええ。
それでいつ頃ゴーレムさんが姿を現しそうか聞いてきたのか。
ブラックサンリエルに思いを馳せている内に海上に出た。
途中あちこちから「お助け下さい」やら「神の使いが」なんて言葉も聞こえてきたので救世主アピールは成功だと思う。
「よし、じゃあボスお願いします」
それっぽく杖を振り下ろすと、物凄い咆哮と共に目の前のゴーレムさんに雷が落ちた。
「う……わ……」
体がなんだかしびれている感覚がする。
ボスの声を聞いてみたかったので完全に音を遮断しないようお願いしていたのだが、これにはまいった。
しかも雷は一度だけではなく何度も何度も――
「うわうわうわ」
もはや流星群。
これ、世界の終わりみたいな光景なんですけど……。
「……チカチカさん、街の人達は今どんな感じで……?」
「地面に這いつくばってる」
「……へい」
なんか……ごめん……。
申し訳ない気持ちで流星群を見ていると、急にゴーレムさんが震え出した。
そのせいで海が荒れに荒れて波がとんでもない事に。
そして――
ゴーレムさんが爆発した。
「ぎゃーーーーーー!!」




